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社長の始末書 30 枚目〜愛の究極の反対語〜

どんちゃんアカデミア

以前、くまさんとの会話でも出てきた「愛」という言葉ですが、「認める」という意味があるのは分かります。

でも、その究極の反対語とは…?

「マザーテレサのおっしゃる、『無関心』ではないんですよね?」

「うん違う。キューキョクの反対語だからね。」

「愛憎って言葉があるくらいですから、憎しみでしょうか?」

「それも究極とは言えないかな〜。他には?」

「他ですか…。」

私は答えに詰まってしまいました。

するとどんちゃんは腕を組んでこう言いました。

「オレが当時思ったのは、愛の究極の反対語は『孤独』なんじゃないかって。」

私はこの瞬間、胸の奥でズーンという、魂が揺れるような重い衝撃を感じました。「この話はとっても大切な気がする!」と思った私は慌ててメモを取り出します。

今回の記事は、このときのメモがあったおかげで詳細に書くことができています。

「ニンゲンたとえば病気になったり、失恋したり、失業したり、お金がないとか、苦しい時があるよね。そんなとき、悩みのすべてを家族や仲間や友人に打ち明けて、力になってもらえたら超心強いし、うまくいけばその苦境を挽回だってできる。

つまり人は、支えてくれる誰かさえいれば、悩みにはある程度打ち勝てるんだよ。でももし、周囲に誰もいなかったら?」

「かなり厳しいですね…。」

「うん。でもオレはノイローゼになったとき、誰にも相談しなかった。むしろ隠した。

だけど結局はオレの心が病んでいることを家族に気付かれ、それをきっかけにみんなに助けられた。だからオレの場合はすごくラッキーだったと思う。

しかし考えてみれば、オレのノイローゼの原因は悩みを一人で背負い込んだことにある。つまり、オレ自らが孤独の道を選んでいたことがそもそもの失敗だったんだ。」

「それは私もまったく同じだったと思います…。」

「うん。俺たちは誰にも心配をかけたくないという一種の気遣いと、ひとりよがりなプライドで、心のシャッターを下ろしてしまった。すると当然、誰ひとり入ってこれない。

そうなると待ってましたとばかりに影に潜んでいた孤独のツタがじわじわと全身に絡んでいき、気が付けば身動きが取れない。もう助けを呼ぶことすら出来なくなるんだ。」

そのとおりです。私も自分の行動を思い返し、冷や汗が出てきました。

「じゃあサトシ、もう一個質問。SNSが流行った理由は?」

「…承認欲求って言われてますよね?」

「つまりそれは、なんの反対?」

「あ、孤独の反対ですか?」

「そう。人は孤独を避けたいから、投稿を通して誰かと繋がり続けたい。これはニンゲンが持つ孤独感が大きな経済循環を生んでいる好例だよね。

SNSをはじめとしたネットサービスは、孤独から人を救う偉大な発明だとオレは思う。もちろん、使い方を間違えば人を傷付けてしまう怖さもあるけれど。

あとはスマホも同じく、人の孤独の乾きを潤した功績は非常に大きいよね。『最強の孤独感打ち消しツール』と呼べる側面もある。

その他、学校、会社、結婚。

制度の良し悪しは別として、オレにはこういう社会の仕組み自体が、人々の孤独を減らすための意図も帯びているように見えてならない。

なぜなら、孤独は我々人類における最大の敵だったからだよ。」

「最大の敵? そんなに怖いものなんですか?」

「孤独は、死より怖いんだ。

たとえばいじめられた人が死を選ぶことってあるよね。これは絶対にしてはいけないことだけど。

じゃあなぜ死を選んでしまうのか。それはつまり、死ぬことよりも孤独がつらいからだよ。孤独感に耐え続けることは、死ぬことよりも怖いことなんだ。

さらに怖いのは、自殺をしてしまうと、味方だった周りの人の心も殺してしまうこと。生き死には、そのひと一人の問題じゃないんだよ。

ひとりの自殺が大量殺人に繋がりかねないということを、俺たちはもっと理解していく必要があると思う。」

「・・・たしかに、そうですね。じゃあ孤独感を減らせたら、いじめや自殺も減っていくってことでしょうか?」

「おっしゃるとおりだと思うよ。

まず、オレが思う孤独の定義とは『こころがひとりぼっちの状態』のこと。

例えば、今まさにひとりぼっちで苦しんでいる人への何気ない声がけや継続的な愛情表現などは、その人の凍てつくような寂しさをあたためる光となりえる。

あとは、サトシを病院に連れて行ってくれた奥様の行動なんかも立派なお手本だよね。

そうやって既存の孤独感は、周囲の努力次第でなんとか減らしていけるとは思う。

だけど難しいのが、新規の孤独感を減らすこと。

それこそスマホに代表されるように、インターネットが高度に発達した個別主義社会では、孤独はステルス機能を身に付け、今やあらゆる場所に隠れ潜んでいる。

奴らはニンゲンの苦悩の隙を突いて、ふいに攻撃を仕掛けてくるんだ。」

私は想像しました。今にも飛びかかりそうなトゲトゲのタコ足をゆらゆらさせながら、目には見えない「ステルス孤独」が人間の油断を狙っている姿を。

なんだかSF映画を見ている気分になってきましたが、同時に私は背筋が寒くなる思いがしました。なぜなら私はその敵に囚われた身だからです。

「でも逆にこうも言える。孤独があるおかげで、人間は愛を求めることができる、と。

だから、愛は孤独から生まれるんだよ。

孤独は愛の母。ありがとう孤独。なんなら色即是空ならぬ愛即是孤独なんだよ。あいそくぜこどく、こどくそくぜあい。…言いにくい!」

どんちゃんはひとりで大笑いしています。

「まあとにかく、孤独に対する理解とその対策は人類の命題。そのために宇宙は俺たちにあるものをおすそ分けしてくれたんだって、オレは思ってる。」

「宇宙からのおすそ分け? なんですかそれは?」

「不完全さ、だね。」

「不完全? いやいや、そんなのダメじゃないですか!」

「最高の贈り物だよ。例えば、発達障害って言葉があるよね。」

「はい。」

「オレなんかもきっと昔っからなにかの発達障害だし、くまさんだってオモシロおかしいところあるし、サトシもおそらくそうだぜ?」

「はい、間違いない自信があります!」

「じゃあ発達障害の反対語は?」

「え? いわゆる、健常ですか?」

「それってまあ中間ってことでしょ? じゃなくて、究極の反対語で言うと?」

発達障害の究極の反対語? 

私はまたさらに脳幹が沸騰してくるのを感じていました。


〜つづく〜


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