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ハリネズミのチッチ

絵本「ハリネズミのチッチ」
ページ解説部分は有料です。

「ハリネズミのチッチ」
文 さとし
絵 みく

これは、とあるハリネズミのおはなしです。


ハリネズミのチッチはとってもあわてんぼう。
わすれものだっていつもたくさん。

でもね、
チッチは
一生懸命に
生きているのです。

ある日、チッチは森の中で
迷子の猫に出会いました。
猫はとてもお腹をすかせたようす。

猫になにか食べ物を
あげたいと思ったチッチは
森の中をかけまわり
たくさんの果物を集めました。

きっと、よろこんでくれるだろうと
思っていましたが
猫はチッチに言いました。

「おチビのトゲトゲくん
 わたしは猫よ
 果物なんか
 食べるわけないじゃない」

チッチは肩をおとして家に帰りました。
親切にしたいと思っただけなのに
どうやら、空まわりしてしまったようです。

ある日、森の中で
うさぎのお誕生日パーティーが開かれました。
切り株の上にならぶ
たくさんのご馳走とプレゼント。

チッチは背中のトゲトゲを
綺麗にみがいて
お誕生日パーティーへと出かけました。

美味しいご馳走を食べながら
楽しい時間があっという間に過ぎていきます。

チッチがうさぎにプレゼントを渡そうとしたとき
チッチの背中のトゲトゲが
うさぎの手にふれてしまいました。

うさぎは大声で泣いてしまいました。
せっかくのパーティーがだいなしです。

チッチは申し訳なさとはずかしさで
頭がいっぱいになり
プレゼントを抱えたまま
パーティー会場からとびだしてしまいました。

キレイに磨いた背中のトゲトゲが
悲しそうに光っています。
おともだちによろこんでほしいと
思っただけなのに。

ある日、その日は嵐でした。
チッチは雨に打たれながら
家に帰る道を一生懸命に走っていました。

やっと家にたどりつきましたが
なんと、チッチの家の前で
猟犬が雨宿りをしているではありませんか。

猟犬はチッチをみるなり
キバをむきだしにしました。
びっくりしたチッチは
命からがら逃げ出しました。
ただ、自分の家に帰ろうとしただけなのに。

チッチの心は雨にぬれた
コケのようになってしまいました。
もう、この森には居場所がないのかもしれない。
チッチはとぼとぼと歩き続けました。

きがつくと
隣の森へとつづく
橋のところにきていました。

すると、橋の向こうから
ハリネズミの女の子が
肩をうなだれて歩いてきました。
2匹はしばらくのあいだ見つめ合いました。

そして、チッチは駆け出しました。
涙のしずくがチッチの頬をつたいます。
チッチには、その子が肩をうなだれて
泣いている理由がわかるのです。

何もきかなくても
チッチにはわかるのです。
その子の持っている苦しさと痛みの大きさが。
ハリネズミの女の子も
チッチに向かって駆け出しました。

そして、2匹は橋の真ん中で泣きました。
ふわふわのおなかを
くっつけあって泣きました。

どれくらい時間がたったでしょう。
いつの間にか雨はやみ
雲の間から顔を出した太陽が
2匹をやさしく照らしていました。
「見て、世界がキラキラしている」
チッチはにっこり笑って言いました。


今までたくさんあつめてきた
小さな失敗の数々が
太陽の光をあびて
輝きはじめています。

「たくさん泣いたけど、
たくさん幸せになれるんだ」
チッチは小さな声で
すこし照れながら言いました。

それから、2匹は手をつないであるきだしました。
背中のトゲトゲをほこらしげに、
まっすぐ前を見つめながら。

小さな森に戻ったチッチは
勇気を振り絞って
猟犬に立ち向かいました。

猟犬はチッチの勇気におどろいて
どこかに行きました。
ぼくの背中のトゲトゲは君を守るためにあるんだ。
チッチは心の中でつぶやきました。

チッチは小さな工夫で
2匹の毎日を楽しく飾ることにしました。
うさぎの子にニンジンを
プレゼントするときは
浮かぶ風船にカゴをぶら下げて
ニンジンを落っことさないようにしてみたり。

猫の好きなお魚を
一緒に釣りにいったりしました。
とはいえ、ハリネズミのチッチは
とってもあわてんぼう。

忘れ物だっていつもたくさん。
でもね、チッチは一生懸命にいきているのです。
大好きだよ、チッチ。

おわり

読んでくれてありがとう!


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シーン解説

表紙の周りはパッチワークをイメージしています。みく(イラスト担当)の家族がパッチワーク好きなのが影響しています。
たくさんの個性が調和して良いものとなる。そんな心地よい空気感が好きです。

当初、主人公の名前はロンド(輪舞の意味)にする予定でしたが、馴染みやすくてかわいい名前に変更することになりました。同じ音を2回繰り返したいとのさとし(文担当)の要望により、50音を繰り返しながらたどり着いたのがチッチです。

あせる自分を見て更にあわてるチッチです。なんでこんな状況になったのか理解できることは稀です。

チッチは時計と良いお付き合いができていません。気がついたらおでかけの時間。おうちのカギどこだっけ帽子はどこだっけ。物を落としたりあたまをぶつけたり。
そんなチッチを時計は優しく見守ります。秒針の刻む音がチッチを慌てさせないよう控えめに時を刻みます。

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