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バーチャル時々リアルは成り立つか?

コロナ禍で疑似体験したアフターデジタルの世界観

これまでの世界観では、リアル(店や対面)で接点を持つ人が、たまにデジタル(EコマースやSNS)でもつながるというのが一般的な考え方でした。しかし、モバイルやIoTの浸透によってあらゆるデータが捕捉可能となると、リアルの世界がデジタルの世界に包含されます。『アフターデジタル』(藤井保文・尾原和啓著、日経BP社)では、このような世界をアフターデジタルと呼んでおり、デジタルで常に接点があることを前提とし、リアルな接触はその中の特別な体験の一部となると説明しています(図1)。新型コロナウイルスの影響による外出自粛で、バーチャルで会議をすることが通常となり、実際に対面するのが、その中の特別な体験の一部となったことを経験した人も少なくないでしょう。つまり多くのビジネスパーソンがアフターデジタルの世界観を疑似体験したことを意味します。

図1.世界観のデジタルシフト

図2

新型コロナで露呈した企業のDXへの遅れ

史上初の緊急事態宣言に伴って、政府はテレワークや出社制限を推奨しましたが、厚生労働省とLINEが共同で2020年3月31日~4月1日に実施した第1回目の調査では、仕事でテレワークをしている人は約14%とごくわずかにとどまったとのことです。以前から在宅勤務などを推進していた企業は迅速に対応できましたが、慌ててウェブ会議だけは導入した、あるいは結局ほとんど対応できなかったという企業が多く見られました。
 確かに、店頭での接客、建設現場、工場の組み立て作業などテレワークの困難な業務が存在するため、全面的に対応することは困難かもしれません。しかし、紙の請求書を作成して郵送しなければならない、契約書にハンコを押さなければならない、営業日報を社内独自のシステムに入力しなければならない、電話と対面しかコミュニケーションの手段がないなど、通常のオフィスワークさえもデジタル化されていないことで全面的な在宅勤務に踏み切れなかった企業も少なくないのです。
 一方、これらの問題のほとんどは、既に成熟した利用可能な技術といえる情報のデジタル化、インターネットやクラウドの活用などで解決できるものです。これには、システム化の問題だけでなく、報告や承認のプロセス、就業規則、人事評価制度などが整っていないことが阻害要因となった面もあり、DXの環境整備のために企業内変革も必要となることが改めて問われたといえます。すなわち、多くの企業がアフターデジタルの世界に対応できていなかったことが証明されたといえるでしょう。

アフターコロナで企業に求められる対応

経済への影響が甚大となることが予想されるアフターコロナにおいて、企業に最初に求められるのは世界的な景気後退への対応ではないでしょうか。当然のことながらコスト削減も重要な課題となるでしょう。また、世界的に保護主義や生産の自国回帰への動きが強まりグローバル戦略にも見直しが迫られる可能性があります。
 しかし、その際にビフォアコロナの時と同じ事業を、同じ場所で、全く同じビジネスモデルで、同じ業務プロセスによって遂行しようとしてはなりません。調達、生産、物流などの拠点や方法もリスク回避やリスク分散の観点から見直しが必要となるかもしれませんし、それをダイナミックに変更できることが求められるかもしれません。すなわち、有事を含めたビジネス環境の変化に迅速に対応できるように、変化適応力の高いビジネスモデルや業務プロセスを再設計する必要があります。
 雇用や働き方についてもビフォアコロナと同様に、フルタイムの従業員が毎日オフィスに出社して、集合会議を行って、口頭や紙の文書で指示や報告を行うようなスタイルに戻ってしまってはなりません。バックオフィス業務や事業部門での管理系業務も、全てペーパーレスで、クラウド上で行えるように再構築しなければならないでしょう。多様な働き方を受容できるよう就業規則や人事評価制度を見直すことも求められるのではないでしょうか。
 今後は、感染症によるパンデミックに限らず、広域災害など企業活動に影響を及ぼすリスクはいつでも起こり得ることを前提に、業務や働き方を設計しておかなければなりません。DXは、企業の発展に寄与すると同時に、危機管理やリスク対策としても重要であることが改めて確認されたのではないでしょうか。重要なポイントは、コロナ禍が終息した際にもとのアナログプロセスに戻ってしまうようなことがないようにDXを着実に進めることです。

一緒に議論しませんか?

来週月曜日(2020年6月29日)19:00よりオンラインイベント(参加無料)に登壇させていただきます。「バーチャル時々リアル」が成り立つか?各分野の論客と討論させていただきます。デンソーのMaaS開発部部長/デジタルイノベーション室長の成迫氏が、長年開催し続けている「白熱塾」は今回が150回を数える名物イベントです。私もこれまで何度か参加させて頂きましたが、登壇者だけでなく参加者も多彩でエキサイティングでありながら、とてもカジュアルで楽しい集まりです。皆さんも是非この機会にオンラインで討議しましょう

また、アフターコロナを見据えて企業のDXがどのように進展していくのかについては、6月16日に出版された新刊「未来IT図鑑 これからのDX」でも詳しく述べていますので、是非こちらもご参照ください。



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