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「おれ、ソムリエだから」

「おれ、ソムリエだから」

この言葉が死ぬほど嫌い。
そして誤解を恐れずに言うと僕は「ソムリエがめちゃくちゃ嫌い」だ。

今、ソムリエ試験にチャレンジ中の人もいると思う。
仕事しながら必死で勉強して、ドキドキしながら3次審査まで受けて、見事合格したら、金色のソムエリエバッジが届く。

とても誇らしい瞬間だし、その瞬間から「おれ(私)、ソムリエ」と堂々と名乗っていい。
努力したことは当然誇っていいし、自信にしてもいい。

でも、そこで少し勘違いしてほしくないので、今日は僕がめちゃくちゃ嫌いなソムリエの話をしようと思う。

33歳 職業 ソムリエ

僕が前に働いていたお店はとても大きくてサービススタッフだけで15人くらいいるお店。

15人もいるから基本的に仕事はフランス式に習い分業制だった。

・メートルドテル
・ソムリエ
・シェフドラン
・コミドラン

こんなふうに仕事が分かれていた。

この中でもソムリエ以外を「サービスチーム」と呼び、ソムリエを「ソムリエチーム」と大まかに呼んでいた。

サービスチームはお客さんにワインのことを聞かれたり、ワインを頼まれたりしたら、基本的には「ただいまソムリエを呼んでまいります」と答えていたし、ソムリエチームも料理のオーダーや料理の内容に関しての質問は「ただいま、サービスの者を呼んでまいります」と答える様になっていた。

お客さんの中でどこか「ソムリエ=とても崇高な専門職」というイメージがあるらしく、中にはソムリエに対しては敬語だけど、サービススタッフにはタメ口という露骨な人もそこそこいた。

まぁ、それはどうでもいいのだけど……

同僚に33歳ソムリエがいた。彼はソムリエの中で一番下っ端だ。
ソムリエチームは彼以外みんな勤続10年以上の超ベテランばかり。

入社した時は「コミソムリエ」というポジションで仕事をしていた。

でも、やっていることはコミソムリエでも、コミソムリエというポジションは正確にはなかったので彼は一応「ソムリエ」という扱いになる。

彼は本当にワインのこと以外は何もしなかったし、覚えなかった。
たしかに料理の内容やオーダーに関しては上記の対応でいいと思う。自分で責任を取ることが出来ないからだ。

サービスチームが勝手にワインリストを持っていって、ワインを扱うにことがないのと同じだった。

だけど、全ての質問が料理とワインに分かれるわけではない。
お客様からの質問は多岐にわたる。

・あの絵は誰の絵なんですか?
・ここはいつからあるんですか?
・料理長はどんな人なんですか?
・このお皿はどこのなんですか?
……etc

もちろん接客してればこれらの質問を受けることもある。
上記の質問はお店のことなんだから共通認識として持っておくべきだと俺は思う。というかそれがプロとして当然。

しかし彼は「サービスを呼んできます」とお客様に返事する。
ちなみに他のソムリエはちゃんと自分で答える。当たり前だ。

当たり障りない質問で誰が答えてもいい内容で、かつとんでもなく忙しい時もお構い無く呼ばれる。

あまりにも酷いので

「〇〇さん、すこし絵とか覚えたらいいんじゃないですか?」

といったことがある。

これの返事が

「おれ、ソムリエだから」

…しばらく経ってから、さすがに上司に怒られ誰の絵か?くらいは答えられるようになってたけど…

……これからソムリエになろうって人は、絶対に勘違いしてはいけない。ソムリエとはあくまでサービスという枠の中の一つだ。

スパークリングワインという枠の中にシャンパンがあるのと同じで、シャンパンはどうやってもスパークリングワインの枠を超えることは出来ないのだ。

この人に関してはすこし極端な例ではあるけど、見渡せば「おれ、ソムリエだから」と勘違いしてる人間もかなりの数いるはずだ。
あなたの近くにも一人、二人いるのではないだろうか。

この際だからハッキリ言っておこう。ソムリエなんて誰でもなれるし、偉くもなんともない。ただの仕事の一つである

「おれ、ソムリエだから」などと有頂天になっていると、あっという間に市場価値を失うし、プライドが邪魔してどこにもいけなくなる。

現に33歳 ソムリエの彼はもう長いことそのお店にいる。
もし、今ここで外に出なければあと5年以上は今と同じ仕事を繰り返すことになる。

当然、彼より上のポジションは突発的な出来事がない限り辞めることはない。
つまり、40歳近くなっても、延々とワインをセラーからワインをもってこいと指示され、抜栓しておけと指示され、デキャンタしておけと指示されるわけだ。

世の中の40歳サービスマンはどんなことをしているか、考えればこの差がわかると思う。

おそらく数年後、彼がこの事実に気づいた頃にはもう遅い。

「40歳でずっとソムリエだけやってきました」
なんて人を高給で雇うお店が今東京にどれくらいあるのか?不思議でしょうがない。

決して忘れないでほしい。
ソムリエとは「サービスマン」の枠の中の一つでカテゴリーでしかない事実を。

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