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「君じゃない偉い人呼んで」と言われた悔しい話


正直な話、人は見た目や立場で判断されます。
これはゆるぎない事実です。

仕事していて嫌な思いすることは、
沢山あると思います。

お客様に怒られるとか、
クレームを食らうとか。

今回はそういった話ではありません。

僕が体験した今でも「この野郎…」と思う、
お客さんとのお話。

・ソムリエの資格も働いた年数も関係ない

何年か前。
前に働いていたグランメゾンでの話です。

そのお店でもう3年近く働いていました。
そろそろ黒服になろうか。というタイミング。
まだ白服(コミ・ド・ラン)でした。

そこそこ忙しいとあるディナータイム。
年に数回は来る常連の医者が来店しました。

古くからあるグランメゾンには、若い頃にお店に来て、
トップサービスマンに相手にされなかったことに、コンプレックスを持つお客さんが少なくありません。

「もっと社会的に成功したら、この店でブイブイ言わせるんだ」
そんな野心を持つ人がいます。

こういったところでもプライドが持てるから、成功するのかもしれませんが…

その常連のお医者さんもその一人でした。
ここではSさんという名前にしておきましょう。

Sさんは「お店のトップだけが俺の接客を出来る」ことにステータスを感じる人でした。

Sさんは支配人とシェフソムリエ以外を完全に見下しています。
当然、接客に入れるのはこの二人だけです。

ある程度の頻度で来てくれるし、そこそこのワインも開けるので、トップとしても丁寧に接客するんですよね。

それで、問題のとあるディナータイム。
その日は忙しかったのに加えて、トップ二人が他のお客様に捕まっている時間が長かったのです。

ちょうどSさんがメインを食べ終わり、
チーズのワゴンをつけようか。というタイミングでした。

その時、シェフソムリエから

「さとしくん、Sさんにチーズ行ってくれる?」

と頼まれました。

当時僕は白服でしたがコンクールにも出ていたし、ソムリエの資格も持っていたし、チーズの勉強もしていたし、チーズの管理は担当が自分だったので、知識も経験もあります。
もしかしたら、お店の中で一番詳しかったかもしれません。

もちろんそんなことSさんは何も知りません。

「僕が行っていいんですか?Sさん怒りません?」

と確認した結果、大丈夫だから行っちゃって。とのこと。
そのままワゴンをテーブルの横に付けました。

そのまま説明を始めようと思ったら、
Sさんが口を開きました。

「あ、ちょっとさ、○○君(シェフソムリエ)呼んで」

僕はチーズの説明よりも先に、とりあえず言われたとおり、シェフソムリエを呼びに行きました。

その後、Sさんが一言。

「今、良いワイン飲んでるからさ。この若い子じゃなくて○○君このワインに合うチーズ選んで」

これ、僕がいる目の前です。笑

何年も前の話ですが、今でも鮮明に覚えています。
当時は本当に腹立ちました。


「なんでだよ。俺がこの店で一番チーズの事わかってるっつーの!」

そう思いました。

だけど、時間が経ってよくよく考えると、
お客さんからしたらサービスマンの判断基準なんて、
年齢と肩書くらいしかないんですよね。

・お客さんはシビアだし、安心感を買う

基本的に失敗なんてしたくない。
同じお金を払うなら“安心感”を買うのが人間なんですよね。

そりゃSさんからしたら、
シェフソムリエの方が安心感ある。

どれだけ努力・勉強してるなんて、
お客さんからしたら関係ないんです。

とはいえ、本気で悔しいと思える経験があるから、
カッコよくとか、エレガントにとか、認めさせてやろう。上に行ってやろう。みたいに思えるんですよね。

接客の中で嫌な思いや、屈辱的な思いをすることは、0ではありません。
だけど、その経験から何をどうやって学び取るか?これはとても大事なことです。

ムカつくことを「ムカつく。やってられっか」で終らせたら、
とてももったいないことですよ。


……数年後

僕が辞める直前にもSさんはまだお店に通っていました。
7年も働いていたので、Sさんも僕のことは認識しているようでした。

その日。Sさんはクレープシュゼットを注文しました。
当然、サーブするのは支配人です。

その時、準備していた僕に向かってSさんは
「どうだ?支配人がやるクレープシュゼットなんて滅多に見れないだろう?君も勉強しな」と言ってきました。

その頃は僕も大人になっていたので、
「そうですね、ありがたく勉強させていただきます」
と、笑顔で伝えておきました。

支配人のクレープシュゼットは全く見ずに…


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