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妻の病気について

事故から10年目に書いた記事をもとに、改めて書き直した文章です。

私の妻は、現在、双極性障害という精神疾患の病気の治療中です。この病気は、単なる鬱病と混同されることが多いのですが、根本的に鬱とは全然違う病気で、鬱はいつかは必ず治る症状だけど、双極性障害は一生治ることがないと言われており、未だに医学的にきちんと解明されていない病気のようです。なので、随分前から障害者手帳を持って生活をしています。

双極性障害、いわゆる昔で言う躁鬱病という症状は、簡単に言うと躁状態と鬱状態を定期的に繰り返す病気なのですが、彼女の場合の躁状態というのは、以前の明るくていつもニコニコしているような状態ですので、周りに迷惑をかけるような言動は全くありません。躁状態の症状がひどい人の場合は、できもしない約束をあれこれしてしまって後から調子が悪くなったときに約束を守れなくなったり、金遣いが荒くなったり夜中に出歩いたりして、鬱状態のときよりも周りの家族が大変になるようです。
ただ、彼女も鬱状態のときは何もやる気がおきずに、ドヨンとして寝ていることが多くなります。しかし、一生治らないと言われつつも、一番状態が悪かった事故から3年目ぐらいに比べるとゆるやかに状態は良くなっていて、私が洗い物をすれば隣で食器を拭いてくれたり、一緒に洗濯物を畳むことなどはできるようになってきました。
カウンセラーによると「引っ越し鬱病」という言葉があるらしく、今回の引っ越しには少しリスクを伴うものでしたが、逆に良い効果が現れるものとなりました。ここでの生活は時間の流れ方がゆったりしていて、周りのどこを見ても近くに山があってきれいな川が流れていますし、四季折々にいろんな生き物や植物の息吹を感じながら時間を過ごすことができます。彼女がパイプオルガンを弾くために通っている大阪の教会は随分遠くなりましたが、それも電車に1時間半乗って行き来するのが良い効果として現れているように感じます。

彼女がこの病気を発症した原因は、間違いなく私が私JRの事故に遭ったことによるショックが発端で、その後の様々なストレスと彼女ならではの人への思いやりの深さによるものです。事故直後は、自分から妻には悲惨な事故現場の話などは全然しませんでしたが、我が家に取材に来る記者のインタビューに答える話の中から、自分の夫が体験した凄惨な現場の話を知ることになりました。私自身は、そうした話を何度も何度も記者の方に聞いて頂いたので、自分の中に鬱積している感情を吐き出すことができたように感じています。いわば、トラウマ治療のエクスポージャー法(暴露療法)といわれるカウンセリングを、記者の方相手に自然に行ってこれた訳です。一度話しだすと最低でも2時間、それが一日に3件、4件あるときもありました。
妻は、自分が夫と一緒に体験することができなかった事故について、せめて事故後のことは全て共有して一緒に乗り越えようと必死になってくれました。取材のときも、どんな会合やJRとの面会のときも常に一緒に行動してくれて、負傷者のほとんどが遺族に会うことを躊躇する中、私が行き続けた遺族の集まりにも一緒に参加してくれていました。彼女の性格のおかげで、遺族の方も私たち夫婦をとても温かく迎えてくれましたし、子供さんを亡くされたご家族は、今でも野菜や果物を送ってくれてかわいがってくれています。それ故に、彼女の中には、家族を亡くした遺族の深い悲しみに共感して心を痛めることが多かったのだと思います。

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