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「君たちはどう生きるか」とアオサギ

宮崎駿監督のアニメ映画「君たちはどう生きるか」に鳥のアオサギをモチーフにしたキャラクターが登場するらしい。アオサギは半ば妖怪めいた扱いをされてきた鳥で、「青鷺火」という妖怪も伝承されているし「うぶめ」という妖怪とも同一視されてきた。

そう言えば平成ウルトラマンのダイナに珍しくカタカナではなく漢字名称の怪獣、姑獲鳥が登場して、古代中国の鳥の妖怪をモチーフにしているから。西晋の「玄中記」という本が初出。ところが、この妖怪が我が国に伝わるにつれて、もともと別個だった「うぶめ」という国産の妖怪と同一視されるようになって、この妖怪の漢字を充てて「うぶめ」と読むに至る。

この同一視の原因を作ったのが江戸時代の儒学者林羅山で、「多識編」という著作では両者が同一視されている。中国の方の妖怪は鳥になって難産で死んだ女性が赤子を攫う怪異。本邦のうぶめは、お産で死んだ女性が赤子を夜、通りすがりの者に抱かせようとする怪異。攫うと抱かせるでは行動が真逆で違うが、赤子、お産という共通項から同一視が起こったのだろうと推測できる。しかし中国生まれのこの妖怪はルーツを遡ると、ある種普遍性のある「天女伝説」「白鳥伝説」などにまで遡れる壮大なテーマになる。

わが国では鳥の妖怪という中国からの伝承と、アオサギが結びついて、「うぶめ」(産女と書く)とアオサギが同一視されていったのだろうと推測できる。

本邦や東アジア文化圏以外でもアオサギは世界的にも文化史的に意味のある鳥で、西洋でもイギリスの詩人イエーツなどはアオサギを聖職者のメタファーとして用いている。これはケルト文化にまで遡る歴史的背景がある。

旧約聖書ではアオサギは食べてはいけない鳥として挙げられている。アイルランドの聖パトリックにもアオサギにまつわる伝説がある。時代が下って9世紀のベネディクト会のラバヌス・マウルスは自著「事物の本性について」でアオサギを「最も賢い鳥」として紹介し、ラテン語聖書の引用からアオサギをキリストのシンボルとして理解するに至る。その引用が詩編104編で日本語ではコウノトリと訳されているが、ラテン語聖書ではアオサギの訳が充てられている。聖書に出てくる動植物の翻訳は生き物の特定が難しいので揺れがある。

アオサギも東では妖怪、西ではキリストや聖職者と忙しい。ちなみにウルトラマンのこのエピソードの脚本を書いた方はカトリック系のラサール高校のご出身ですが、さすがにラバヌス・マウルスもあずかり知らないことでしょう。現代にもアオサギの影響は及んでいて、ツイッターのロゴの青い鳥。あれもアオサギがモデルです。

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