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蚊を根絶することは人類を救うことか生態系を破壊することか

三井 さて、一つクイズを出すよ。世界で最も多く人間を殺している生物は何でしょうか?
住友 わかった。人間でしょう。
三井 いや、違うよ。人間は第二位。
住友 じゃあ、第一位は?
三井 蚊だよ。
住友 蚊なの?
三井 厳密にいうと、蚊が直接人間を殺すわけではなく、蚊が媒介する感染症によって多くの人の命が失われているんだ。
住友 どのくらい?
三井 年間に約70万人。そのうち、マラリアによる死亡者数が最も多いと言われている。
住友 脅威だね。
三井 しかも温暖化の影響で、熱帯に生息している蚊の活動地域が拡大することが懸念されているんだ。
住友 蚊を防除する方法はないの?
三井 従来の殺虫剤や忌避剤はアフリカやアジアで広く使われている。日本の「蚊取り線香」も大活躍している。他にも生物学的な防除方法が研究開発されている。
住友 生物学的って?
三井 たとえば、蚊の天敵を放って蚊やボウフラを捕食させる方法がある。殺虫剤のような化学薬品を使わないから、環境にも負荷が少ないと言われている。
住友 本当に環境に負荷が少ないの?
三井 疑ってる?
住友 三井さんの言うことは何か疑わしいから。
三井 おいおい、人を詐欺師みたいに言わないで。
住友 だって、沖縄でハブの駆除のためにマングースを放したら、生態系に甚大な被害が出たでしょ。
三井 そうだね。安易に外来種を持ち込むことはあってはならないことだね。
住友 やはり天敵の利用は問題じゃないの?
三井 現在は外来種を持ち込まないように厳しく規制されているよ。その地域にすでに生息している生物だけを利用するんだ。たとえば、カエルやクモは蚊を捕食してくれるし、ゲンゴロウやヤゴはボウフラを捕食してくれる。そういう天敵を利用している。
住友 でも、それじゃ蚊を完全に根絶することはできないでしょ?
三井 そうだね。蚊の発生数を抑えることはできるけれど、根絶は難しいね。
住友 感染症を撲滅することは出来ないんだね。
三井 いや、現在はさらに研究が進んでいるから、蚊を完全に根絶する生物学的な方法も計画されているよ。それが成功すれば、感染症を撲滅する可能性も出てくる。
住友 どんな方法なの?
三井 遺伝子組み換えによって蚊を不妊化するんだ。
住友 不妊化するとどうなるの?
三井 今、実験的に行われているのは、デング熱やジカ熱などの感染症を媒介するネッタイシマカの不妊化だ。オスに放射線を当てて、遺伝子を組み換えるんだ。それを放つと、メスと交尾しても産卵できなくなったり、産卵しても孵化しなくなったりする。つまり、次の世代を繁殖させない画期的な技術なんだ。
住友 でも、それこそ生態系に大きな悪影響が出るんじゃないの?
三井 だから、まずはガラパゴス諸島で行われるらしい。
住友 なぜガラパゴス諸島なの?
三井 ガラパゴス諸島は、南アメリカ大陸から1,000キロメートル以上も離れている孤島だから、遺伝子組み換えされた蚊が、海を渡って南アメリカ大陸に到達することはない。生態系への影響はガラパゴス諸島だけに限られる。その影響がどのようなものか、実験的な研究結果を踏まえて、今後の実用化を検討していくそうだ。
住友 いや、それでも観光客の荷物に蚊が紛れ込むことだってあり得るでしょ。絶対に拡散しない保証はないよ。
三井 そうだね。だから、まだ計画の段階なんだ。考え得るあらゆるリスクを想定して実験しようとしているところだ。
住友 蚊を根絶することは、間違いなく生態系を破壊することになるとぼくは思う。蚊が血を吸うのはメスだけであって、しかも産卵期に限られることはよく知られている。普段はオスの蚊と同様に花のミツを吸って生きている。虫媒花にとって、蚊は受粉を請け負ってくれる益虫なんだ。蚊を捕食する生物も多くいるから、蚊を根絶してしまうことは、生態系にとって測り知れない深刻な状況をもたらすことになる。遺伝子組み換えの蚊を放つことは、絶対に止めるべきだと思う。
三井 でも、現実に多くの人々が感染症で命を失っていることを考えると、人命を救うことを優先すべきじゃない?
住友 もちろん、感染症に苦しむ人の命を救うことは重要だ。でも環境を守ることも重要だ。人命を救うか、環境を守るか、どちらか一方だけを選ぶような二者択一的な考え方はすべきではないと思う。
三井 それじゃ、どうすればいいの?
住友 遺伝子組み換えをした蚊を放つことが、人命を救う唯一の方法ではない。他にも手段はあるよ。
三井 たとえば?
住友 蚊が媒介する感染症の発症は、アフリカやアジアなどの発展途上国に多いけど、そうした国や地域では医療体制が盤石ではない。医療設備も医薬品も医療従事者も足りていない。まずは、そういったところから支援していくことが効果的だと思う。
三井 ワクチン接種率も高めていかなければならないね。
住友 それと、感染拡大を防ぐために、衛生的な社会基盤を強化していく必要がある。
三井 そうだね。清潔な飲料水を安定供給できるようなインフラ構築も課題だ。
住友 何よりも、感染症に対する正しい知識を身につけてもらって、感染予防を日常的に意識するような教育が大切だ。
三井 すべきことがたくさんあるんだね。
住友 ぜひ、受験生にも考えてほしい。どうすれば世界中で感染症を抑制することができるのか、受験生の意見を聞いてみたい。
三井 遺伝子組み換えの蚊を放つことに賛成か反対かも意見を述べてほしいね。
住友 難題だけど、考えてみる価値はある。
三井 未来を守るためにもね。
住友 受験生の皆さん、頑張ってください。
三井 頑張ってください。


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