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海水浴場開設と海岸管理の構造の話<後編>

↓前編はこちら

とにかく手間がかかる海岸の管理

海水浴場を開設していない状態で何かが起きると不都合が多いため、実は閉鎖されがちです。コロナ禍でよく見られた対応と同様ですね。
↓注:2020年の記事です

海水浴場とは別に、海岸を年間を通して利用していくことを考えると、以下のような管理の手間が浮き彫りになります。

ゴミ問題
放置されたゴミや漂着ゴミは、どちらも管理者である行政の責任で処理すべきですが、有志の団体が清掃活動をしている場合がほとんどです。日常の環境対策のための予算はあまり割かれず、イベント的なビーチクリーンや、海水浴期間などに観光対策として予算が使われることが多い印象です。

安全管理
監視員は当然不在です。公的救助機関に頼ることになりますが、事故が起きてからの事後対応となります。管理責任の所在も不明です(そもそも自然環境なので)。となると、やはり遊泳禁止看板を立てたり、「水難事故多発警報」を出すくらいしかありません。
「水難事故多発警報」って効果あるんですかね?

密漁
海上保安庁による取り締まりや漁協のパトロールが行われていますが、予算と人員不足が問題です。観光客が知らずに取ってしまう不作為の密漁も問題です。駐車場の閉鎖や立ち入り禁止措置がとられがちです。

海岸管理
飛砂や崖崩れ、海岸侵食などの問題があり、土木的な対策が必要ですが、予算不足が課題です。危険箇所を放置したことにより、人的被害が出ると行政の責任を問われることもあります。であれば、人が立ち入らないように海岸そのものを閉鎖することも、ある意味合理的ではあります。

その他にも防災や生態系保など、管理の幅は多岐にわたります。海岸の年間利用促進については、総論賛成でも各論で反対となってしまう状況が見られます。

防災テーマ:赤と白の旗は"津波フラッグ"

海水浴場モデルの限界と行政の課題

“海水浴場”というモデルが収益を上げにくくなっている現状では、海岸管理がますます困難になります。行政としては具体的な海岸管理の方法について、法的根拠や合理性が問われる状況です。

これまでのやり方は、管理できる範囲、期間、用途で限定的に利用を進めていくという方法でした。海水浴場であったり、潮干狩りであったり、全国にある海遊公園も同様の考え方です。

夏は収益事業として管理が可能ですが、それ以外の期間は採算が見込めず、人手もいないため、管理者がいない場合は問題が多発するので閉鎖してほしいという意見に発展していきます。

民間事業者による管理の可能性

民間事業者による海水浴場開設、海岸管理もテーマに上がりますが、既存の条例、ルール、慣習的に新規参入が難しいケースが多いのではないでしょうか。地域住民や既存事業者との関係構築もハードルが高いです。

海水浴場の開設は既得権的な面もありますが、上記のような海岸管理を長年行ってきたことも事実です。

収益化できている地域は海水浴場としての形を続けていますが、それでも持続可能なモデルではないと思っています。
早期に海水浴場の開設をやめ、従来型のモデルから脱却した地域から、新しい海岸管理のモデルケースが誕生するかもしれません。

持続可能な管理体制はあるのか

どのような体制で管理していくことが望ましいのか、制度としてはさまざまな選択肢があります。国交省も多くの資料を共有していることから、課題と捉えていることが分かります。

海岸利用の活性化に向けたナレッジ集

海水浴場開設者に管理を委託するという方法は、一般的に公共施設などでも運用されている指定管理者制度に似ていますし、福岡市の海の中道海浜公園のようにPark PFIを取り入れている自治体もあります。

しかしこれらの方法論以前に、前述したような「海岸管理は採算が見込めず、人手もいない。問題が多発するので閉鎖したい、してほしい。」という本音があるような気がします。

新しい資金調達

運営費と人材、いずれの問題も資金調達から目を逸らすことはできません。
現代の日本においては、資金を調達するためには数字としてのROI(投資対効果)があることが重要視されています。しかし、このような従来型の尺度では採算が見込めなくなっているのが現状です。

例えば、カナダでは自然で過ごす時間が医療的な効果を持つとして処方されているように、海や砂浜が人々に与える良い影響に着目するのも一つの方法です。予防医療や健康増進としての海岸利用の促進に出資するロジックがあっても良いのではないでしょうか。
予防医療の一つとして、将来の医療費が縮減されることが示されれば、海岸利用の価値につながり、合理性が出てきます。

長々と書きましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。

海水浴場という限られた利用形態に固執するのではなく、年間を通じて多様な形で海岸を利用できる体制を構築することが、管理者、利用者双方に求められています。
問題が多発するからといって安易に海岸を閉鎖するのではなく、問題解決に向けた積極的な取り組みを行うべきです。持続可能な管理体制の構築こそが本来の目標です。

私が以前住んでいた海沿いの街では、ただそこにある海に集まり、過ごしているたくさんの人々を見ることができました。
いたずらに新しい海岸利用を模索するのではなく、既存の海岸利用者に目を向け、誰もが海そのものを楽しめる環境を期待しています。

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