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蹴球邂逅録 〜酒場 (スレブレニツァ🇧🇦)〜


惨劇の地、スレブレニツァ ・ポトチャリ村。
当時の国連施設だったメモリアルセンターを後にし、
国道沿いを彷徨していた折。
ほろ酔いなオヤジたちに呼び止められた。
「オマエも、一杯飲ってかないかと」と。
「ぜひぜひ」と僕。
そこは、ふくよかでにこやかなお母さんが切り盛りしている、
BEXという名の、こじんまりとした酒場であった。
しばしの真っ昼間の宴は、もっぱらボスニアと日本を繋ぐオシムさんの話題で
盛り上がった。
帰り際、黄色いTシャツを着た、性格俳優を思わせる激渋オヤジが切り出した。
「今夜、ここでボスニア代表の試合を観戦するから、オマエも来なさい」と。
「ぜひぜひ」と僕。

午後8時、約束通り、再びBEXを訪れた。
EURO2020予選、ボスニア・ヘルツェゴビナ vs アルメニア。
試合会場は、オシムさんやエース・ジェコの生まれ育った、サラエヴォは
グルバヴィッツァにあるジェーリョのホーム、
さらには、ジェコの代表出場100試合というメモリアルマッチ。
しかし、BEXの店内では、スタジアムに映し出される熱気とは、あまりにも対照的な光景が広がっていた。
ボスニア代表のグッズで彩られた手前のスペースの照明はすべて消され、
みんな、奥まったテーブル席に集い、一切の声を発さずに観戦していたのである。
チャンスやピンチ、ゴールや失点でのボディアクションはあったものの、完全なる
無声応援のまま、ひそやかに2-1の勝利を見届けたのであった。

一体、何だったんだ、あのパントマイム的な試合観戦は…?
宿への帰途、そんな疑問が沸沸と込み上げてきた。
翌日、バルカン事情に詳しく、スレブレニツァ 行きを勧めてくれた知人に
聞いてみた。
「BEXは国道に面しているので、多くのセルビア人が通るんです。
 きっと、そういった配慮なんだと思います」

なんという、慎ましい光景だったんだ…。
すぐさま、あの人たちの柔和な笑みが、脳裏に蘇ってきたのだった。

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