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【知恵の本棚】上司部下間のミスコミがなくならないのは、表現力不足の問題じゃない

ふと目を上げると、上司がニコニコしながら近寄ってくる。だいたいこういう時は面倒な仕事を振られるもの。

「急で悪いけど、今日中に君の担当商品の説明資料を作ってくれ。」

「今日中ですか?」

「明日、来社するお客様に、どんな商品を扱っているか説明しなきゃならないんだよ。そんなに時間かけないで、簡単でいいから。作ったら俺にメールしておいてくれ。」

「わかりました・・・。」

夜遅くまでかかって資料を作り上げた。

(5ページくらいにしたかったけど、結局10ページになっちゃったなあ。まあ、上司の方で不要なページは端折って話すだろう。)

上司にメールだけ入れて帰宅。

翌朝出社すると、いきなり上司が血相を変えて近寄って来るではないか。

「なんだよこの資料は! ページが多すぎるよ。簡単でいいって言ったろ! こんなに話す時間なんて取れないから、1ページにまとめ直してくれ。時間がないからすぐやってくれよ。できたらすぐ連絡をくれ!」

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これを読んで、あなたはどう感じたでしょうか?
似たような経験をしたことのある人は多いかもしれません。


実は、あなたが上司の立場にあるか、部下の立場にあるかによって、このエピソードの受け止め方が違ってきます。

上司の立場なら「お客様に見せる資料なんだから、簡潔にまとめるに決まっているだろ。10ページとかあり得ないだろ。」と思ったかもしれません。

部下の立場なら「頼む方がちゃんと期待値を示さないのが悪いんだよ。残業までして頑張ったのに、文句言うとかあり得ない。」と思ったかもしれません。

立場によって意識が違うのは当然です。どちらが良い悪いということはありません。問題なのは、お互いにトラブルの原因を相手のせいだと思い込んでいることです。


では何故、このようなすれ違いが起きるのか。問題の本質は何でしょう?

表現力不足、ではありません。

上司が部下に、もう少し具体的に指示出ししていたとしても、おそらく資料は作り直しになります。1枚にまとめるよう指示したとしてもです。

端折りすぎていて説明になっていないとか、1枚に説明を詰め込みすぎだと言い出すのがオチでしょう。


一番の問題は、上司も部下も、相手から信頼されていないことです。

部下の方が上司を信頼していないのは明白でしょう。急な仕事を頼まれても、最低限の会話しかしていません。はっきりと態度には出していませんが、仕事だから仕方がないと思って渋々受け入れています。

少なくとも上司のために役に立ちたいとは思っていません。もしそう思っているなら、資料を使う具体的なシーンや目的を、根掘り葉掘り聞き出そうとするでしょう。


一方、上司の方も、部下のことを信頼しているなら、商品をどうアピールするのがいいか、聞き出したいと思うはずです。

今日中に資料を作れなどという無茶ぶりはしないでしょう。もっと前に、部下が余裕を持って資料を作れるよう、(命令ではなく)お願いをするはずです。

草案を作ってもらった後、部下の意見も聞きながら、2人で説得力のある資料に仕上げようと考えるはずです。


上司の方は、細かく伝えなくても期待するアウトプットをもらえるのが当然だと思っています。

部下の方は、自分一人でできる範囲のことをすればいいと思っています。

上司も部下も、仕事とはそういうものだと思い込んでいます。

最初から前提が違っているのです。どちらも相手のことを理解しようとしていないのだから無理もありません。こんな状況では、ミスコミしない方が不思議です。


相手に信頼されるには、その人がどういう性格の持ち主で、どういう思考の癖があり、どういう時に心を開きやすいのかを知ろうとしなければなりません。

普段からよく話をし、気にかけていることを態度で示さないといけません。そして、何を話しても大丈夫だと思ってもらわないといけません。

気持ちのバリアを解かない限り、表面的なコミュニケーションしかできないのです。


上司は部下に対して、話をする障壁は低いのが普通です。一方、部下は上司と話すことに、何かしらの抵抗を感じているのが普通です。

上司は部下とうまくコミュニケーションを取りたければ、安全、機会、誠意の3つを保証してあげる必要があるでしょう。

安全とは、何を言ってもいいと思ってもらうことです。

上から目線の発言は絶対にNGですが、穏やかな口調で話す、自分の意見を押し付けない、結論を急がない、目の高さを合わせてあげる、といった部下の心理的負担を減らす努力が必要です。


機会とは、部下が話すチャンスを作ってあげることです。

部下が話をしに来てくれる時は、少なからず勇気を出しています。こんなことを話しても大丈夫だろうか、忙しい時に話をして迷惑にならないだろうかと葛藤しています。

そんなことはお構いなしに、今忙しいから後にしろと言ってみたり、目を合わせずに話を聞こうとすると、部下は勇気を出して話しに来たことを後悔します。

上司は直ちに仕事の手を止め、部下と目を合わせ、親身になって聞く姿勢を見せないといけないのです。

部下の方から話をしに来るのを待っているだけでもいけません。普段から部下のところへ行き、たわいない話でもいいからするようにしましょう。

部下からすると、上司が自席に来てくれた時が最も話すハードルが下がります。上司に時間の余裕があり、自分とコミュニケーションを取ろうとしてくれていることがわかるからです。

実際に、私はこの方法で、何度も、問題を聞き出し早期に潰すことができました。


誠意とは、部下の話を聞いて一緒に答えを探すことです。

少しでも、面倒に巻き込まれたくない気持ちや、早く終わらせたいという気持ちを見せるのはNGです。

部下の話を聞き、状況を正しく理解し、部下の納得するアドバイスをすることに徹しなければなりません。部下の課題を自分事と捉え、自ら巻き込まれようとする姿勢が必要です。


ここまでして初めて部下から信頼されるようになります。信頼されれば、表現力が乏しくても問題ありません。

上司と話をすると仕事が上手く進むとわかっているから、部下の方から何でも話してくれるようになります。

大抵の仕事を快く引き受けてくれるばかりか、上司の期待に応えようと本気で取り組んでくれるようになります。


上司に信頼されるために、部下の方からはどうアプローチすればよいでしょう?

最初のうちはハードルが高いですが、自分から話しかけるしかないでしょう。辛そうな顔をしていれば気づいて近寄って来てくれる立派な上司もいますが、大概はそうなりません。

上司に話しかけると言っても、気持ちを素直に伝えればよいという訳ではありません。大抵の上司は、感情よりもロジックで動いています。

だから、大変で辛い思いをしていることをアピールして、感情に訴えようとしても響きません。上司は、仕事が大変なのは当たり前だと思っているので、下手をすると愚痴を言っているだけと取られかねません。

なぜ大変なのか、辛い状況になっている理由は何なのか、それに対してどう解決しようと思っているのか、面倒でもそういう部分を伝えないと効果がありません。そこまでやって初めて、上司は話をちゃんと聞いてくれるのです。


上司と建設的な話ができ、納得するアドバイスをもらえたとしても、それで終わりではありません。

もらったアドバイスは愚直に実行しなければなりません。やってみて上手くいかないからと勝手に違うことをすると、上司に不信感を植え付けるだけです。

上司からすれば、時間もかけてアドバイスまでしたのに、違うことをするわがままな部下だと思ってしまうでしょう。

アドバイス通りやってみて上手くいかなければ、もう一度話をしに行きましょう。上手くいかない理由と次にしようと思っていることを説明し、新しいアドバイスをもらえばいいのです。

何度話をしに行ってもかまいません。決してできないやつとは思われないから安心して下さい。

上司の力を借りながら問題解決するやり方は、頼りない部下だと思われそうに感じるかもしれませんが、むしろ逆で、信頼されるようになります。

まともな上司なら、自分を巻き込んででも、能力以上のアウトプットを出そうとしてくれていると受け取るからです。


上司も部下も、上辺だけのコミュニケーションスキル(表現のスキル)を磨く前に、相手に信頼されるスキルを磨きましょう。

その効果はコミュニケーショントラブルが減るだけに留まりません。

話すハードルが低い職場には、思ってもみなかった意見が出て来る土壌ができています。そこから新しいビジネスが創出されるかもしれませんし、個人では到底成し得ない高いアウトプットを出せるかもしれません。

自分の職場は何でも話せて、風通しいがいいと思っている上司は、たいてい勘違いしています。

本当に風通しのよい職場なら、自分にとって不都合な意見がたくさん出て来ないとおかしいです。生半可な努力では、当たり障りのない意見しか出て来ません。

本当に風通しのよい職場は、お互いを信頼し合う関係からしか実現し得ない、私はそう確信しています。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。このnoteが、あなたのお役に立てたなら嬉しいです。

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