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実践知の調査研究はどのように?【論文備忘録】

こんばんは、"もっちゃん”です。
記事に興味を持ってくださり、ありがとうございます。

最近は、”熟達”とか“実践知”とか、そういったことに興味があります。
いろいろ書籍に目を通す中で、結局そこが教員としても活動の中で大切な部分であり、研究しても面白そうなところだと感じるからです。

自分は大学院生時代、ワークショップについて研究を進めてきていて、正直なところ「授業」とか「学校」というより、研究的には「ワークショップ」とか「ミュージアム」の方が馴染みがあります。

「学校」での実践研究のとっかかりとして、「ワークショップ」から入ってみようと考えている今日この頃です。

ちなみに、これまで取り上げたワークショップのファシリテーションに関する論文はこのような感じです。

今回は、これらよりも分野が限られてはいますが、美術科教育学会の論文です。

⓪今回取り上げる論文:廖 曦彤(2022). 美術のワークショップにおける実践知の調査-熟達者に対するインタビューを通して-. 美術教育学,第43 号, pp247-261

熟達者の持つ”実践知”について、熟達者を対象にインタビューを行ってその内実に迫った研究です。対象としては美術のワークショップとなっています。

①要旨

本論文の抄録をそのまま転載いたします。

 本研究は美術のワークショップ実践者の中で熟達者がもつ経験や意識といった「実践知」の内容と熟達に影響する要因を明らかにすることを目的として,研究協力者合計10名に対して半構造化インタビューを実施した。質的分析法M-GTAを用いてインタビューデータを分析した結果,美術のワークショップにおける実践知には【技術・スキルの側面】と【態度・意識の側面】が示唆された。前者では〈材料準備の工夫とリクエストの対応〉などの4 項目,後者では〈逸脱の受容と自由の尊重〉などの3 項目が抽出された。熟達に影響する要因について【多様なワークショップ実践を通じた現場経験の蓄積】,【他者からの影響と価値観の拡がり】,【自己やワークショップに対する省察】という三つのカテゴリーが見出された。

上記論文抄録を転載

主張としては比較的シンプルなものと思います。
あたりまえ、のように感じることかもしれませんが、それをどのように実証研究として出していくのか、という点が重要ではないかと思います。

②研究全体へに関する個人的な感想

私自身が進めていた研究に通じるところがあり、とても親しみを覚えながら読みました。
自分がとっていた研究のアプローチとけっこう似ているところもあり、引いている文献なんかも共通しているところが多い!

自分が研究としてまとめていたのは10年以上前なので、最近の文献も含みながらまとめているところはとても参考になりました。

分析に関しても比較的丁寧であり、単著で出していることから見ても、分析から考察までお一人で進める事が多かったのではないかと推察します。

その大変さと苦労がうかがえ、そこに感動しております。

③研究の方法論について〜10年ルール〜

“熟達者へのインタビュー”というのはもっともなアプローチだと思っています。
結局“実践知”と判断できるところって、一人称視点が気づくというのがいちばんの近道であるとも思いますので。

個人的に気になるのは、
「何をもって熟達者とするのか」
ということです。

かねてより熟達の話には、「10年ルール」というのが出てきます。
かの有名なエリクソンが提唱したものです。
簡単に言えば、
「その分野で熟達するには10年の月日を要する」
というものです。

これはもちろん分野にもよると思いますし、果たしてその根拠が明確かというと微妙なところのようにも思います。

ただ、私もこの「10年ルール」が頭にあり、教職大学院に来る前に“とりあえず10年やってみよう”という気持ちで教員をやっていたこともあります。

自分を熟達者というのはおこがましいところなので言いませんが、確かに10年やることで、たとえば5年目の時点と比較して大きく自分の中で熟達があったようにも思います。

本研究でも、熟達者の選定の視点の1つに、10年という経験年数を用いていました。研究を設定するにあたって、経験年数は1つの指標にはなりそうですね。

ただ、あくまで指標の1つにすぎず、「手続的知識」など、細かい部分でみていくとその限りではないようにも思います。
本研究のように、結構広い視点で探索的に研究を行なっていく場合などでは、有用な指標になるとも思います。

④研究の方法論について〜インタビューデータの文字起こし〜

個人的に参考になるのは、インタビューデータの分析です。

まずは文字起こしをすることになるとは思うのですが、今は大変なのでしょうか。

自分が教員になる前に研究をしていたときは、実際に聞きながら打ち込んでいく作業を行なっていたので、かなり時間がかかりました。
10人分ともなると、けっこう大変な量だと思います。

でも、今はAIの力もあってか、勝手に文字起こししてくれたりするのでしょうか。

そのあたりが地味に気になるところでもあります。
それができるなら、授業研究とかインタビュー分析とか、飛躍的に効率があがるように思うのです。

自分の研究の方法を設定する上で、しっかりと考えておきたいです。

⑤研究の方法論について〜M-GTA〜

本研究では、インタビューデータの分析の手法として、“M-GTA”を用いています。質的研究で用いられる方法となります。

“修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach)”と呼ばれております。

そもそも、GTA(グラウンデッド・セオリー・アプローチ)とはどういった手法なのでしょうか。

Grounded Theory Approach(グラウンデッド・セオリー・アプローチ)は、社会科学や質的研究方法論の分野で使われる手法です。これは、研究者が事前に用意された仮説や枠組みに依存せず、データから自然に理論を構築していく手法です。
具体的には、以下の特徴があります:
帰納的なアプローチ: 研究者は事前に仮定を立てず、収集したデータに基づいて理論を構築します。データからパターンや関連性を見出し、それらを整理して理論を組み立てていきます。
コーディング: データ分析の初期段階で、コーディング(ラベル付け)を行います。この過程でデータを細かく分類し、共通点やパターンを見つけ出します。
比較と理論構築: コーディングされたデータを比較し、類似性や相違点を抽出します。これに基づいて、新たな理論を構築していきます。理論はデータに裏付けられる形で発展していくため、「グラウンデッド(grounded)」と呼ばれます。
質的データの重視: 主に質的データを用いて理論を構築する手法です。インタビューや観察などから得られた豊富な詳細なデータを基にします。
Grounded Theory Approachは、1960年代にグラウンデッド・セオリーを提唱した社会学者のバーナード・グライザーとアンセルム・ストラウスによって発展しました。この手法は特に現象の探索や理解を目指す質的研究において有用であり、現在でも広く使用されています。

ChatGPTによるGTAの説明

“修正版”となるとどうなるか、というと、これが比較的実施しやすくアレンジされた、という印象があります。

なんとなく、完全に帰納的なアプローチというより、生成されたカテゴリーをもとに再度検討していくあたり、

得られたデータに加えて、研究者の視点が加わるような分析手法のように思います。

本研究のように、分析したいテーマ等が明確にあったりするときには、やりやすい研究手法なのだろうと思います。

自分も今後の研究の中で参考にしていきたい点です。

⑥研究の結果等について

特にそこまで言及することはありません!
それはそうだろう、といったところのようにも思います。

ただ、こうした主張をどのようにして明らかにしているのか、ということが個人的にはこの研究で参考になるところでした。

実証的に示す、というのは難しいですね。

⑦自分の研究にも応用したい

今後、私は「学校」を現場にいろいろな研究を行うこととなります。

たとえば、「教師の熟達」をテーマとするならば、本研究のようなアプローチはとても参考になるものです。

研究の方略はたくさん持ち合わせていて良いと思います。
自分の研究に必要な方法を選択できるようにしていきたいです。


そんなことを考えた論文でした!

なんか長くなってしまって申し訳ありません。
読んでくださった方、ありがとうございます。

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