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歌謡曲マニアが集った店 〜サウンド・イン・サム


懐かしいポプコンの話などをnoteに書いたので、今日もちょっとだけ懐かしい話をしたいと思う。



何を隠そう、ボクには歌謡曲にとてもくわしい時代があった。

高校〜大学、そして社会人になって5年くらい。
つまり、1970年代後半から1990年くらいまでの歌謡曲を中心に、フォーク、ニューミュージックあたりにとてもくわしかった(J-POPという言葉はまだなかった)。

イントロ当てなどは得意中の得意だったし、歌謡曲の総合的な知識としてはいわゆる「テレビ・チャンピオン」クラスであると自負するくらいはよく知っていたと思う。

ボクのカセットテープの歌謡曲コレクションは友達の中では有名だったし、「さとう、あの曲ききたいんだけど」みたいなリクエストにはたいてい応えられる自信もあった。

だから将来はこのコレクションをもっと充実させて「歌謡曲BAR」でも開こうかと思っていたくらいである。ポップス(洋楽)も同じくらいの量をコレクションしていたので、これは商売になるんじゃない? と親しい友達も薦めてくれたりしていたのである。


でも、世の中にはちゃんとそういう店があるもので。

そんなボクでも脱帽してしまうバーが、大阪の北新地に一軒あった。

その店の名は「サウンド・イン・サム」という。

というか、ボクレベルでは全然かなわないw
強烈にマニアックな店であった。

カウンターに6人、テーブルに4人の小さな小さな店内は、壁から天井から昭和のアイドルたちのシングルジャケットや貴重なポスターで埋め尽くされていた。

そして、店長の山下勇(サム)さんの音源コレクションは、当時(1980〜90年代)は確実に日本一だったと思う

最近では似たような店も出来たし、音源もYouTubeやApple MusicやSpotifyなどからかなり集めやすい環境にある。

でも当時は違う。
音源なんかなかなか集まらない。
というか、その店の主要音源はカセットテープだった。
そこにある数千本のテープはすべてサムさんの「エアチェック」で作られていたのである。

だから、ちあきなおみ「夜間飛行」のフランス人機内放送付きバージョンとか、普通ならあり得ないジャニーズのライブ音源(隠し撮り)とか、NHKのナレーションが入った「虹と雪のバラード」とか、ウソみたいなレア音源がたくさんあり、それらをリクエストに応えて次々流してくれるのである。

特に得意は昭和30年代から50年代まで。
いわゆるニューミュージックになると少しコレクションの幅が狭くなる。でもそれ以前の曲なら本当に「ない曲はない」というレベルだった(あえて言えばなぜか郷ひろみが弱かった)。

実はマスターはずっと芸能界にいて、水原弘の弟子をやったり、スクールメイツ2期生だったり、「じゅんとネネ」のマネージャーをやっていたりする。

そういうこともあってか、芸能界の裏から表からとにかくいろいろよく知っていた。
まさに歩く昭和芸能史。
たとえば「虹色の湖」なんかをリクエストすると

「これは*年のヒットでこのとき中村晃子は****とつきあっていて、紅白歌合戦でライバル*****のあとに歌わされたということで悔し涙を流したという……」

みたいなことをイントロで言ってくれるのである(↑この例はボクが適当に作ったフィクションだけど、たとえばこういうこと、ということ)。

そのうえ、サムさんのカセットテープ扱いは神業で、早送りと巻き戻しを駆使してお目当ての曲の頭出しをするのだが、それをすべて手動のドンピシャで出してくる。それも楽しみのひとつだったなぁ。


まぁとにかくどんな曲でもあった。

聴きたい曲を言うと、さっとカセットテープを棚から取り出して(サムさんは数百本あるカセットのどこに何の曲が入っているか全部暗記してた)、サーーーッと早送りして、勘だけを頼りにドンピシャな頭出しをして、マニアックな解説を語りながらその曲をかけてくれた。

たとえばボクの典型的なリクエストは以下の通り。
何度も通ううちにだいたいリクエストするものが決まっていった。
そしてこんなのにお茶の子さいさいで応えてくれるバーなのである。


  「夜間飛行」         ちあきなおみ
  「白いページの中に」     柴田まゆみ
  「傷心」           大友裕子
  「パステル・ラブ」      金井夕子
  「プレイバック part1」    山口百恵(part2ではないよ)
  「いとしのロビンフッドさま」 榊原郁恵
  「渚でクロス」        荒木由美子
  「微笑み」          林寛子
  「沈丁花」          石川優子
  「セクシーナイト」      三原順子
  「トライアングル・ラブレター」トライアングル
  「教えてください神様」    天馬るみ子
  「アテンション・プリーズ」  能瀬慶子
  「横浜いれぶん」       木ノ内みどり
  「青い麦」          伊藤咲子
  「折鶴」           千葉紘子
  「さようなら」        NSP
  「君は薔薇より美しい」    布施明
  「オレンジの雨」       野口五郎
  「ブルー・スカイ・ブルー」  西城秀樹
  「悪い誘惑」         郷ひろみ
  「シャドー・ボクサー」    原田真二
  「闘牛士」          char
  「私のハートはストップモーション」桑江知子
  「緑の季節」         山口いづみ
  「初恋のメロディ」      小林麻美
  「純愛」           片平なぎさ
  「ひとりぼっちの部屋」    高木麻早
  「さよならをするために」   ビリーバンバン
  「私は風」          カルメンマキとOZ
  「虹色の湖」         中村晃子
  「逃避行」          麻生ようこ
  「虹と雪のバラード」     トワ・エ・モア


いったい何時間おんねん、って感じだけど、他のお客さんが来なかったりすると、ずぅっとカウンターに居座ってずぅっと聴いていた。


そんな店、サム。

2011年の冬になくなってしまった。

写真は閉店直後にいそいそと店に行って、一階の看板の貼り紙を見て呆然としたときのものである。
(そのころはもうボクは東京に転勤していたので、閉店の話を聞いていなかったのである)


あー、いい店だったなぁ。。。

ちなみに、今回書いていて、閉店当時のサムさんがインタビューを受けているサイトを見つけた。


あの店内の写真もある(貴重)。
この店を開いた経緯まで書いてある。
貴重な記録。

・・・ホント懐かしいな。
いま、サムさんはどこで何をやっているのだろう?


いまどき、日本全国に同じようなコンセプトの店はゴマンとある。

でも、サウンド・イン・サムは、あのころとしては全国的に唯一無二の存在だったし、いまのマニアな店と比べても圧倒的だったと思う。

願わくばあの頃にタイムスリップして、あのカウンターに座りたいボクなのである・・・。



お客さんの誕生日には毎年必ずサムさんからブロマイドのハガキが届いた。
あれ、どこかにしまってあると思う。
見つけたら貼っておきます。


※※
カウンターに座ると駄菓子が出た。
FELIXのフーセンガムが多かったと記憶する。
アタリが出たら何をくれたっけな? なんかをくれた。



古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。