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目から鱗のハウツー営業㉖【お客様の本音から広がった私の世界】

皆さんはお客様の本音や真意を知りたいとは思いませんか?
営業職の大半はその時その時のお客様の本音や真意を喉から手が出るほど知りたいはずです。
 
では、お聞きします。
皆さんはお客様の本音に触れたことがどれほどありますか?
普段知りたいと思っているお客様の本音に迫ったことはそれほど多くないのではないでしょうか?
では、お客様の本音に迫る努力や工夫を重ねていますか?
 
そう聞かれると、
「お客様の本音を知りたいと思っている割には、それほど迫れていないし、聞き出そうと努力もしていない」
ことに気付きませんか?
 
今回は営業職が喉から手が出るほど知りたいお客様の本音が実際に露わになった時の事を話します。
そして、その時私が感じた事、考えたこと、気付いたこと、その後広がった私の世界について解説します。

警備会社の営業マン時代


私が警備会社に在籍していた頃の話です。
 
私は当時ある歯科クリニックによく顔を出していました。
それはその歯科クリニックの窓口である院長先生の奥様に気に入られていると感じていたからです。
クリニックのセキュリティシステムから、院長先生のご自宅のホームセキュリティ、火災保険、防災グッズなど短期間に次々と契約を交わしてくれました。
 
奥様は私が訪問するとアポなしであっても、ご自身の仕事の手を止め、私の話をちゃんと聞いてくれました。
そして、私が提案したモノはほぼ全て契約してくれたのです。
勿論、私は奥様から見てメリットがあると思えるモノしか提案していません。
それでも、提案したモノをほぼ全て契約してくれるというのは、そうそう実現するモノではありません。
 
そして、奥様は事あるごとに、
「あなた、本当に話が上手ね」
「私は外資系の保険会社のもの凄く稼いでいる営業マンもたくさん知っているけど、川端さんほど話が上手い営業マンは見たことないわ」
などと私の話の上手さを事あるごとに褒めてくれました。
 
こうした事から、私はこのように思っていました。
・奥様は私を気に入っている
・奥様は私の話の上手さを評価しているからこそ、次々と契約を交わしてくれている。
このように接してくれるお客様を前に、営業職がこのように感じるのはごく自然なことです。

私の世界を変えてしまった奥様の本音


ある時、私は奥様にこう聞きました。
「どうして短期間にこれほどの契約を結んでいただいたのですか?」
 
私が予想した答えは
「それはあなたの話が上手いからよ。」でした。
今思えば、私は奥様にいつものように褒めて欲しかったのだと思います。
何気なく投げかけたこの質問が私のその後の営業マン人生に大きな影響を及ぼすことになろうとはその時は露ほども思っていませんでした。
 
しかし、奥様の返答は驚くべきモノ、全く想像しないモノでした。
 
「せっかくだから、正直に本音を言っちゃうね。
それは川端さんがとっても、とおーっても、しつこいからよ。
あなた、異常よ、契約への執念が。
まあそれが不思議と嫌な印象を与えないのはあなたの人柄ね。
 
だから、次々契約したんだけど。
まあ話も上手いけどね、確かに」

 
私は現時点で、この奥様の一言は営業職としての私の三大分岐点の一つだったと捉えています。
それはこの奥様の一言の前後で、私が見える世界が全く変わったからです。
タイトルにもあるように、大きく世界が広がったからです。

当初感じた事、少し考えて気づいた事


まずその言葉を聞いた瞬間、私は大変ショックを受けました。
否定されたようにしか聞こえなかったからです。
話の上手さを持ち上げられると期待していただけにショックが膨らんだ部分もあったと思います。
 
やはり「しつこい」「異常」という言葉に真っ先にアレルギーを感じたのです。
しかし、冷静になって考えてみて
「これはとても大切なことを気付かせてくれた!」と思い直しました。
 
まず、
我々営業職はどこまで行っても、お客様の本音を分かってなどいないこと。
次に、お客様の本音を知らなくても契約獲得は十分可能であるということ。
そして、何より、
契約の理由をお客様に真摯に謙虚に聞くことの大切さ、です。
 
当時、私は自身の話の上手さに絶対の自信を持っていました。
それは同行した上司やお客様に度々そう言われていたからです。
私の直属の上司O部長はかつて営業職として日本一に輝いたこともある超優秀な営業職でした。
そんなO部長すら、同行した私の商談を横で聞いて、こう漏らしていたそうです。
「川端は天才だよ。色んな奴の商談を見てきたけど、あんな商談は見たことないよ。」
調子に乗っていたというよりは、事実として自分は他の営業職よりもはるかに話が上手いのだろうと思っていました。
 
奥様はその事自体を否定はしていませんし、普段から言っていることと矛盾していないので、奥様も「川端は話が上手い」と思っていたのは事実だと思います。
 
では、奥様の回答に戻ります。
 
まず、奥様ご自身が前置きしているように、この時の回答こそが奥様の本音により近いと考えられると思います。
「話が上手いこと」が契約の要因なのではなく、
主な要因は
【非常にしつこいこと】
とはっきりと断言しています。
【契約への執念が異常である】、
【でも、それが嫌な印象を与えないのはあなたの人柄】、
とも言っています。
 
 
奥様ご自身が契約へ至った道筋を正確に順番通り、教えてくれていると思いませんか?
私がこれまでに体験した事がないくらい、その道筋を正直に正確に教えてくれたのです。
 
先程の繰り返しになりますが、真っ先に気付いたのは以下の事です。
我々営業職はどこまで行っても、お客様の本音を分かってなどいないこと。
次に、お客様の本音を知らなくても契約獲得は十分可能であるということ。
そして、何より、
契約の理由をお客様に真摯に謙虚に聞くことの大切さ、です。


芽生えた疑問と仮説


そして奥様の言葉を考えるにしたがって、ある疑問、いや仮説が私の中で芽生えたのです。
それは、私が自負する話の上手さで契約に導いたのは実はごく一部で、
【実は大半がこのようなケースだったのではないか?】
ということです。
 
私はそれまで営業職の話の上手さはやはり最重要要素だと考えていました。
「川端さんのあの一言で契約を決めた」
「川端さんの話を聞いて、心変わりした」などと私の話の上手さを契約の理由に掲げるお客様が一定数いたからです。
今思えば、私自身がそう思われたいという願望を持っていたからこそ、そういう事例を過大に捉えていたのだと思います。
そう思われることがやはり営業職の醍醐味、最もカッコいい営業職像であると思っていたのも大きかったと思います。
営業職は誰しもこの「話が上手いと言われたい、思われたい」という誘惑に勝てないということです。
 
しかし、振り返ってみると、契約して頂いた中でこうしたケースは全体としてはごく一部です。
要するに、はっきりと話の上手さで契約したと認めたお客様の数など全体からすればそう多くないという事です。
ほとんどの場合は契約の決め手が何だったのかは不明だったことに気付きました。

見落とされているポイント


勿論、契約に至らないお客様に「何がネックでしょうか?」と聞く営業職はいくらでもいます。
それはまだ締結に至っていない契約を締結させたいからです。
しかし、契約を既に決断したお客様に『何故契約してくれたのか?』を聞く営業職はほとんどいないと思います。
既に契約という結果を獲得した相手にそのようなことを聞く理由が無いからです。
結果として、ほとんどの契約がどのように成立したのか、何が決め手となって契約に至ったのかを我々営業職は把握していないということにも気付いたのです。
 
では、我々営業職はどうしているかというと、「私のプレゼンが決め手になった」「私の営業テクニックが功を奏した」「お客様と趣味の話で盛り上がったのが決め手だろう」などと根拠なく自分の都合のいいストーリーを勝手に描いているのではないでしょうか?

導き出される結論


こうした事から、導き出される結論はたった一つです。
我々営業職は、どのようなきっかけでチャンスが広がり、何が決め手で契約に至ったのかを実はほとんど把握していないということです。
 
そして、そんな条件下で、営業という仕事を分かったような気になり、どのような努力が必要で、営業という仕事がどのようなモノかを語っているということです。
 
果たして、このようなことで、営業という仕事がどんなモノかを分かり、どのようなことが必要かなど分かるのでしょうか?
私は到底できないと思っています。
営業本やビジネス本などを読んでも、こうしたことをきちんと理解している方はほとんどいません。

具体的検証方法


ではどうすればいいのか?
契約に至っていないお客様に「何がネックか?」を聞くように、契約してくれたお客様に「何が決め手で契約に至ったのか?」を極力聞くことです。
 
そして、少なくともお客様の本音や契約の決め手が分からない時は、「不明」と明確に位置付けておくことです。
自分勝手で無根拠な決めつけをするよりははるかにマシであると思います。
こうしたことの積み重ねが正確な経験の記憶・記録となり、自身の営業活動の確かなデータになるのではないでしょうか?
 
このように考察した事から、その後は意識して、契約いただいたお客様に一定の割合で契約の理由を聞くよう心掛けました。

検証結果


すると、その結果は予想以上でした。
お客様の多くは私の話の上手さではなく、「よく顔を出してくれる」「熱心だから」「一生懸命だから」「真面目だから」を挙げたのです。
こうした評価の源は、大まかに言えば全てアプローチ量です。
アプローチ量によって、お客様はその営業職の真剣さや熱意を感じ、営業職にチャンスを与える最大の要因となります。
 
チャンスを与えるというのは、商談の場を用意する、お客様の情報(悩みや状況)を提供する、その営業職の話に真剣に耳を傾けるなどです。
 
これは改めて考えてみると、大きな発見でした。
と同時に少し考えれば誰にでも分かる簡単な事です。
しかし、当時の私も含めてこうした事を理解している営業職は少ないと思います。
 
勿論営業職の話が上手いことは悪いことではありません。
しかし、それを活かすには、お客様が営業職の話に耳を傾ける状態を作り、その場つまり商談の場を用意してくれることが必要になってきます。
考えてみれば、これも当然の事です。
こうした条件を作れていないだけなのに、話の上手さを追求してもそれを発揮する場が用意されていないということです。
結果が出ないのは至極当然の事です。
 
それを作るのはお客様の営業職への好感度の上昇が必要であり、それを起こすのが何よりアプローチ量であり、熱心さ、しつこさと表現できる部分だということになります。
 
こうしたことは話が決して上手くないのに結果を出す営業職が一定数存在するのも、逆に話は上手いのに結果が出ない営業職が一定数存在するという謎も無理なくすんなりと解明してくれます。
 
アプローチ量によってお客様からチャンスをより多く与えられる、或いはお客様との人間関係を深めることに長けていることこそが営業の世界で実績を残す営業職の共通点であり、話の上手さは必須条件などではない、という事を物語っています。
 
つまり、通説【話の上手さは営業職の必須条件】
は誤りであるいうことになります。

まとめ


私はその時から、
【営業活動とはお客様との人間関係・信頼関係を構築する活動であり、
その最大かつ最も効果的な方法はお客様へのアプローチ量を積み重ねることである】
というシンプルな結論に至りました。
 
私は奥様の一言から、まず自分のこれまでの持論をゼロから見直すことが出来ました。
そして、
我々営業職はお客様が契約してくれた理由を実は把握できていない、という事にも気付きました。
さらに、では最も多い契約の決め手は何かと考え、奥様の一言から
「しつこさ、熱意、アプローチ量」なのではないかと仮説を立てました。
 
そして、その後のお客様へのリサーチを重ね、それが事実であることを突き止めました。
 
こうして、私が営業活動とはお客様との人間関係・信頼関係を構築する活動であり、その肝はあくまでアプローチ量であると持論を確立するに至ったのです。
 
このように、奥様の一言は実に多くのことを教えてくれました。
こうしたことも、元々は私の「褒めてもらいたい」という幼稚な部分から生まれたのですから、営業という仕事は実に皮肉で面白いモノだなと思います。

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