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「オーストラリアは子育てしやすい」は本当か?

2020年末、6歳・5歳・3歳の子供を連れて、オーストラリア人の夫とシドニーへ引っ越してきて以来、「オーストラリアは子育てしやすいよね」の言葉を幾度となく聞いてきた。

でもこの言葉はなぜか漠然としていて「どうしてそう思いますか?」と聞くと、大体の反応は「え、なんでそんなこと聞くの?」とばかりに一度答えに詰まり、「のびのび出来るから…」とか「自然が豊だから…」とか、なんか個人的には腑に落ちない回答が返ってくる。
でもこれってあんまり日豪の子育て環境を正しく表現していないような気がする。だって日本だって受験やお稽古をさせないでのびのび育てることはできるし、住むところを選べば十分に自然豊かに暮らすことが出来るのだから。

結局のところ「オーストラリアは子育てしやすいよね」はその土地にいる人への労いとお世辞を言い合っているのに過ぎないのではないかな、というのが日豪両国で子育てをした私の率直な感想。みんなも日本に帰ったら日本在住の友達に「日本って最高だよね」って言うし、「オーストラリアの方が子育て良かった」だなんて言わないでしょう?

この記事は、「オーストラリアに住んで1年半、まだこの国の文化に浸かりきっていないフレッシュな気持ちを書き留めたい」という目的と、「もし私が知らないオーストラリアの子育てしやすい要素があるならその理由を教えて欲しい」という目的の、2つから書いている。だからめんどくさくて制度とかちゃんと調べて書いてないので間違ったこと書いてるかもしれないから本当に気になる人はちゃんとググってください。


幼児期の子育ての違い (1-3歳)

この時期の子育ての日豪の大きな違いとして、「保育園問題」があると思う。産休育休はオーストラリアでも1年程度認められているようで、問題はその後。復帰するとなると子供を保育園に預けることになると思うのだけど、オーストラリアで保育園的に使うところはLong Day Care。各地にたくさんあって、待機児童問題とかはそこまでないみたいだけど、問題は費用。1日150ドル(1万2千円)くらいする。これ、1ヶ月でなくて1日の費用だからね。
1歳児、なんなら0歳児を預かって給食からおむつから全部支給してくれて、一日中何かしらのアクティビティしてくれて、園庭もあるような素敵な校舎の施設が多いから環境としてはとても良いのだけど、いくらなんでも高すぎる。もちろん収入に応じて政府の補助があるのだけど、ほとんどの人にとって微々たるもの、と言うのが正直なところだと思う。オージーの知り合いの話を聞くと、「高すぎるから毎日は通わせられない、子供の社交性を育てるのと自分の息抜きのために週1-2回使う」というご家庭が多い印象だった。いやそんなの仕事できないじゃん。自分の時間を持てないじゃん。別に自分の選択で家庭に入るのはいいと思うけど、「保育代が高すぎて選択肢がないから諦めて家庭で子供の世話をする」って言うのは正直どうなの?って思う。日本も待機児童問題はあるけど、2022年の今、かなり解消されてきているし、認可外でも流石にここまで高額なところはそうそうないと思う。と言うわけで、この幼児期、特に1-3歳の子育てに関しては、「選択肢を持てる」と言う意味では日本の方が圧倒的に環境が良いと私は思う。

幼児期の子育ての違い (3-4歳)

この年齢の子供になると小学校(こっちはKindy=日本の幼稚園年長相当
から小学生)準備のために多くの子供がpreschoolに入る。preschoolはdaycareと違って基本的には幼児とはいえ意思疎通ができてオムツも外れている子供達が行くところだからグッと金額も下がって1日60ドル(5千円)くらいになる。金額が下がるから通わせるハードルも下がるんだけど、ここで問題があって、preschoolは「福祉でなくて教育。保育園じゃなくて幼稚園。」であるということ。オーストラリアは4学期制で学期の間に2-3週間の休みがあるんだけど、その休みごとにpreschoolはお休みになる。なんなら小学校より休みが始まるのが早くて休みが終わるのが遅い。そして開園時間は9:00-15:00、延長はなし。我が家は夫婦ともに在宅で仕事をしているから、会議のない方が基本的に相手をするという感じで動いているんだけど、当然一人で留守番できる年齢でもないし、これ夫婦でオフィスに出勤する仕事しているのであればどーするの?っていつも思う。

結局のところオーストラリアの子育ては、「親が子育てをする」という当たり前の事実に則っているんだと思う。daycareやpreschoolや、なんならplaygroupや図書館でやっているcircle timeや、いろんなサービスはあれど、基本、子育てをするのは親。仕事は子育ての言い訳にはならない。だからこそ職場はWFHをかなり認めているし、父親の育児参加が大きいのも母親だけではこれに対応できないからなんだと思う。両親「が」育児をする、という当たり前のの現実があって、社会構造や文化がそれをもとに形成されてきたのではないかな、と思う。
私は日本でがっつり保育園やシッターさん(オーストラリアに比べたら安価)、自分の両親に世話になりながらこの幼児期の子育てを終えてから渡豪した訳だけど、この国でもう一人産めと言われたらちょっとしんどいな、と思う。日本でももちろん大変だけど、一番肉体的・時間的に子育て負荷がかかるこの時期の社会インフラの手厚さは優っているように思う。

学童期の子育ての違い (Kindy-Year 4くらいまで)

この年齢になると、私は初めて「オーストラリア悪くないんじゃない?」と思えると思う。
オーストラリアの学校は、(コロナで限定的とはいえ)ボランティアなどで親が学校に出入りする機会がすごく多く、親同士もコミュニケーションをとることが推奨されていて、学校と保護者が一体となって子供を育てているという感じがする。どの子を見ていてもとても学校が楽しそう。学校によっては宿題もあり、あ、一応学校で勉強もしているのね。という姿も見ることが出来る。
なんと言ってもオーストラリアの学校は英語での授業がなので、英語を身につけることが出来る。英語がレベル別になっていてどの子にも無理がない授業になっているし、なんなら追加でESL(English for Second Language)も受けることが出来る。これを読んでいる人の母国語が日本語だろうから英語の指導は家庭ではなかなかサポートできないはず。だから英語を学校でやってもらえるのは本当にありがたいと思う。逆のパターン、オーストラリアのご家庭が駐在なんかで日本に来て日本の現地校に入ることになるとしたら子供はすごい負担だと思う。まずそもそも日本語を勉強するモチベーションはそこまで高いと思えないし、そして全ての授業が一斉授業。JSL(Japanese for Second Language)なんてやっているところなんて聞いたこともない(東京とかにならあるのかな)。
という訳で、オーストラリアの小学校は、日本-->AUSと移動して来た家族にとって、もしくはオーストラリアで日本人両親から生まれた子供にとって、親が教えてあげにくいことを学校が面倒見てくれるので本当にありがたい場所だと思う。

避けて通れないハーフっ子の日本でのいじめ問題

我が子は日豪ハーフで、夫は白人なので、見た目は「Theハーフ」って感じ。私は日本では実家のある北陸の地方都市に住んでいたんだけど、まあいじめ、というか、からかいは酷かった。通っていた保育園などでは先生方が守ってくれていたみたいだし、0歳からの同級生が多かったらクラスメートの子供たちはお互いにそいういうものと認識していたようだけど、公園で遊んでいて知らない小学生がいたりすると、まず指差される。そして「英語喋れよ」とか「外人は来るな」とか言われる。幼児期は子供達が公園で遊ぶときは親が付き添うけれど、小学生くらいになると親は来ないのでその子供を止める大人はいない。我が子たちはまだ小さくてその態度をあまり深刻には受け止めていないようであったけれど、まだ分別がない子供達が多いであろう日本の小学校に進学させるのはかなり問題があるように感じた。これはハーフの子特有の問題だし、東京などでは起こりにくいことなのかもしれないけれど、個人的には日本で子育てをする上でかなり気になっていた点である。

中学受験 (Year 5くらいからhigh schoolまで)

ここはもう経験がないから噂で聞いた話しか書けないんだけど、「オーストラリアには中学受験がない」は嘘だと思う。確かに日本のような塾はほとんどないし、塾に通う子供もすごく少ない。でもオーストラリアの公立高校はSelectiveと言って、受験をして入る学校があって、これはちゃんと試験で点を取れないと入ることができない。
でも塾がないということは逆に対策がすごく難しいということ。問題集もまあ本屋さんで見る限りは売っているけれど、これを(日本人の)親がリードしてやらせるのはハードルが高い、というのが正直な感想。
結果としてどうなるか、というと、「本当に時頭が良い子供がselectiveに行く」ということにつながる(一部の中国人のご家庭はかなり頑張るらしい)。
本来の目的に沿っていてとてもいいとは思うのだけど、でも逆にselectiveに行くほどの能力がない子供達はこの年齢で、ある程度自分の能力の限界や未来を感じるようになるのだろうな、と思う。もちろん全ての人が大学に行く必要がある訳ではなく、そうでない道も多く用意されているのがオーストラリアの良いところではあるけれど、なんともまあ残酷。そして親の力でなんとかするパターンとしては私立という選択肢があるのだけど(オーストラリアの私立は特に入学試験がなく早めに登録したら基本入れる)、私立は年間300万くらいかかるのがザラらしい。まじ!年間300万!6年間で1800万!!
私立はさすがにサポートはいいみたいだけど、札束でなんとかする感じが否めない。金額的に本当に限られた家庭以外はちょっと無理なんじゃないだろうか。(クリスチャンスクールとかもう少し安いようです)

まとめ


という訳でオーストラリアは子育てしやすいよねの根拠としてよく挙げられる「のびのび育てられる」というのは、あながち間違っていはいないとは思うけど、その代わりに「ちょっと背伸びした進路を選択することはできない」であったり、「お金がなければ教育は選べない」であったり、結構残酷な未来と繋がっているんじゃないかな、というのが現時点での正直な感想。
我が家は上記以外でも夫婦のキャリアや家族との関係など様々な点を考慮して現時点ではオーストラリアでの子育てを選択している訳だけど、また子供の成長を見ながら流動的にいろいろ選択していけたらな、と思っている。
そして、オーストラリアで子育てしている/していた皆さん、オーストラリアで育った日系のみなさん、私が知らないオーストラリアの子育てしやすい要素があるなら是非その理由を教えてください!


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