見出し画像

演劇『12人の怒れる男』見てきました。

 久しぶりに観劇かんげきしてきました。
『12人の怒れる男』です。
 ここから先はネタバレありますので、まだ見てない方はご注意ください。

 雨風あめかぜの中、傘を飛ばされそうになりながら、ようやくたどり着いた会場には、なかの舞台に正方形のテーブルが置いてあり、そのテーブルをぐるりと12きゃく椅子いすが取りかこんでおりました。それを見ていると、これからこの場所に、幽霊たちが出てきて、なにかおもしろいことが繰り広げられるという感覚におちいりました。それで私は、ワクワクして待ちました。


 物語の内容は、12人の陪審員ばいしんいんが、少年が、無罪むざい有罪ゆうざいかを話し合うというものです。少年は、父親殺しの容疑をかけられており、もし有罪になれば、死刑になってしまいます。最初、12人中11人が有罪と言い、1人だけが無罪と言っていたのですが、最後には、全員が無罪と言いました。
 最初から無罪を主張しゅちょうしていた、陪審員第8号の主張は、法律によれば、合理的ごうりてき疑問ぎもんが生じれば、無罪とみなされる。というものでした。つまり、あやしいところが少しでもあれば、有罪とは言えないので、無罪になるということです。
 この一本槍いっぽんやりで、8号は、みんなを説得せっとくしていきます。そして、ひとり、またひとりと、意見を変えていきます。

 これは、直観ちょっかん VS 理詰りづの対決だなと、私は思いました。他の陪審員は、少年の見た目や生い立ち、あきらかに少年に不利な証拠しょうこばかりの裁判を見て、直観的ちょっかんてきに少年は有罪だと判断しているのに対し、8号だけは、証言しょうげんこまかかく検討けんとうなおし、「合理的疑問が生じる」という論理的ろんりてきな判断で、無罪になると主張しています。
 最終的に、物語の最後まで、少年が有罪だったのか、無罪だったのかは、分からないまま終わります。
 けれど、全員が無罪と言って、部屋を出て行った後、8号がさっきまでみんなが座っていたテーブルを見つめ、ため息をつくような、一瞬のがあるのです。そのには、「これで良かったのだろうか」というような、ためらいが感じられるのです。これを見た時、私は、この8号が、実は、みんなの中で一番、少年の無罪を疑っていたのではないかと思って、ゾクッとしました。きっと、自分がみんなの意見を理詰めで丸め込んだは良いものの、少年が無罪か有罪かを最後まで自問自答じもんじとうしていたのは、この第8号だったのではないかと思ったのです。
 私は、最後まで少年の有罪を主張していた第3号が、みんなに切実に語った言葉にも、少し同感どうかんできました。「あの少年が犯人なのは、あきらかじゃないか。なんで、みんな目撃者を信じないんだよ」
 直観が、真実であることもあります。そのことも、8号は分かっていたと思います。だからこそ、最後まで自問自答していたのでしょう。けれど、その理詰りづめを支えていたのも、感情でした。少年がたとえ有罪であったとしても、死刑にはしたくないという気持ちが、8号にはあったのではないかと思われます。そう思う理由は、この8号の怒るポイントにあります。
 この話の舞台は、とても暑い日の、扇風機せんぷうきこわれた蒸し暑い部屋の中です。その中で、12人の男が閉じ込められ、みんながイライラしながら話し合うのです。題名に『12人の怒れる男』と、あるとおり、最初は怒る人を「まぁまぁ」と言ってなだめていた人も、途中から、様々な理由で怒り出します。
 みんなそれぞれ、怒るポイントが違います。早く話し合いを終わらせたくて怒る人。自分をバカにされると怒る人。自分の境遇きょうぐう見下みくだされると怒る人。お年寄りに失礼な言動を取る人に怒る人。
 そして、この8号が一番怒ったのは、人の命を大事にしないことに対してでした。だからこそ、この少年の死刑を、なるべくなら防ぎたいという感情が、心の奥底にあったのだと思います。
 みんな、暑いし、疲れているし、早く帰りたい。その感情に流され、あまり深く考えずに、直観的に少年を有罪と判断しそうになる。けれど、それに流されずに、理論で立ち向かう。けれどその理論の根底こんていにも、感情があるというのが、この舞台の面白い所だなと思いました。

 今回この舞台を見て、人がどういう所に怒りを感じるのかということが、その人の性格や考え方を端的たんてきに表すんだなということが、発見でした。
 例えば、終始しゅうしなごやかだった6号も、おじいさん(9号)に失礼な言動をする人に対しては、怒鳴どなっています。この6号は、おじいさんが部屋に入って来た時、気遣きづかって、椅子をひいて、座らせてあげていました。そういう、その人ならではのこまかい動作や表情も、今回見ていて楽しかった一つでした。それが、12人分あるのですから、とても一回ではこの劇を観れた気になりません。もう一回、観たいなあ。
 ぜひ、また見る方は、この人は、どのポイントで怒っているのか。ということにも注目していただくと、より楽しめるかもしれません。

 この劇を観て、自分は、どのポイントで怒るだろうかと考えました。
 私は、自分の時間を邪魔じゃまされると、イライラします。
そういう人間でした。

あなたは、どんなポイントで、怒りますか?
自分に聞いてみてください。


今回観た劇

ELEVEN NINES
『12人の怒れる男』2022
2022年8月13日〜20日 かでるホール