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青い本から探る、紙と印刷の世界

本が好きです。
青色が好きです。

好きと好きが掛け合わさった結果、いつの間にか本棚が青くなっておりました。

妙に青が多い本棚

あれ…?意識的に青い本を集めた記憶はないのですが…?
(写真撮影のために青い本を真ん中に集めたことは白状します。普段はばらけて置いてます)

苦笑いしながら本棚を眺めていると、当たり前ですが1冊1冊たたずまいが違うんだなあ…と改めて気づきました。

同じ「青い本」なんだけど、少しづつ青の具合が違うんです。
青い紙を使ったり、印刷で青を表現したり。
箔押しが印象的だったり、中を開けば本文も青かったり。

紙と印刷が表現できる世界の広さを感じます。
そんなわけで今日は、私の青い本コレクションをご紹介しつつ、紙と印刷が織りなす様々な表現を観察してみたいと思います。

※記事内には紙の確認のために見本帳を一緒に撮影した写真が出てきますが、色の確認にのみ使っており、厚みは写真の通りとは限りません。

青い紙×青の印刷

最初の1冊は、クレイグ・モド著「ぼくらの時代の本」。紙と電子書籍、両方の視点から本のあり方について書かれたエッセイ集です。

カバーはなく、表紙のみ。
ただし表紙がカバーっぽく折られているので、一見カバーがあるように見えます。

厚手の紙がカバーのように折られている

NTラシャ 空をベースに印刷で青の濃淡が表現されています(明るい青が紙地の色)。

印刷といえば白い紙に4色印刷が一般的なので、青い紙×青の印刷は珍しい組み合わせと言えますね。

イラストの線と文字はスミ、タイトルとiPadのディスプレイ部分は白箔です。

白いところは箔押し

で、実は買って読んだ当初は全然気づいていなかったんですが…

写真ではわかりにくいんですが、本文も青みがかった色なんです!

中の写真やイラストも同じ青で印刷されているのに、何で気づかなかったの、私…?

文字=黒だと思い込んでいたんでしょうね。思い込みって怖い…。

こんな風に文字の色をデザインに組み込めるのも紙の本ならでは。電子書籍だと文字色を変更するのはユーザー側ですもんね。

この本の中で、紙の本は「使い捨てされない、紙で作る意味があるもの」になっていくだろう、とうニュアンスの記述があるのですが、まさに「紙で作る意味があるもの」が実践されている装丁だと思います。


青い紙×青箔押し+銀刷り

紺色の紙に青の箔押しが映えるこちらの本は、藤田直哉編・著「地域アート」。

地域アートとは、地域で開催されるアートプロジェクトのこと(瀬戸内国際芸術祭や横浜トリエンナーレなど)。テーマがアートなだけあって、細部まで美意識が行き届いた静謐なたたずまいの装丁です。

カバーの青はおそらく、またまたNTラシャ。色はあい、ですね。
青箔、銀刷り、バーコード部分はオペーク白刷り、と凝った仕様です。

先ほどは青い紙×青の印刷でしたが、こちらは青い紙×青の箔押し。濃紺の紙とキラキラした青箔のコントラストが印象的です。
オペーク白刷りは後ほど触れるとして、忘れてはならないのがシルバーインキとの相性の良さ

カバーをめくった表紙(こちらもNTラシャ)にもシルバーで印刷されているのですが、これがとっても綺麗…!
カバーを取らないと見えないのがもったいないと感じるくらいです。

帯まで青い紙を使っているのはなかなか珍しいですね。そういう意味ではかなり青にこだわっている本かもしれません。
ちなみに見返しは、ポルカレイド ライムでした。

この本は本文用紙がグレーで、文字が青色なんです。
(こっちはちゃんと買ったときに気づきました!)

読みにくいという声もあり賛否両論みたいですが、個人的には徹底した美意識が貫かれている感じがして、好きです。


青い板紙×表裏差を生かしたデザイン

続いては、京都のhoka booksさんでジャケ買いっていうのかな…、装丁が気に入って買った本です。

仲西森奈さんの歌集「起こさないでください」。

ここまでくると本当に青…っていうか紺が好きなんだなって実感しますね…。紺色に吸い寄せられる習性でもあるんでしょうか。

この装丁はコデックス装といって、背がむき出しになっている製本方法です。表紙でくるまれていない分やわらかく、180度開きます。

表紙は大和板紙さんのネイビー。
ネイビーは表裏で色が違うんですが、表紙は紺色(紙の表)の方が外側、裏表紙は薄い青(紙の裏)の方が外側に出ています。
紙の特性を生かした装丁で面白いですね。

それにしても表紙のインキ、盛り盛りですごい…と思って調べてみたら、出版社さんのツイートで紹介されていました。

白2回にさらにクリーム色まで印刷されているとは…!
でも、それくらいしないとインキが紙の地色に負けてしまうのかもしれませんね。

オフセット印刷のインキは透明度が高く、仕上がりが紙の色に大きく影響されます。なので、濃色の紙に通常の4色印刷をしても、紙の色が勝ってしまってうまく印刷できません。

そこで活躍するのが白のオペークインキです!オペークインキとは、不透明性があるインキのこと。とはいえ、完璧に下の色を隠すほどの不透明性ではないので、やや紙の色に影響を受けた白になります。

先ほどご紹介した「地域アート」のバーコード部分も白のオペークインキだと思われますが、真っ白ではなく紙の色を拾った白になっていますね。

「起こさないでください」の場合は白を2回刷っている上にさらにクリーム色を重ねているので、下地の色が目立たなくなっているのだと思います。


板紙×青のベタ刷り

先ほどの「起こさないでください」は元々青い板紙が使用されていましたが、今度はクリームの板紙に青(またも濃紺!)がベタ刷りされている本です。

ミヒャエル・エンデの詩集「影の縫製機」。

こちらの本はカバーがなく、ケースにしまう仕様。
このケースに板紙が使用されていて、タイトルとイラスト部分は紙地の色、背景が青のベタ刷りです。

ケースの中を見ると紙本来の色がよくわかる

このように、濃い背景に白い部分を作りたい場合は、色紙を使うよりも白い紙に背景を印刷して文字やイラストを紙白で表現するパターンの方が多いです。(この書籍の紙地はクリーム色ですが)

なぜなら、先ほど書いたようにオペークインキは紙の色の影響を受けてしまい、完全な白にはならないからです。

他に何か実例はないかな~と探したら、あった!

この本の場合は、タイトルの白が紙の色で、背景の水色は印刷です。

もしも色紙か印刷での表現かを判別したいと思ったときは、白い部分に注目するとわかりやすいかもしれません。


白い紙×青の印刷

先日、須磨の自由港書店さんに行った際に、1冊の本を店主さんにおすすめいただき、買いました。それが、「野生のアイリス」という詩集です。
…おすすめされた本すら青いの!?(たまたまです)

この本は白い部分が多く、青はアクセントと思いきやカバーを取ると…

青!というか紺!

この青は印刷な気がします。ただ、白い部分は紙地ではなく、うっすら色がついているので印刷されている感じがしますね。

見返しはこの記事3回目のNTラシャ。色は「地域アート」と同じ、あいです。

この本も、中のデザインが面白くて。

よーく見ると、下の方に薄くスミが印刷されているんです。最初気づいたときは目の錯覚かと思ったほどの淡いグラデーションです。

詩集の内容から地面を表現しているのかなと思い、その旨をTwitterでつぶやいたところ、なんと翻訳者の方から直々にリプライで教えていただきました!

このグラデーションは、天と地、夜明け、季節の移り変わりなどを具現するようにあしらわれているとのこと。
祈りの詩が多いので、深いところから生まれてきたイメージで作られたそうです。

この詩集は私にとってはちょっと難しいのですが、何度も読んでいると、心の深い部分に言葉と祈りが染みこんでくる気がします。

さいごに

まだまだ青い本はあるのですが、一旦この辺でおしまい。

改めてじっくり観察してみると、同じ青といえど色々な違いがあって面白いですね。青い紙がNTラシャばかりなのはちょっと偏りがありますけど(笑)。

一口に青といってもこれだけ表現の幅があるわけですから、他の色や紙質も考えると紙と印刷の表現できる世界は無限大な気がしてきます。
実際は印刷や加工には制約がいっぱいあるわけですけど、その中で最大限のパフォーマンスで良いモノを作ってくださるクリエイターの方には尊敬しかありません。

ちなみに、テーマとずれるので内容についての感想はあまり書きませんでしたが、どれも興味深くて、買って良かったと思う本ばかりです!

…と、ここまで書いてふとパソコンを見たら…

どんだけ青(紺)が好きなんだ。

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