紙とSDGsについて考える
昨今、話題のSDGs。
下記のロゴを見かける機会も各段に増えました。
紙とSDGsを考えたとき、今一番目にする機会が多いニュースは、脱プラスチック関連ではないでしょうか。プラスチックの代わりに、紙ストローや紙製パッケージが注目されていますね。
実際、昨年我が家で購入したワイヤレスイヤホンのパッケージがすべて紙でできていました。
イヤホンカバーが刺さっているのも紙という徹底ぶり。
調べてみると、SONYは環境中期目標「Green Management 2025」において、新たに設計する小型製品のプラスチック包装材全廃を目標に掲げているようです。
プラスチックの代替品としての紙にももちろん興味はありますが、今日考えてみたいのはもう少しミニマムな紙の世界のSDGsです。
プラスチック→紙についてのニュースは多くても、紙そのものをSDGsで捉えた視点を知る機会は少ないような気がして。(あっても今度は紙自体を使わない=ペーパーレスに話がいきがち…)
例えば名刺を作りたい。冊子を作りたい。パッケージを作りたい。
そんなとき、どんな視点から紙や印刷会社を選ぶとSDGsにつながるのか。
紙や印刷業界の中でできる取り組みはどんなものが考えられるか。
前半はすでに社会的に認められている取り組み、後半は「こんな紙×SDGsはどうかな?」という私のアイデアを書いてみました。
0.SDGsとは
本題に入る前に、まずはSDGs自体について少し。
17のゴール(目標)は環境問題からジェンダーや働きがいといった社会問題、さらには経済問題まで様々です。
冒頭の脱プラスチックの場合は、目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献するアイデアといえます。
実は、1つのアイデアが貢献する目標は1つのみとは限りません。例えばこれから紹介するFSC認証の場合、なんと14のゴール(+40項目のターゲット)に貢献するのだとか。
確かに、17の目標は独立した別個のものというより、お互いに関連しあっているので、当然と言えば当然なのかもしれませんね。
1.環境に優しい紙を選ぶ-目標15「陸の豊かさも守ろう」
最もわかりやすく、すでに取り組みが進んでいるアイデアは、目標15「陸の豊かさも守ろう」に貢献する「環境に優しい紙」を使用することではないでしょうか。
ここで言う環境に優しいとは、森林保護につながるということです。
ご存じの通り、紙は木からできています。
ユニセフのホームページによると、世界の森林は年々減少しており、毎年330万ヘクタールが減少しているそうです(2010年~2015年までの平均)。もちろん木材がすべて紙に使われているわけではありませんが、紙が少しでも森林減少を食い止めるのに貢献できるなら、それは良いことですよね。
再生紙
一般的な環境に優しい紙のイメージは、やはり再生紙ではないでしょうか。
原料に古紙が使われる分、新たな木材パルプを使用する量が減ります。
強度や白さの面では新しい紙よりも劣る傾向にありますが、再生紙ならではの風合いがあるのも魅力的。
特に大和板紙さんの板紙はおしゃれな色合いも多く、パッケージや書籍の表紙などにもよく使われていますね。
非木材紙
木材以外で紙を作る=木材を使う量が減るということで、非木材紙も環境に優しいとされています。
バガス(サトウキビから砂糖を作ったあとの残りカス)や竹を原料とした紙などが有名です。
FSC認証紙
紙業界ではポピュラーでありながら、ちょっとわかりにくいのが「FSC認証紙」。今回はこのFSC認証紙をメインに説明してみます!
紙の名前の最後に「-FS」「F」「CoC」などのアルファベットがついているのを見たことはありませんか?
「アラベール-FS」「ミセスB-F」「OKミューズガリバーグロスCoC」といった具合です。
この謎のアルファベットはすべて、FSC認証紙(森林認証紙)であることを表しています。
FSC認証とは管理された森林から生産された木材、もしくはその木材から作られた製品であることを証明する制度です。
この「認証された木材」を使用して作られた紙がFSC認証紙というわけですね。
先ほど世界の森林の面積は年々減少していると書きましたが、その原因の1つが違法伐採です。FSC認証紙を使うということは、違法伐採した木材を使うことを支持しない、という意志表示になります。
そういうわけで、例えば名刺や冊子、パッケージを作りたいときに、FSC認証紙を選ぶと、目標15「陸の豊かさも守ろう」や目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献することになります。
(先ほど少し触れましたが、実際はもっと多くの目標に貢献できます。詳細はこちら)
FSC認証紙であることがすぐわかるように、名前の後ろに「FS」「F」「CoC」などがついているわけですね。
なかにはアルファベットはないけどFSC認証紙、といった紙もあるので(例:ポルカ、ブンペル)、気になる方は事前にネットで検索するか、印刷会社さんに問い合わせてみると教えてくれますよ!
普段、紙を選ぶ機会がないけど…という方は、FSCマークがついている製品を買うことで貢献できます。
例えば、先日私が買った野菜ジュース。
紙パックの上部にあるのがFSCマークです。
FSCマークを表示するには、森林認証紙を使っていることはもちろん、流通や加工会社も認証を取得する必要があります。
「よーし、FSC認証紙を使っているからマークつけよう!」といって気軽につけられるものではないんですね。
だからこそ、マークがあると信頼性が高まります。
認証を受けた会社しかFSCマークを印刷できないため、認証取得は印刷会社のアピールポイントの1つになっています。
再生紙や非木材紙は種類がそれほど多くありませんが、FSC認証紙は特殊紙からコート紙、上質紙や板紙、と多種多様な紙から選ぶことができるのが魅力の1つ。
そういった意味ではデザインの幅を狭めることなく、SDGsに貢献できると言えるのではないでしょうか。
ちなみに、パッケージは特にFSCのニーズが高く、身の回りのパッケージを見ると実はFSCマークがついている、なんてことも多いと思いますよ。
2.こんな「紙×SDGs」はどうだろうか?アイデア
続いては、私なりに考えてみた紙×SDGsのアイデアを書いてみます!
印刷会社のストック紙を使って印刷できるサービス
これは個人というよりは印刷会社さんの協力が必要な話になりますが。
印刷会社さんには、ロットの関係や印刷のロスを見越して多めに買って余った紙がストックされていることが多々あります。
そういった余り紙を廃棄するのはもったいない!ということで、文具博などのイベントで販売されたり、ノートなどの紙製品として商品化したり、各社が様々な取り組みを行っていますね。
これも立派なSDGs(目標15「陸の豊かさも守ろう」や目標12「つくる責任 つかう責任)だと思います。
こういった取り組みから派生して、余り紙で印刷できるサービスがあったら面白いんじゃないかなー、と。
紙や紙製品は商品なので、売れなければ結局在庫になってしまうじゃないですか?
印刷は受注生産型のシステムで、欲しい人が欲しい分だけ手に入れるので、無駄がありません。
大きな印刷物は難しいと思いますが、余り紙にオンデマンド印刷or活版印刷or箔押しをして、名刺やショップカードが作れたら楽しそう!
余る紙はその時々によって変わる分、毎回違う紙に印刷できるのも新しい発見がありそうですよね。
先日、桜ノ宮 活版倉庫さんで名刺を作ったときに余り紙を使わせてもらって、とてもテンションが上がったために生まれたアイデアではあります(笑)。
…まあ、これは印刷を生業としていない人の妄想なので、オペレーションや価格設定の問題などビジネス的に難しい部分があるかもしれませんが。
でも、「紙製品を買う」と同じくらい「印刷する(加工する)」が身近で気軽になったら、日常生活がもっと面白くなる気がするのです。
3.今回記事を書いてみて気づいたこと
ここまで偉そうに書いてきましたが、実を言うと、今回色々と調べるまで、SDGsについてうすーくしか知りませんでした…。
なんとなく環境問題の話が多いかな?くらいで。
調べていくうちに感じたのは、今は色々なアイデアを出していく段階なのだろう、ということ。
「SDGsはビジネスチャンスだから積極的に取り組もう!」と書かれた本がある一方、「急にSDGsと言って売り出すのは浅はかだ」というような辛辣なコメントも見ました。
また、例えば脱プラスチックの話の場合、紙に置き換える際に多くのエネルギーがかかってしまったら意味がないとの意見もあります。全方向に100点満点のアイデアを出すのはなかなか難しい。
皆で色々な意見を出し合って、試行錯誤を繰り返しながら、最も良い方法を探り当てていくしかないのでしょうね。
一番よくないのは、思考停止になること。
そう思って、これからも色々考えていきたいと思います。
最後に、余談。
図書館で借りた参考文献の見返しがブンペルでした。やっぱりFSC認証紙ということで選ばれたのかな?
【参考文献】
村上芽、渡辺珠子著「SDGs入門」日本経済新聞出版 2019年
Jose.川島良彰、池本幸生、山下加夏著「コーヒーで読み解くSDGs」ポプラ社 2021年
足立英一郎、村上芽、橋爪麻紀子著「ビジネスパーソンのためのSDGsの教科書」日経BP 2018年
【参考サイト】
外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
ユニセフ https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/
FSCジャパン https://jp.fsc.org/jp-ja
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