自分の名刺で大実験!7種類の紙×活版印刷
ようやく名刺を作りました。
7種類の紙で。
これ、知り合いに渡すときにトランプみたいに広げて「どの紙が良いですか?」って選んでもらえるのが楽しい…!
(初対面の方にはさすがにやりにくいですが)
印刷は活版です。非塗工・微塗工・マットに仕上がる紙…など色々な種類で刷ったので、印刷の相性を比較することもできます。
今回、印刷立ち合いに行かせていただきましたので、名刺ができるまでを活版印刷の工程とともにご紹介したいと思います!
0.名刺を作るまで
名刺の印刷をお願いしたのは桜ノ宮 活版倉庫さん。
先日書いた「紙と活版印刷の相性がわかるすごい見本帳の話」内でご紹介した、「すごい見本帳」を制作された活版印刷所さんです。
書きながら自分も活版で何かを作りたい欲が爆発したので、迷うことなく桜ノ宮 活版倉庫さんにご依頼しました。
デザインから相談できるのも、非デザイナーにはありがたい限りです。
デザインは「シンプルでお願いします!」のみお伝えしてお任せ(笑)。
それしか言っていないのに、シンプルかつスタイリッシュな名刺に仕上げていただきました。本当に感謝です!
悩んだのが、どんな紙に印刷するかでした。
当初は名刺に使った紙の名前も一緒に印刷したら面白いかな~なんて考えていたんですが、桜ノ宮 活版倉庫の小瀬さんにご相談したところ、
「名刺入れから色々な紙が出てくる方が面白くないですか?ヤグチさんは見本帳を広げていろんな種類の紙を見せてくれるイメージがあるし」
と言っていただき、一瞬でそのアイデアの虜になりました。
それ、それでお願いしますー!!
というわけで、今回は桜ノ宮 活版倉庫さんにご協力いただき、印刷後に余って在庫になっている紙4種類+私が刷りたい紙3種類の計7種類で印刷してもらうことにしました。
1.名刺ができるまで
①紙選び
2月某日。桜ノ宮 活版倉庫さんに印刷立ち合いに伺いました。
まずは提供いただく紙選びからスタートです。
実は紙って、買う枚数によって値段が変わるんです。
1枚で買うよりは50枚や100枚と言ったキリのいい単位で買った方がお安くなります。中には少ない枚数では買えない銘柄もあるんですよ。
桜ノ宮 活版倉庫さんでは多めに買って余った紙を保管されており、その中から4種類を選ばせていただきました。
この在庫紙でいつでも名刺やカードが作れるサブスクとかあったら面白そう…(思いつき)
素敵な紙がたくさんあって迷ったのですが、今回はワイルド-FS・ディープマット、ハーフエア・アラベール-FSの4種類を選びました!
続いて、私が選んで取り寄せていただいた紙は下記の3つ。
これで微塗工紙(スノーブル-FS)、マット仕上げの塗工紙(マットカラーHG)、非塗工紙(その他)の3種類が揃ったので、インキの発色が違うのか比べることができるはずです!
②版のセット
紙を選んだところで、印刷の準備に入ります。まずは版のセットから。
版とはハンコのようなもので、版の凸部にインキをのせ、圧をかけて紙に転写する…というのが活版印刷の仕組みです。
版は印刷所では作れないので、あらかじめ製版屋さんに発注してもらっています。
桜ノ宮 活版倉庫さんの版は、真鍮で作られた真鍮版。樹脂でできた版よりも印刷上がりがシャープです。
真鍮版そのものがカッコよくて、印刷前からテンション上がってました。
版はメタルベースという金属製の台に貼り付けられます。その後、印刷機に版を取り付けるための枠「チェース」の中にメタルベースごとセット。版がずれないように、締め木や締め金、ジャッキを中に入れて、固定すれば完了です。
③インキの準備
続いて、インキの準備をします。
今回はスミ1色で印刷してもらうので、調色(インキを混ぜて別の色を作ること)はなしです。ちなみに桜ノ宮 活版倉庫さんでは調色に別料金はかからないので、自分好みの色を気軽に相談できます。
面白かったのが、下記の工程!
インキが硬かったので、電球で温めて柔らかくしているところです。
しばらくして「触ってみてください~」と言われてヘラで触ってみたら、本当に柔らかくなっていました。
身近にあるもので解決していく感じ、好きです。
インキが柔らかくなったところで、ローラーにインキをのせていきます。
今回は名刺サイズの印刷なので、インキをのせるのはローラーの半分くらいで良いそうです。
インキをのせて機械を動かすと、あっという間に他のローラーにインキが移っていきます。
これでインキの準備は終了です。
④試し刷り&ムラ取り
先ほどセットしたチェースを印刷機に取り付けて、いよいよ印刷を開始します。
印刷スタート!
…といってもまずは試し刷りから。機械を動かしたらすぐに完璧な印刷物が出てくるわけではないのです。
何度か試し刷りを重ねて、都度人の手で細かい調整を入れていき、最終形になっていきます。
小瀬さんいわく、印刷しているうちに徐々にインキの状態が良くなっていくとのこと。
なんだか、人間と一緒ですね。
人間も、スポーツする前にはウォーミングアップが必要ですよね。ウォーミングアップで体温を上げることで体が最大限のパフォーマンスを発揮できるように、機械も徐々にギアが上がっていく…。
そう思うと人間味が感じられて、印刷物により一層愛着がわいてきます。
チェースの後ろに見えるのは、何を隠そう、紙。
この紙の枚数を増やしたり減らしたりすることで、圧の強さを調整していきます。
ちなみに圧の強さはある程度リクエストできます。今回は裏側に影響が出ない程度にへこませてほしい、とお願いしました。
また、この紙には圧の強さを調整するだけでなく、圧を均一にするという役割もあります。
実は、版をセットした状態でそのまま印刷しても、インキがまんべんなくのらずにムラがでてしまうんです。そこで、紙を小さく切って足したり減らしたりして、印刷の濃度が揃うように調節します。この作業を「ムラ取り」と言うそうです。印刷しては紙を調整し、また印刷して確かめる…。とても細かくて根気のいる作業です。
美しい印刷の裏には、こんなに地道な作業があったのか…!
以前、小瀬さんに「活版印刷は印刷所によって全然仕上がりが違う」と教えていただきましたが、これは確かに印刷する人によって仕上がりに個性がでるなあ…と納得。
ちなみに小瀬さんによると、「ムラ取りは箔押しにもあると思いますよ」とのこと。
普段何気なく目にしている印刷物は、人の手による繊細な調整によって支えられているのだと再認識しました。
⑤本番
何度か調整を繰り返して、いよいよ本番!
紙を変えると、その度に最適な圧に調整しなければなりません。つまりは新しい紙を刷るたびにチェースの裏の紙を出し入れするということですね…。
7種類もすみません。。と思いつつ、そこはプロ!小瀬さんがなるべく調整する量が少ないように、厚みの近いものから順に印刷していってくれました。
また、印刷が難しいと思われる紙(今回の場合は塗工紙)は後回しに。先ほども書いた通りインキは機械を動かしていくうちにどんどん馴染んでいくので、インキがベストの状態になったときに刷りにくい紙を持ってきた方が良いそうです。
今回は
ワイルド→ディープマット→ハーフエア→アラベール→ポルカ→スノーブル→マットカラーHG
の順で印刷してもらいました。
下記の写真は、ディープマットを印刷している様子です。
写真ではわかりにくいので、参考に動画を貼り付けますね。
当日動画も撮ったんですが、noteは動画そのものが埋め込めなかった…。というわけで、桜ノ宮 活版倉庫さんのYouTubeをお借りします。印刷の流れが映像になっていますのでご参考になれば…!
印刷後も、ムラなくへこんでいるかをチェック。
左がカットする前、トンボが付いた状態。右は試しにカッターで切ってもらったあとです。
トンボが右に寄っているのは、印刷中にズレが起きていないか、重ねてチェックするためとのこと。もしズレていたら、トンボが一直線にならないわけですね。なるほど…!
印刷の立ち合いはここまで。このあと、所定のサイズに断裁されて、後日郵送で届きました。
2.完成した名刺を比べてみよう
完成した名刺たちがこちら!!
左上からハーフエア・ディープマット・ポルカ・スノーブル。
左下からワイルド・アラベール・マットカラーHG です。
写真では違いがわかりにくいとはいえ、同じ白でも白さに違いがあるのはわかりますね。他の紙に比べて、マットカラーHGは少し暗く感じます。
それでは少し比較してみましょう!
①微塗工紙・塗工紙(マット)・非塗工紙の違い
通常のオフセット印刷であれば、下記のように違いが出ます。
では活版印刷ではどうなるのか?答えは…。
左から、アラベール(非塗工紙)、スノーブル(微塗工紙)、マットカラーHG(マット仕上げの塗工紙)です。
写真ではややわかりにくいのですが…微塗工のスノーブルはスミにテカリ(光沢)が見られます。
元々の紙が白いこともあり、コントラストが出て力強い印象です。
マットカラーHGは、確かにインキが光を反射せず、まるでオフセット印刷かのような仕上がり。むしろ網点がない分キレイかも?
活版印刷の良さがでているかどうかは意見が分かれるところだと思いますが、これはこれで面白いです。
アラベールを含めた非塗工紙ですが、オフセット印刷ほど「インキが沈んでいる」感がなく、風合いと馴染んでいます。やはり、一番バランスが取れた仕上がりになっているのではないでしょうか。
活版印刷では非塗工紙が使われることが多いのですが、やはりこのバランスの良さと手触りのバリエーションが豊富な点が選ばれる理由だと感じました。
ちなみに印刷のしやすさも非塗工紙と塗工紙で違うそうで、塗工紙の方はある程度印刷してインキの精度を上げてから刷った方が良い、と小瀬さん。
「鉄製のフライパンに油が馴染んでいくように、印刷するうちに真鍮版にインキが馴染んでくる気がする」そうです。馴染んだ状態のときに印刷しないと、塗工紙はキレイに印刷できないんじゃないかな、とのことでした。
樹脂版だとインキがのりすぎると思う、ともおっしゃっていました。
例えるなら真鍮版は「撥水」、樹脂版は「防水」だそうです。版にもそれぞれ個性があるのですね。
②裏側にも特徴が出る
突然ですが、ハーフエアとアラベールって、ぱっと見似てると思うんですよね。
今回はハーフエアのベージュっぽい色を選んでいるので違いが一目瞭然ですし、触ってみたらハーフエアの方がガサガサしているんですが、系統が似ているというか…。ポケモンでいうとピッピとプリンくらいの違いというか(ポケモン第一世代なのがバレる)。
でも、裏側を見たらその特徴の違いが如実に出ていました!
今回、あまり裏側に影響が出ない程度の圧でお願いしましたが、とはいえオモテにあまりへこみがなさすぎるのも活版印刷らしくない…。というわけで、ぎりぎりのラインを狙っていただきました。
同じくらいの厚みで、オモテ側のへこみ具合はほぼ一緒なんですが、裏側を見るとハーフエアはほぼフラット。一方、アラベールはオモテ側のへこみが裏にも影響しています。
おそらく、ハーフエアはその名の通り「半分空気が入った」ようなふんわりとした紙なので、クッション性が高く、へこみが裏に出にくいのだと思います。
アラベールの裏側のへこみもそんなに目立ってはいませんし、まったく問題はないのですが、インキののり以外にもこういった違いが見られるのは面白いと思い、ご紹介しました。
③ワイルドのガサガサ感、活版印刷との相性◎
どの紙も個性があって良かったですが、個人的に一番面白いと思ったのはワイルドでした。
「モノ」としての存在感が強烈で、一度触ったら忘れられない触り心地。
コットンが配合されているので柔らかさもあり、活版印刷のへこみとの相性抜群です。
逆に、名刺にはちょっと難しかったかな…と思ったのがポルカ。
よく見たらカラフルなチリが入っているんですが、名刺自体が小さいサイズなのであまりチリが入らず、良さがわかりにくくなってしまいました。
もうちょっと大きなサイズの紙モノに使うべきでしたね…。反省。
ですが、こちらもふかふかした紙なのでしっかりとへこみ、活版印刷との相性は良いと感じました。
さいごに
桜ノ宮 活版倉庫さんのご協力のおかげで、大変勉強になった&面白い名刺ができました!
印刷立ち合いに行かせていただいて、活版印刷は印刷する人によって表現が大きく変わる印刷方法だと改めて感じました。人によって揺らぎがあるのは、表現の幅が広いとも言えます。
印刷に個性がでる、って素敵じゃないですか?
せっかく活版印刷で印刷物を作るなら、ネットで発注ではなく実際に見て触って体験してもらいたい!完成品ができるまでの工程にも魅力が詰まっています。早く、動きやすい世の中になるといいなあ。
そして、顔合わせや打ち合わせもオンラインで完結して、名刺交換する機会も減りつつありますが、やはり自分の名刺を持つと背筋が伸びる感じがしますね。
もっともっと紙や印刷のこと、知って勉強して、わかりやすい言葉で発信していくぞー!と決意を新たにしたのでした。
デザイン/印刷/用紙協力
桜ノ宮 活版倉庫さん
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