紙好き人間の結婚式のペーパーアイテム作り記録
紙に関わる仕事を始めてからずっと、小さな夢がありました。
それは、いつか自分の結婚式をすることになったら、好きな紙をふんだんに使ったオリジナルの招待状を作ること。
特殊紙と呼ばれる高級な紙やキラキラした紙を扱う会社にいたので、ショップに結婚式用の紙を探しに来る人が結構多かったんです。接客でご相談にのるたびに「いつか自分も結婚式する日が来たら、どんな紙を選ぶんだろう」と妄想していたものでした。
……ヴァンヌーボでシックにまとめるのもいいし、パチカで透明にもさせてみたいし、スタードリームのキラキラ感も捨てがたいし。厚紙を使って活版印刷もいいかもしれない……。
紙の種類は膨大なので、妄想し放題です(笑)。
あれから月日は流れ。
紙屋さん時代にその妄想を叶える機会はなかったけれど。
今年結婚し、小さな結婚式を挙げることになったのでした。
というわけで今日のnoteは、紙好き人間が結婚式のペーパーアイテムを作ってみた、その記録と感じたことです。
オリジナルのペーパーアイテムを作ろう
そんなこんなで結婚式をすると決めた直後から、夫には「紙モノにはこだわる!お金は私が出すから好きにさせて!!」と大声で宣言しておりました。夫は「お好きにどーぞ」と興味なさげでしたけど(笑)。
私たちは親族のみの結婚式と会食をし、一旦解散。その後に10人弱の友人のみで1.5次会を開催することにしたので、ペーパーアイテムが2種類必要でした。
親族の方は招待状3部とかなり少ない数だったので、ネットにある無料テンプレートを自宅プリンターで印刷して作ることに。
…1.5次会はどうしようか?
既製品も可愛いけど、やっぱり自分で紙も選びたいしオリジナルがいいなあ…と思い、20代前半からお世話になっていることばとデザインの古島佑起さんに、ペーパーアイテムのデザイン・制作をお願いすることに。
古島さんはご自身の結婚式で公園を貸し切ってお祭りを開くほど最高に面白くてクリエイティブな方です。お忙しいのに引き受けてくださって、感謝してもしきれません…!
コンセプトは「感謝の手紙」
秋の結婚式に向けて、春頃から古島さんと打ち合わせを始めました。
我々夫婦には共通の趣味がなく、しかも1.5次会のコンセプトは「自分たちを祝ってほしいというよりは、来てくれる人に楽しんでもらえる会にしたい」というありきたりかつ曖昧なもの(すみません…)。古島さんを相当困らせてしまいましたが、最終的には、
という点を踏まえて「感謝の手紙」というコンセプトを考えてくださいました!!いや本当に古島さん天才…!
私、小学生のときに文通をしていて、手紙が大好きだったんです。手紙が届いて封筒を開けるときのワクワク感。それはメールやLINEにはない体験だった気がします。
というわけで、作っていただいた招待状がこちら!!
友人に向けて書いた夫婦から感謝の手紙を、架空の郵便局の局員が落としてしまった。その手紙を当日の余興で探してもらう、というストーリー仕立ての招待状です!
〇ルーナ風のイラストはこれまた天才イラストレーター・岡田志歩さん。
明るく楽しい世界観の招待状に仕上げていただきました。
完成品を見たら、当初興味なさげだった夫も「すごい!こんな招待状見たことない!」と大変喜んでおりました。よかったよかった。
使った紙たち
招待状に使用した紙は以下の3種です。
封筒
まずは封筒!海外っぽいチリの入った感じが欲しくて、カラフルなチリが入ったポルカレイドを選びました。このポルカレイドという紙は装丁家の名久井直子さんがプロデュースされた紙で、チリの入り具合が絶妙!たくさんチリを入れたくなるところを、最小限に抑えているのがさすがだなと思います。
本当は130㎏くらいの厚みが欲しかったのですが、あいにく90㎏と200㎏の間の厚みはラインナップがありません。結婚式の案内には90㎏は薄いと判断し、厚手の200㎏を選択しました。
130㎏…あったらいいなと思ったけれど、あんまり使い道ないのもわかるんですよね…。紙は1回で何トンと作って在庫するので、あまり需要のない厚みは作りにくいのです。在庫するだけでお金がかかりますからね…。
お店で売られている封筒は機械で作られているので、200㎏のような厚みは機械に通らず作れませんが、手作業なら厚い紙でも作れます。
今回は古島さんがDIYで作ってくださいました!
カバー
招待状のカバーはサガンGA ロイヤルブルー 170㎏を選びました。古島さんから全体のデザインを考えるとネイビーっぽい色が合うと思う、とアドバイスいただき、こちらの紙に。
サガンGAは砂岩のような細やかな模様が施されたエンボス紙です。なんだろう、この紙を見ているとすごく「固い」感じがします。実際はほかの紙と特に変わらない固さなのですが。視覚的な印象ってすごいな、と思わされます。
50色という豊富な色展開も特長の1つ。なかでもこのロイヤルブルーは、濃い色なのに鮮やかで美しいのが魅力です。
実は、濃色で彩度の高い紙を作るのは難しいんですね。紙は染料を混ぜて色を付けていくのですが、染料を入れれば入れるほど暗い色になってしまうのです。そんな濃い色の弱点を克服すべく、メーカーさんの技術開発で作られたのが、このロイヤルブルーをはじめとする濃色群。他にも極・緑や極・紫などがあります。
普段何気なく見ている紙ですが、実はメーカーさんの企業努力で進化していっているのですね…!
その他
招待状の本文をはじめ、その他はアラベールで統一しました。
noteのプロフィールにも「好きな紙はアラベール」って書いてますしね。やっぱり使っときたいな、と。
当日の余興は、鍵の付いた箱を開ける謎解き。箱の中身は新郎新婦からの「感謝の手紙」です。その手紙の便せんもアラベールで作ったんですが、非塗工紙なので書きやすさも問題なし!やはり使いやすい紙だと再確認しました。
ペーパーアイテムを作ってみて気づいたこと
普段、私の役目は「紙モノを作りたい人に、適切な紙が何なのかアドバイスをすること」なので、自分で紙モノを作ることはありません。
今回、作る側に回ってみて、気づいたことがありました。
「こだわる」は言葉で言うほど簡単ではない
今にして思えば、「ペーパーアイテム」にこだわりたいと言いながら、具体的にどうこだわるのかは全く考えられていませんでした。むしろ、古島さんにお願いした時点で「こだわった」気でいたのではないかと…。
打ち合わせでぼんやりとしたことしか言えない私に対して、古島さんは「キレイなデザインの紙モノを作ることはできるけど、それでは僕に依頼した意味がない。2人を表したコンセプトを決めて、そこから展開していきましょう」と言ってくださいました。
それを聞いて、プロの真髄を見たと思いました。
きっと私は「キレイなデザインの紙モノ」でも満足したでしょう。でもそこでもう一歩踏み込んで、私たちらしいコンセプトを作ってくださった。そのおかげで、唯一無二の忘れられない会にすることができました。何より、出席してくれた友人からも「今までにない会で楽しかった!!」「ペーパーアイテムすごく可愛かった!」と言ってもらえたのが本当に嬉しかったです。
いやはや、本当に古島さんのおかげ…!
実は紙を提案するときでも、制作物の仕上がりイメージがふわふわしていると提案しにくいんですよね。なのにいざ自分が作る側に回るとめっちゃふわふわしてました…。方向性もなしにこだわれない、こだわるってそんな簡単に言える言葉ではないなあと思った次第です。
なんとなくではなくきちんと考えることの大切さ
古島さんに途中で聞かれて印象に残っている言葉が1つあります。
「どうして結婚式をするんですか?」
なんか文字にするとちょっと怖い感じですけど、実際はコンセプトを考えていくうえで参考にしたいとの思いで聞いていただきました。
でも、私はきちんと言語化できなかったんですよね。
この状況下、「しない」という選択肢だってあった。だけど私たちは「結婚式をする」ことを決断したわけです。区切り?親が喜ぶから?理由は色々ありますが、いざ聞かれると答えに詰まってしまいました。
そこから夫と話し合って「お世話になった友人たちに感謝の気持ちを伝えたい」という結論になり、「感謝の手紙」というコンセプトにつながるわけですが、もし結婚式そのものに向き合わなかったら、ちゃんと言葉にできていなかったと思います。なんとなくではなくてきちんと考える大切さを古島さんに教えていただきました。
やっぱり紙モノは楽しい
巷ではWeb招待状も増えてきているなんて話も聞きますが、やっぱり紙の招待状には独特の良さがあります。一言で表すなら、「楽しい」。
Webは平面の世界だから、デザインが違っても画一的に感じちゃうときがあって。その点、紙は三次元なので、形や触感でも遊べます。
あとは手元に残るのが良いですね。より思い出に刻まれる気がします。
利便性ではWebに軍配が上がることが多い昨今、紙の生き残る道は感性に訴えかけることなんじゃないでしょうか。
おまけ:今回紙を購入したところ
最後に、今回私がペーパーアイテムを作るにあたって紙を購入したところをメモしておきます。
基本は古島さんにご用意いただいたのですが、親族用の招待状などは自分で準備したので、ご参考になれば。(当方、関西在住です)
・LOFT
・ナガサワ文具センター
・竹尾 淀屋橋見本帖
・紙名手配(ネット通販)
ネットで紙を買うときは紙名手配さんを使っています。
ある程度紙の知識がある人向けですが、特殊紙はほぼ網羅されているので便利ですよ!
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