見出し画像

ミュージカルを観るつもりじゃなかった。-「ポーの一族」観劇記-

ミュージカルどころか、演劇もほとんど観たことがない、観劇初心者の「ミュージカル・ゴシック ポーの一族」観覧記です。

---

初老なこの年まで、ミュージカルを、観ようと思ったことがないです。
あの、突然セリフを歌い出すところとか、それも普通の歌ではなくて、なんかこう手を広げて朗々と歌う感じとか、そういうのをTVなどでちらっと見るたびに「あー、こういうのはちょっと苦手かも」と思ってきたから。

そのうえ私は、子供の頃から「ポーの一族」がほんとうに好きで。セリフを暗記し、絵をなんども模写し、紙で着せ替え人形を作り、その子たちにシーラやメリーベルのドレスを着せて遊んでいたくらい好きで。
漫画がすでに完璧なんだから、ポーの一族の舞台化なんて、絶対自分には受け入れられない、無理だと思ってました。

でも、今回の舞台のポスターを見て、衝撃を受けました。そこにいたのは、私が大好きだったエドガーとアランそのもの。これこそポーの一族。このビジュアルを作り出せる、この人たちなら、大丈夫かもしれない。私が大好きなものを、もっと大好きにしてくれるかもしれない。
ということで、思いきって(運良くチケットもご用意されて)ほぼ初めてのミュージカルにひとりで行くことになったのでした。
いろんなサイトをチェックしてマナーを確認して(初めてだから不安だったんですよ〜)、双眼鏡も購入して、どきどきしつつ当日。

---

バラに飾られた幕が上がり、最初に大勢がわーっと「ぽーのいちーぞくー」と歌うところで、正直、「???」な気持ちになりました。ひそやかにバラの中で暮らしているポーの人たちは、こんなに高らかに大きな声で歌うかなあって思ったんです。もっとひんやりと、ささやくように歌いそうだけどなーって。

けれどだんだん、物語が進むにつれて、わかってきた。
誇り高く、我らはポーの一族だと歌う彼らはやがて迫害され、ある者はちりとなって消え(ほんとにぱっと消えてた!びっくりした!)残された者も住み慣れた村から逃げることになり、もう大勢が揃って歌うことはない。彼らは「人に生まれて人ではなくなり」と、孤独の歌を歌いながら永遠にさまよい続けることになる。そのさみしさが、あの華やかなオープニングがあったから、よりいっそうひきたつ。

そして、演者のみなさんの歌が、ほんとに、すばらしい。
「セリフが歌になってるなんて変」とか思っていてごめんなさい。歌がそのままセリフになり、表情と動きも合わさって、今それぞれがどんな気持ちなのかよくわかる。歌いながら他の人と演技するなんて、どうしてそんなにいろんなことをいっぺんにできるだろう。すごい。
私は特に、シーラ、夢咲ねねさんのすばらしさに、ずっと双眼鏡で追いかけてしまいました。宝塚のことを全然知らないので、夢咲ねねさんもお姿を見るのは今回初めて…だと思います。勉強不足で本当に申し訳ない。
可憐で優しいおねえさんなシーラが、ポーの一族に迎えられ、バンパネラとなって妖艶に変わっていくその様子、表情や歌での演技にひきこまれました。
「ゆうるりと」とシーラが歌いながら馬車がロンドンへと向かっていく、その頃には、ずっと感じていたミュージカルへの「よくわからない」という気持ちはすっかり消え「ミュージカル、すごい、すばらしい!」になっていました。

---

そして、エドガー。エドガーが、エドガーでした。14歳で、大人と子どもの中間で時を止められた、孤独な少年。明日海りおさんは、エドガーそのものでした。
人間であるときはいたずらでわんぱくな「男の子」なんだけど、バンパネラになったら向こうが透けてみえそうな透明感。皮膚の色、かわった?と思うくらいの変化。
そして、あの歌声。舞台の中心にいるときの、発光しているかのような華やかさ。
スターって、こういう人のことなんですね。

そして、アラン。アランが、とてつもなく、アランでした。
私、漫画版ではエドガーよりもアランが大好きで、あのさみしがりでわがままで愛されたがりの男の子を千葉雄大さんが演じると聞いて、それは、行くしかない、と思ったんです。ミュージカル初挑戦の姿を、見届けねばと。
私が行ったのは、2月4日だったんですが…「食らいついてる」って感じでした。すごい人たちの中でひとり、食らいついて、堂々と、やりきってる。
そしてほんとうに、あの、アランでした。幼い私が「まもってあげたいなあ」と思った、弱くて強がりで愛らしい、アランそのものでした。ふくれっつらも、にらみつける目も、うれしさにはちきれる笑顔も。
その後13日の配信で、彼にはまたおどろかされました。わずか10日で、よりいっそう歌が深みをましてうまくなっていて。
人はこんなに短期間で成長できるものなのか、と、感動しました。
初めてのことに「失うものはなにもないから」と挑み、成し遂げていく姿を見せてもらえて、それだけでも、このミュージカルを観てよかった。

あと…舞台が終わったあとで明日海りおさんと千葉雄大さんがでてきて、ぽわぽわ〜とおしゃべりしてお客さんを送り出してくれる、あれは…ああいうものがあるとはしらなくて、あまりのふたりの可愛らしさにしばらくぼうぜんとしました。ほんとに、ぽわぽわ〜って、そこだけ「春」ってかんじで。さっきまで、冷え冷えと熱いエドガーとアランだった人たちとは思えない。

---

ポーの、あの長い長い物語を、短く切ったりあるいはふくらませたりしてアレンジして、漫画そのままではないけれど、ポーの一番大事なエッセンスをちゃんと形にしているお話作りにも感動しました。そうそう、こういう話ですよね、って。
(ただ、私はオズワルドが好きなので、彼の出番が短かったのだけがさみしい…)

他にも、美しい衣装、すばらしい舞台(回る階段!)、すばらしい音楽、など、すてきなことが多すぎて…。エドガーの影のシーンでも、息をのみました。思い出すと呼吸を忘れている場面がたくさんあった気がする。


明日、28日の大千秋楽(という呼び方も今回初めて知りました)をライブビューイングで見届けます。今から楽しみで、でもさみしくて、泣いちゃいそう。
ほぼ初めてのミュージカル参戦が、ポーの一族でよかった。
できればまた同じキャストで、今度は「小鳥の巣」から「エディス」までも観たい。
それまで、いろんなミュージカルを勉強させてもらいながら、待ってます。
ミュージカルを、観るつもりじゃなかった。
人生はどう転がっていくかわからないから、おもしろい。

サポートしていただいたら即映画見ます