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韓日翻訳練習:「低賃金先進国」日本

はじめに

韓国語の文章を読む練習をしたいと思い立ち、朝鮮日報のコラムを和訳してみることにしました。このような堅めの文章を題材に選んだのは、小説等に比べて漢字語の登場率が高く、知らない単語でも意味を推測しやすいと考えたためです。

今回和訳したのはこちらのコラムです。

同じ内容の日本語版も出ていましたので、私が作った訳と比較して見ていこうと思います。

初見で訳せなかった部分については太字にしてあり、わからなかった単語もリストアップしています。



和訳

低賃金先進国」日本

  • 저임금:低賃金

  • 임금:賃金、給料

「임금」はこのコラムの中でキーワードになる重要な単語でした。


1990年代初めの日本の社会を扱った漫画「クレヨンしんちゃん」。貿易商社の係長である、主人公しんのすけの父の年収は650万円だった。当時5対1だったウォン・円の為替レートをかけると3250万ウォンの水準である。韓国ドラマ「応答せよ1988」には銀行代理の父が登場する。彼の月給は58万ウォン。ボーナスは600%と見積もると年収は1000万ウォンの水準だ。30年前には、日本の大企業の年収は韓国の銀行員の3倍ほどであったようだ。

  • 다루다:扱う

  • 곱하다:かける(乗算)

  • 잡다:推し量る、見積もる、概算する


「貿易商社の係長である、主人公しんのすけの父」とした部分は、原文では以下のようになっていて、

무역상사 계장인 짱구 아빠

조선일보/[만물상] ‘저임금 선진국’ 일본

直訳すると「貿易商社の係長であるしんちゃんのお父さん」という感じになると思うのですが、クレヨンしんちゃんをよく知らない人向け(私もよく知らない)に、「主人公」という言葉を挿入してみました。ちなみに日本語版では、

商社勤めで係長のお父さん・野原ひろし

朝鮮日報日本語版/「低賃金先進国」日本【萬物相】

となっていました。「お父さん・野原ひろし」で十分伝わるということのようですね。「商社勤めで係長」という表現も、元あった意味合いはそのままに、短くより自然な日本語にまとまっていて参考になりました。

また、『クレヨンしんちゃん』や『恋のスケッチ~応答せよ1988~』(私の訳では『応答せよ1988』となっていますがこれが正確な邦題のようです)などの作品名については二重鍵括弧(『』)で囲うそうです。

「환율」を「為替レート」と訳すことができたのは我ながら勘がよかったと思います。韓国と日本の通貨の話をしているな、ということと、「율」は「率」だろうということがわかったので、「兌換率」を連想できて「為替レート」にたどりつくことができました。


日本の「失われた30年」が日韓間の賃金逆転をもたらした。先日韓国経総(韓国経営者総協会)が発表した「韓日賃金推移」を見ると、2022年現在韓国の大企業の平均月給は588万ウォンで、日本の大企業の443万ウォンより32%も多い。この20年間で、日本の大企業の年収は7%減少した反面、韓国の大企業の年収は158%増加した結果だ。海外移民に行って帰ってきた日本人たちは「どうして月給が30年前と同じなんだろう」と驚くという。

  • 가져오다:持ってくる、もたらす

  • 엊그제:数日前

  • 경총:経総(=経営者総協会)


過去20年間で日本の大企業の年俸は7%減少した反面、韓国の大企業の年俸は158%増えたことによる結果だ。

朝鮮日報日本語版/「低賃金先進国」日本【萬物相】

日本語版の記事と見比べてみると、「연봉」を「年収」と訳すか「年俸」と訳すかという部分に違いが出ています。「1年間に得る収入」を意味する、より耳馴染みがある単語として「年収」を選んだのですが(「年俸」は野球選手のイメージがある)、少し調べてみたところ、「年俸」は1年で支払われる給与のことで、「年収」は1年間の収入すべてを指すという違いがあるそうです。そう考えると、「ある企業が1年間にある社員に対して支払う給与」という意味合いで登場している「연봉」については「年俸」と訳した方が適切だったかもしれません。


一時は1人あたりのGDPが世界1~2位を争った日本で、景気低迷と物価下落が伴うデフレのせいで賃金も急落した。企業らは物価の下落を理由として賃金を凍結し続けた。トヨタのような大企業の労組は「国際競争力の低下」を心配しつつ、賃金引き上げより雇用の維持を重視した。経済学者のオオマエケンイチは、「終身雇用と勤務年数別の賃金のせいで給与が低くても転職をしない風土が低賃金の原因として作用した」と説明する。

  • 다투다:もめる、争う(順位を争う)、口論する

  • 침체:低迷、沈滞、落ち込み

  • 동반하다:同伴する、一緒に連れていく、共に進行する、伴う

  • 탓에:せいで

  • 곤두박질치다:真っ逆さまに落ちる

  • 계속:ずっと、~し続ける

  • 동결하다:凍結する

  • 인상:引き上げ

  • 선호하다:好む、選り好みする、~の方が好きだ

  • 동인:動因、ある事態を引き起こしたり変化させるのに作用する直接的な原因。


「기업들」を「企業たち」と訳すのは変かなと思い、より堅そうな表現の「企業ら」としてみたのですが、日本語版では「各企業」となっていますね。日本語を使っていて、単数・複数を意識することはほとんどないのですが、韓国語では結構な頻度で「들」が登場するのでどう訳すか悩みます…。

以下の部分は、なかなか訳すのに苦戦しました。

도요타 같은 대기업 노조들은 ‘국제경쟁력 저하’를 걱정하며 임금 인상보다 고용 유지를 선호했다.

조선일보/[만물상] ‘저임금 선진국’ 일본

トヨタのような大企業の労組は「国際競争力の低下」を心配し、賃上げよりも雇用の維持を優先した。

朝鮮日報日本語版/「低賃金先進国」日本【萬物相】

まず、「걱정하며」という部分を「心配しつつ、」と逆説的に訳してしまっているのですが、「-(으)며」は2つ以上の同時的な動作や状態を並べるときに使うもので、逆説的な意味合いはないようです。
「-(으)면서도」「-(으)면서」の場合には今回のように「~しつつも」と訳していいのかもしれません。
続いて「선호했다」という部分。「선호하다」を調べると「好む、選り好みする、~の方が好きだ」と出てくるのですが、「賃金引き上げよりも雇用の維持を」に続く言葉となるとなかなかよい日本語が思いつきませんでした。
「複数ある選択肢のうち、あるものにより大きな価値を感じている」というような意味合いで「重視する」という言葉を選んだのですが、日本語版の「優先する」という訳には、より「ある選択肢を選ぶ」ニュアンスがあると思い、とてもしっくりくると感じました。

「オオマエケンイチ」さんは大前研一さんという方だったみたいですね。
このあたりの記事で似たような話が出てきます。

https://www.ohmae.ac.jp/mbaswitch/income_of_japanese


日本の植民地支配を受けてもなお、日本に好意的な台湾も低賃金である。10年前、台湾の大卒社員の初任給は月92万ウォンだった。月給は安く住宅価格は天井知らずなので、青年たちは台湾を「グイタオ(鬼の島)」と自嘲した。世界1位の半導体ファウンドリであるTSMCも例外ではない。2020年現在、TSMCの役職員の平均年収は7600万ウォンと、サムスン電子(1億2700万ウォン)の60%の水準である。先日TSMCが日本工場で働く博士級の人材を採用したが、月給は35万円(320万ウォン)にすぎず、韓国の大企業の社員を驚かせた

  • 초임:初任(、初任給?)

  • 짜다:しょっぱい、ケチだ

  • 천정부지:天井知らず

  • 청년:青年

  • 자조하다:自嘲する

  • 임직원:役職員(役員+職員)

  • 불과하다:過ぎない

  • 놀라게 하다:驚かせる

  • -게 하다:~させる


「日本に好意的な台湾」とした部分は、原文では「일본을 좋아하는 대만(=日本が好きな台湾)」となっているのですが、より国家間の関係を表すのにふさわしい表現を考えたところ、日本語版と同じ表現になりました。なんだか嬉しいです。笑

「しょっぱい」という意味の単語に「ケチ」という意味もあるのが日韓共通なのは面白いなと思いました。どのような経緯でこうなったのか気になります。

「임직원」は「役職員」と訳したのですが日本語版では単純に「社員」となっていますね。確かに役員も職員も社員なので、社員でよいのかも…(「役職員」という単語を今まで使ったことがない)。

翻訳とは関係ないですが、日本に好意的だというだけで引き合いに出されて賃金の低さをネタにされている台湾が少し気の毒な気がします。笑
別に台湾の企業風土が日本っぽいみたいな話をするでもないですし。正直この段落はあまり本題とは関係ないように思いました。


日本は低賃金国家の汚名から逃れようともがいている。政府だけでなく、企業団体である経団連も「賃金引き上げが企業の責務」だと話す。ユニクロ、世界4位の半導体装置メーカー東京エレクトロンが、一度に賃金を40%も上げるなど、企業も呼応する。しかし1000万人を超える労働者は依然として年収200万円(1800万ウォン)以下だ。そのため、「年収200万円で豊かに暮らす」など超がつくほどの節約のコツを教える本がベストセラーとなっている。社会がこのような状態なのに、集団抵抗は全くない。我々からしてみると「おかしな」国だ。

  • 벗어나다:抜け出す

  • 발버둥(을) 치다:じたばたする、地団駄を踏む、頑張る

  • 책무:責務

  • 호응하다:呼応する

  • 이/가 넘다:~を超える

  • 여전히:相変わらず、依然として

  • 풍요롭게:豊かに

  • 절약:節約

  • 요령:要領、コツ

  • 저항:抵抗


作品名・書籍名等を二重鍵括弧で囲うとすると、『年収200万円で豊かに暮らす』とした方がよさそうですね。
また、この本の内容である「초절약 요령」は直訳すると「超節約要領」だと思うのですが、これを日本語版では「超節約ノウハウ」としています。確かにこういった本は「ノウハウ本」と言いますよね。

最後の

우리 눈으론 ‘이상한’ 나라다.

조선일보/[만물상] ‘저임금 선진국’ 일본

という部分は、日本語版では以下のようになっています。

韓国人の目で見ると「異常な」国だ。

朝鮮日報日本語版/「低賃金先進国」日本【萬物相】

私は「우리」をそのまま「我々」と訳したのですが、この記事がもともと韓国人の記者の方によって書かれていて、朝鮮日報日本語版の読者として想定されているのは日本人だということを考えると確かに「韓国人」と訳すのが適当だなと感じました。

余談ですが、日本の経団連のことを韓国版の記事で「게이단렌(=ケイダンレン)」とそのまま同じ音で呼んでいたのがなんだか意外で面白いなと思いました。韓国の人はケイダンレンと聞いてピンとくるものなのでしょうか…?


感想

今回の記事は日本について書かれたもので、特に生活に深くかかわる賃金についての内容だったので興味深く読み進めることができました。よりよいお給料を求めて転職していくことが日本全体の賃金水準を上げることに繋がるのかもしれませんね。
また、たまたま訳したコラムの日本語版が出てきて、比較することができてとても勉強になりました。これからは日本語版が出ているコラムを中心に訳してみようかなと思います。

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