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|熊谷めぐみの小部屋|ART & ESSAY

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ディケンズの小説を題材に、気鋭のアーティスト達が作品を制作。熊谷めぐみによる小説案内、作品紹介エッセイとの競演により、ディケンズと現代作家が時を超えて出会います。
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記事一覧

影山多栄子《2》|月光菓子クッキーセット

*  都会の街で、屋根裏部屋に暮らす若く貧しい画家の青年。でも、子どもの頃からの友達である月が、世界中で見た光景を夜ごとに語ってくれるから孤独ではありません。ディケンズとも深い親交のあった作家アンデルセンが紡いだ『絵のない絵本』は、そんな美しく不思議な物語。  第三夜、月はある女性のことを少女の頃から見つめ続けていました。バラよりも輝く少女のきらめきは儚くも美しいものでした。  第十七夜、世界の色々な光景に見てきた月も、とびきりのおしゃれに喜びを隠せない少女の姿には、思

影山多栄子《1》|月光菓子ケーキセット

*  都会の街で、屋根裏部屋に暮らす若く貧しい画家の青年。でも、子どもの頃からの友達である月が、世界中で見た光景を夜ごとに語ってくれるから孤独ではありません。ディケンズとも深い親交のあった作家アンデルセンが紡いだ『絵のない絵本』は、そんな美しく不思議な物語。  第七夜、月が自然に囲まれた石の塚を見下ろしていると、たくさんの人が通りかかります。しかし、本当にその美しさを理解しているのは貧しく祈りに満ちた少女だけでした。  第九夜、月はグリーンランドに光を伸ばし、人と自然の

熊谷めぐみ & 須川まきこ|ART & ESSAY《8》|かろやかに解きはなたれて

 ユダヤ王ヘロデの王宮。ヘロデ王の妻ヘロデアの娘であるユダヤの王女サロメは、その美貌のために義父であるヘロデから絶えず邪な眼を向けられている。ヘロデが重用する予言者ヨカナーンに魅了されたサロメは彼の赤い唇に口づけしたいと切望する。ヘロデはサロメに自分のために舞を踊るよう所望し、彼女が望む褒美を与えると約束する。踊りを終えたサロメが求めたものは、銀の皿の上にのった預言者ヨカナーンの首であった。 *  『サロメ』はオスカー・ワイルドが新約聖書から着想を得て書いた一幕劇である。

熊谷めぐみ & ruff|ART & ESSAY《7》|死が羽ばたく夜

 ユダヤ王ヘロデの王宮。ヘロデ王の妻ヘロデアの娘であるユダヤの王女サロメは、その美貌のために義父であるヘロデから絶えず邪な眼を向けられている。ヘロデが重用する予言者ヨカナーンに魅了されたサロメは彼の赤い唇に口づけしたいと切望する。ヘロデはサロメに自分のために舞を踊るよう所望し、彼女が望む褒美を与えると約束する。踊りを終えたサロメが求めたものは、銀の皿の上にのった預言者ヨカナーンの首であった。 *  『サロメ』はオスカー・ワイルドが新約聖書から着想を得て書いた一幕劇である。

熊谷めぐみ & 影山多栄子|ART & ESSAY《6》|可憐で不思議なクリスマスの光

 クリスマスを祝う人々であふれるロンドン。だが、人間嫌いで強欲なスクルージにとってクリスマスはくだらないものでしかない。あるクリスマス・イブの夜、スクルージの前に七年前に死んだはずの相棒マーレイの亡霊が現れる。そしてマーレイの予告通り、過去・現在・未来の三人のクリスマスの精霊がスクルージのもとを訪れる。 *  クリスマスなんてくだらない! そう言ってクリスマスを、そしてクリスマスを祝う人々を強く拒絶するスクルージ。一方、ロンドンの街では、人々が、クリスマスの歓びを家族や大

熊谷めぐみ & 影山多栄子|ART & ESSAY《5》|アリスとアリシアの物語

 これは7歳の女の子アリス・レインバードがつくった物語。  むかしむかし、あるところに王さまと王妃さまがいました。二人には19人(7歳から7ヶ月まで)の子どもたちがいて、長女のアリシア姫がみんなの面倒をみていました。  ある日、お仕事に行く途中に、王さまは妖精のおばあさんに出会います。おばあさんは、王さまが買った鮭をアリシアに食べさせるように言い、その骨はぴかぴかに磨いて、正しい時に願えば、願い事を一つだけかなえてくれる魔法の魚の骨であるとアリシアに伝えるようにと告げます。

ART & ESSAY《4》|熊谷めぐみ & 野村直子|『二都物語』——パリ

 1775年のパリ、18年の間囚われの身となっていたマネット医師は娘ルーシーに連れられて、ロンドンへ渡る。5年後、ロンドンの裁判所では、フランス側のスパイの疑惑をかけられたチャールズ・ダーネイが死刑の判決を受けようとしていた。絶体絶命のピンチに、無気力な弁護士シドニー・カートンが救いの手を差し伸べる。ルーシーに惹かれる男たちは、それぞれの立場で彼女を幸せにしたいと願うが、海の向こうで響き始めたフランス革命の足音は、彼らの上に暗い影を投げかけるのだった。 *  月日は流れ、

ART & ESSAY《3》|熊谷めぐみ & 野村直子|『二都物語』——ロンドン

 1775年のパリ、18年の間囚われの身となっていたマネット医師は娘ルーシーに連れられて、ロンドンへ渡る。5年後、ロンドンの裁判所では、フランス側のスパイの疑惑をかけられたチャールズ・ダーネイが死刑の判決を受けようとしていた。絶体絶命のピンチに、無気力な弁護士シドニー・カートンが救いの手を差し伸べる。ルーシーに惹かれる男たちは、それぞれの立場で彼女を幸せにしたいと願うが、海の向こうで響き始めたフランス革命の足音は、彼らの運命に暗い影を投げかけるのだった。 *  『二都物語

ART & ESSAY《2》|熊谷めぐみ & 横井まい子|記憶の引き出し

Text|熊谷めぐみ  クリスマスを祝う人々であふれるロンドン。だが、人間嫌いで強欲なスクルージにとってクリスマスはくだらないものでしかない。あるクリスマス・イブの夜、スクルージの前に七年前に死んだはずの相棒マーレイの亡霊が現れる。そしてマーレイの予告通り、過去・現在・未来の三人のクリスマスの精霊がスクルージのもとを訪れる。  クリスマス、それは奇跡が起こる季節。クリスマスを毛嫌いするスクルージにも、ある奇跡が忍び寄っていた。  スクルージを知る誰もが、彼のことを心の冷

ART & ESSAY《1》|熊谷めぐみ & 横井まい子|幸せがそよぐ季節

Text|熊谷めぐみ  「チャールズ・ディケンズ&ヴィクトリア朝文化研究室」として活動中のモーヴ街5番地・サティス荘。本イベントより新たに「ART & ESSAY」のシリーズがスタートします。  気鋭のアーティストを迎え、ディケンズの小説を題材にした作品を発表。小説のあらすじと小説案内、アート作品解説を熊谷めぐみが担当いたします。  記念すべき初回は、画家・横井まい子様を迎え、ディケンズの二つの小説をテーマに繊細を極める美しい水彩画をお披露目します。  クリスマスの時期、