なぜあの人はパンばかり食べる?

「もったいないんだよ」
会社の先輩の昼食はいつま決まって菓子パンだ。足りないと自販機でカップ麺を追加している。よく飽きないよなぁと感心してしまう程。どんだけ好きやねんとツッコミたくもなる。けどそれには理由がある様だ。

米を炊きすぎてしまい、ご飯が余ってしまう。捨てるのは忍びない。もったいないから全部食べているとのことだ。それが冒頭で先輩が私に言った言葉だ。

つまり家で米を「これでもか!」と、たくさん食ってるから、外ではご飯やおかずは食べたくない。だからデザート的な甘いパンが食べたくなると言う。

なるほど、共感する部分もある。

先輩は奥さんの家の入婿(むこ)。奥さんは専業主婦。見張り役の義理親も健在だ。なので典型的な「かかあ天下図」の完成。先輩としてもあまり強く言えないのだろう。もし私の父親だとしたら「ぜいたく者!」と、波平の様に雷を落としたことだろう。

食事を用意する奥さんとしては、足りないよりは良いと考えてのことだと思う。それは我が家でも同じ。毎日ピタリと食べ切る量を炊くのも難しいかも知れない。とは言えそれだけ日本の裕福な時代の表れでもある。

先輩は料理もする人だ。食べ切れない余ったご飯はチャーハンにして作り置きするらしい。みんな喜んで食べてくれると言う。だからみんなふくよかな体型だと言う。

なぜそこまでして食べて欲しいのか。私には良く分かる気がする。

そのご飯とは、先輩自身が直接働いて稼いだお金から生み出された対価の様なもの。頑張って働いた我慢料でもある。確かにその給料は奥さんとの協力もあってこそではある。けどもし奥さんが家族のため、心を込めて自分でぬったマスクを簡単にポイされたらどう思うのか。きっと悲しいよね。

その努力と苦労が捨てられてしまうのは、何か、自分を軽く扱われている様に思えてしまうからではないか。

先輩が自虐を込めて言った「残飯処理係」とは、ただ物理的にもったいない気持ちもあるかも知れないが、大事にされなかった自分の心を、自分自身が救う行為にも思えてならない。

人の行動1つ一つには何かしら意味があるし物語がある。



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