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みんな違って、みんないい 〈DMMかりゆし水族館 v.s. 沖縄美ら海水族館〉

(2022年9月)

座間味島でダイビングをしながら4日間を過ごし、数日間のリモートワークを挟んで後半は本島で遊ぶ…そんな素敵なシルバーウィークのワーケーションを思いついたのはかれこれ半年近く前のことであった。しかしそんな練りに練った企画は、今年一番の巨大台風の前にあえなく砕け散った。

慶良間方面行きの船は早々に欠航が決まり、せめて那覇まで行くのか行かないのか、むしろ行きたくても行けるのか、そんな葛藤から休暇はスタートした。最近はどうしたことか天候に恵まれがちだったものの、思えば私の旅は常に嵐に左右されてきた。そう考えると台風がわずかに東寄りになったことで生まれた「飛行機飛びそう」という見通しは、ゴーサインでしかなかった。何はなくともと那覇まで向かった結果、台風一過の海に出られるはずもなく、つごう9日間を本島で過ごすこととなった。こうして「ひま」という絶好の機会得た私は、ここぞとばかりにうちなーに鎮座する新旧2つの水族館を2日連続で訪れたのである。


DMMかりゆし水族館

コロナ禍の2020年にオープンした新しい水族館だ。豊崎海浜公園隣のショッピングモール・イーアス沖縄豊崎の施設内にある。夕飯まで何の予定もない私は、旭橋で昼ごはんを食べてからのんびり正午過ぎの路線バスに乗った。30分強で豊崎美らSUNビーチ前に到着する。

Webチケットを手に2階入口から入場し、さぁいつものように好きな生き物だけに集中するぞと気合いを入れた瞬間、足止めを食らう。どうやら一定人数が集まるまで待たされるシステムのようで、20人ぐらいが並んでからようやく扉が開かれた。その先はシアタールームになっている。ディズニーかよ!と心中突っ込みながら大人しく着席すると、海の中を冒険する感じの数分間の映像が流れる。これが終わると逆側のドアが開き、やっとのことで入館できた。その先には「亜熱帯の森」という、多少生臭いコーナーが広がっていた。

爬虫類や淡水魚には興味がないのでスルーして…と思いきや、2か所で足が止まってしまった。ひとつはパロットファイヤーシクリッド。いつぞやアクアパーク品川で見かけてから気になっていたブサカワ系の彼らが大量に飼育されていたのだ。なんという笑顔だ。ああ、アゴのあたりをなでなでしたい。

そしてもうひとつはナッテリーピラニアだ。ピラニアなのにやけに抜けた顔付きとキラキラと輝くお洒落な装いが気になった。

それにしてもこの水族館はどこにも説明書きが貼られていない。それどころか生物の名前すら掲示されていない。どうやら専用アプリをダウンロードして、スマートフォン上で説明を見ながら鑑賞するシステムらしい。最先端かつ見た目もすっきりと美しいが、壁面の泥臭い説明書きに目を凝らす行為が好きな私としては物足りない。それにITリテラシーの低い高年齢層に優しくないのではないかと心配になった。

そんなこんなで亜熱帯の森をものの10分足らずで観了すると、ようやく海が見えてきた。文字通りの海辺の風景である。夜になり、朝が来る。時間が移ろう演出が美しい。

向かいには、「1階の大水槽の上を歩ける」というコーナーがあった。これは面白い。ガラスの床になっている足元をサメやカメやエイが泳いでいくのだ。土足厳禁のため素足でペタペタとガラスの感触を楽しみつつも、「水虫うつったらやだな」と少しだけ思った。

エスカレーターを下ると本格的に海コーナーだ。大広間に小さな四角い水槽が並んでいる。

そのうちのひとつにチンアナゴとテングカワハギが同居していた。夢の共演かとかぶりついたが、海の中ではサンゴの間に逃げ込みがちなテングカワハギたちは、見通しのいい砂地でどこか居心地が悪そうであった。

先ほど上を歩いた大水槽にはさほどダイナミックさはなく、大物といえばウミガメぐらいだ。脇にちょこんと置かれたカフェ風の手描きの黒板が、ここに来て急に温かさを醸している。規模で勝負できない場合は、こういう親しみやすさが武器になるのだ。もっと置こうよと思った。

大物がいない代わりにフグが多めだなと観察していると、フグ同士の小競り合いが勃発した。なんということか、一匹がプンプンモードに入りパンパンになったではないか。野生の風景ここにありと、幸せな気分で見守った。

ふと見回すと、大水槽の前は広いカフェスペースになっていた。ビールの気配に思わず吸い寄せられる。

地ビール片手に海亀を眺めるなんて、こんなに贅沢なことはない。振り返ると背後にはアクリルパネルに映像が映し出されるバーチャル水槽があった。こちらはジンベエザメにダイオウイカにバラクーダの大群にと、大物大放出だ。リアルな風景と現実離れした映像を代わる代わる楽しんだ。

さあそろそろ行くかと満足して出口へ向かう帰り際に、クラゲコーナーを発見した。アクアパーク品川のような筒状のパヤパヤ展示である。昨今の「クラゲ見せときゃ喜ぶだろ」的風潮にはアンチな立場を取る私としては蛇足であった。
この水族館の個性はなんと言っても新しさであろう。見た目重視の展示はアーティスティックで、生物の目新しさよりは展示の目新しさで頑張っている感じがした。もしかすると「亜熱帯の森」が一番の特長なのかもしれないけが、申し訳ないことに堪能していない私にはなんとも言えない。

ギフトショップはさほど広くはないが、榮太郎とコラボした飴があったり、お洒落なオリジナルグッズがあったりと力を入れている感じがした。やけにお洒落なチンアナゴのトートバッグがあったので購入した。


沖縄美ら海水族館

対するはこちら、元祖日本代表水族館である。訪れるのは約20年ぶりで、ジンベエザメがいたよなーという薄めの記憶しかない。那覇でレンタカーを借りて高速と下道で2時間弱、美しい海に面した本部の突端に鎮座する水族館に到着する。

建物の古さは否めないが、4階建ての水族館は外から見てもやはり巨大だ。入館してすぐの「熱帯魚の海」にのっけから感動した。大きな水槽をぐるっと鑑賞できるのだが、浅場のキラキラ珊瑚礁から洞窟の中まで本物の海の中の風景が見事に再現されている。暗闇にくつろぐアカマツカサを見たときに、ああこれは昨日今日業界入りした新人には太刀打ちできないなと感じた。

その後に延々と続く小水槽は、さまざまな基礎知識や豆知識が詰まった海の知恵袋という感じだ。嫌というほどの説明書きが至る所にあり、昨日の消化不良もあって大満足した。例えば「危険な海の生物と、危険な部位」や、「成長すると姿が変わる魚」などである。キンメモドキの群れがいればナカモトイロワケハゼのカップルがいて、ウミウシだけを集めた水槽までもある。ここは海かよ!と、叫びたくなった。

2階へ降りると、いよいよメインである「黒潮の海」大水槽である。まずは大水槽を小窓から覗くシアター空間でしばし鑑賞し、「サメ博士の部屋」や「ジンベエ・マンタコーナー」でその生態について予習、復習をする。そしてついにジンベエザメやマンタが泳ぐ巨大な水槽が目の前に現れる。

これはもう、圧巻の〝水塊〟である。はやる気持ちを抑えながらスロープを降りていく。個人的に大水槽というものは人がいない最前列の隅っこから見上げるのが好みだ。レストラン横の優先エリア手前に好スポットを発見し、非常に清々しい気持ちでいつまでも口を半開きにして眺めた。
海に対する膨大な知見があり、それを伝えようとする溢れんばかりの思いを感じた。そして圧倒的な規模で生物を網羅する、ザ・森羅万象水族館である。これぞまさに王道だ。

水族館を取り囲む海洋博公園にはマナティ館やウミガメ館があり、間近でアイドルに会えるこれらの施設はイルカショーも含め入館チケットがなくても無料で入れる。そもそもチケットは1,880円と破格であるし(10月からは値上がりして2,180円になったがそれでも安く)、まったくお得すぎる話である。

ギフトショップも異常に広く、ジンベエ推しのグッズが所狭しと並ぶ。しかしどうもこれ、というオリジナリティに出会えず、どちらかと言えば書籍コーナーに釘付けとなった。そんなわけでお土産は『きりみ』という絵本を買った。


広さといい深さといい水族館の完成度としては完全に美ら海に軍配が上がる。一方で訪れやすさと新しさとお土産のお洒落さではDMMが上回る。これはもう、個々人の水族館との向き合い方に委ねるしかないのではなかろうかと結論づけた。なぜならばみんな違ってみんないいのだから。

ところでこの数日後、ダイビングでリアルにジンベエザメと泳いだ。思えば二大水族館ではリアルにバーチャルに、ジンベエザメがフィーチャーされていた。ダイビング前に訪れたこれらの水族館がダイビング時の興奮に寄与してくれたことは言うまでもない。そういう意味ではどちらもプレシャスだ。みんな違って、みんないい。

ちなみにショップはこちら。いつからか〝先生〟と呼んでいるガイドさんとマンツーで久しぶりの本島でのお姫さまダイビングを楽しませてもらった。


〝人にはある程度制約があったほうがいい〟とは常々思っている。なんでもできるしなんでもしていいと言われると、案外何かを選ぶことは難しい。「今はここにいるしかない」「この条件下で楽しもう」というように、限界や一定の選択肢が見えて初めてその中で一番自分にとって楽しいのは何だろうと真剣に考えられる。少なくとも私はそうだ。台風よありがとうとまでは言いたくないが、良いバカンスであったことは間違いない。

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