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山小屋物語 13話 山小屋の怖い話

ある朝、小屋掃除(ベッドメイキング)をしていた時のこと。その部屋には小さな窓があった。真っ青な空と、壮大な赤茶色の斜面の色鮮やかなコントラストが目に飛び込んできて、ふと寝袋を裏返す手を止めて、景色に見入っていた。
「あっこちゃん」先輩の明奈さんが声を掛けてきた。「あっ、はい。ごめんなさい!すぐ寝袋やっちゃいますね!」慌てて作業に戻ろうとすると、
明奈さんが血の気の無い顔で言った。「この斜面、すごい迫力あるでしょ。この地形、なんだと思う?」
「え?」
「ここね、吉田大沢って呼ばれてるんだけどね・・・ひたすら広大な斜面で、道とかないじゃない。昔はね、あの辺りに下山道があったんだって。25年前に、崩落事故があったの」
「そ、そうなんですか(初めて知った)」
「山頂から大きな岩が落ちてきて、この辺でも登山者が巻き込まれて、たくさん亡くなったんだよね。運が悪いことに、その年は60年に1度の富士登山のご利益がある年とかで、登山客もめちゃめちゃ多かったんだって」
「そ、そうなんだ・・・」
「今、あっこちゃんが見ている窓から、時々見えるらしいよ」
「見えるって、なにが・・・」
「脚だけの登山者たち」
(ゾーッ・・・・・・( ;∀;))

またある夜のこと。早く仕事が終わって、寝るまでに時間があった。私は女子部屋で共用の物入れから発見した「水の要らないシャンプー」なるものを、試していた。頭皮に吹き付けて、しばらくしたらタオルドライする、と書いてある通りにやってみたのだが、なぜだか余計に痒くなって後悔した。タオルで頭をわしわししながら、他の女の子達のおしゃべりに耳を傾けていたら・・・

「ねえ、山小屋の怖い話、聞いた?」
「えーなになに?」

その女の子が、番頭の先輩に聞いたという話はこんなだった。

2階の部屋に泊まったお客さんがね、出発するときに、番頭さんにクレーム?っていうか、なにか話しかけてきたんだって。
「ここの小屋には、従業員のこどもさんが居るんですか?」
って。そんなこどもいないから、
「居ませんけど」って答えたんだって。そしたらお客さんが
「そうなのね、昨夜私が二階で寝ていたら、黄色いカッパを来たこどもがベッドの間の通路を走っていてね、うるさいなぁと思ってそっちの方見ると、そんな走ってるこどもなんかいないのよね。それで、夢かなぁと思って眠りに落ちたら、その黄色いカッパの子が夢に出て来て、どこからか大人の『入学おめでとう』って声がしたのよ。何かあったんでしょうね、ここで・・・」
霊感の強いお客様だったんだろう。って番頭さんは言ってたけど、怖いのはね、その人だけじゃないのよ。忘れた頃に、同じ部屋に泊まって、おんなじようなこと言ってくるお客さんがちょいちょいいるんですって。

ゾォーーーーーー
聞かなきゃよかった、と、鳥肌がたつ私であった。そんな話を聞いた日にゃあ、
深夜トイレに立つときに、夜勤の番頭さんがいなかったら、怖くて漏らしていたと思う。

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