見出し画像

恋愛茶屋 3月9日午後4時

そのお店は、山深く水のきれいな川のそば、けれど東京都内にある。
国道沿いにあるけれど、行くにはどこからも遠い場所にある。

ーあーあ、春休みだってのに、彼女もいないし、友達は実家戻ってるし、することねーし。。。
ー勉強されたらどうですか。
ーバイト先はまたこっから山奥だし、もっと街中にすりゃーよかったし。。。
スギタは今日もカウンターで、店主にぼやき続けていた。

ーマスター、ここって何か食うものないんですかあ。
ー今日はアップルパイです。
ーこの間と同じじゃないですかあ~そんなんじゃ俺しか客来ないって~
ー。。。いらっしゃいますよ。
テーブル席に、たのしそうに話す女のひとと相づちを打つ男のひとがいた。

ーしかし、よくしゃべるよな。
ーだってたのしいじゃん。趣味あうし、休みもあう友達なんて貴重だよ。
ーもしかして、緊張してる?
ー。。。少しね。まだ距離感つかめないからね。

その男のひとは、ティーカップを置くと、腕を組んで身を乗り出した。
ーじゃあ、俺を友達だけじゃなく、彼氏にも、してくれませんか。
ー緊張しなくなるよ。
それを聴いた女のひとは、一瞬動きが止まったけれど、テーブルに置いていた両手をひざに置いてから、
ーはい。いいですよ。
花開くように笑った。

ー。。。マスタあ~
ふたりの客が店を出ていくところを眺めていたスギタは、カウンターに突っ伏した。
ーあのふたり、さっき絶対に告ってましたよ~。。。
ーそこからじゃ、会話は聞こえないでしょう。
ーいーや、入ってきた時と雰囲気がぜんぜん違う。俺にはわかる。うまくいったんだろーな。。。

店主はスギタから離れて、食器の片付けを始めた。

ーくそー。。。さすが恋バナ喫茶。。。
ー違います。

春になってきたので、まだ外は明るかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?