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恋愛茶屋 6月25日午後3時

そのお店は、山深く水のきれいな川のそば、けれど東京都内にある。
国道沿いにあるけれど、行くにはどこからも遠い場所にある。

―ここのケーキはうまいよな。ごちそうさん。
タニグチさんは近所に住んでいて、自営業です。休憩がてら決まった時間にこの店にくるようになりました。

―なあ、ここって煙草だめなんだよな?
―店内禁煙です。
―めんどくせえなあ。どこも禁煙、禁煙で。
そう言ってカウンターの椅子を持って、ドアを開けはなして椅子を置きました。座って吸って、話しもしたいようです。

―1回くらい、あいつをここに連れてきてもよかったな。
ふーっと煙を吐いて、タニグチさんはつぶやきました。よく通る声です。
―俺の地元だし、ここなら誰も来やしないしな。
ひとり笑いました。

―あんた、また言いたいんだろ?
タニグチさんは煙草を指にはさんだまま、話を続けています。
―電話したらどうかって。
店主は何も言わずに片付けをしています。

―いや、しない。
―しないな、もう。
タニグチさんは、はっきりとした声で繰り返しました。

ポケットから携帯灰皿を取り出して煙草を消し、また椅子を持ってカウンターに戻ってきました。
―仕事終わったら久しぶりに、パチンコでも行ってくるかな。。。
そう言っても席を立つようでもなく、タニグチさんは外を眺めていました。

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