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恋愛茶屋 6月11日午後1時

そのお店は、山深く水のきれいな川のそば、けれど東京都内にある。
国道沿いにあるけれど、行くにはどこからも遠い場所にある。

朝から雨降りでしたが、店内は明るい声が響いていました。

―ねえ知ってる?サイトウくん、地元に戻ってきてたんだって。
―知らない。いつ戻ってきたの?
―3月。やだ知らなかったの?連絡がいってると思ったのに。
―やーだ、なんでよ。

―だって、高校の頃につきあってたじゃない。あの頃のサイトウくん、かっこよかった。
―悪かったしね。
―ほら、車乗ってたじゃない。あんたのこと学校のそばまで迎えにきたりして。

―ずいぶん前に離婚して、いろいろ整理した後に地元のこっちに戻ったんだって。だからあんたのとこに連絡あったと思ってた。
―ええー。。。そんな今さら連絡もらったって。
―知らないから連絡がないんじゃないの?知ったら連絡来るかも。
―確かに旦那はいないけど。
―会わないかって連絡来たらどうする?
―。。。
―どうなのよ?
―。。。わるくないわね。
笑い声がまた響きました。

―そろそろ時間ね。
―今日もたのしかったわね。いいお店出してくれたわね。

―ありがとうございました。
―マスターまた来るわね、あたし達って苗字が同じだから、名前で覚えてね。イズミさんって覚えてね。
―あたしはシズコちゃんって覚えてね。
ケラケラと笑いながら出ていくイズミさんとシズコさんは御年65才。ここで生まれて小学生の頃から、結婚して孫がいるいまもずっと友達同士です。シズコさんは2年前に年の離れた旦那さんに先立たれました。

まだまだ元気ですが、2週間に1回は総合病院に行くようになりました。
この店がバス停の近くにできてからは、待ち合わせをして、お茶を飲みながらおしゃべりをして、1時間に1本ほどのバスに乗っていっしょに病院に行くようになりました。

―恋バナ喫茶か。。。
思わず髪をなでてしまった店主でした。

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