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畑バイトはランニングに生きるか

12月、1月は、宿屋がヒマだ。その分、夏に働いているので、ヒマだからといって路頭に迷うわけではないのだが、ヒマが続くと、不安が生じてくるのが、小市民の情けないところ。今年はたまたま縁があって、少しの間だが、さとうきび畑で日雇いバイトをさせてもらうことになった。何年か前までは、キビ倒しといって、一日中オノでサトウキビを薙ぎ倒し、積み上げるという、ガチ肉体系作業が主流だったのだが、今は、ハーベスター助手と言われる、ゆるいやつが多い(僕のバイトもコレ)。この数年で、宮古のキビ農業も一気に機械化が進み、サトウキビ版コンバインともいうべき、ハーベスターが、複数の工程(外葉を落とし、キビを倒し、ユンボでダンプに積めるように積み上げる)を一台でやるようになった。

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人海戦術だったキビ収穫が、ほんの数人で、またたく間に、畑一枚を平らげる。助手の仕事は、ハーベスターが刈り残したキビを集めたり、機械のセッティングを手伝ったりすること。よく手入れされた畑ではラクな仕事だが、雑草だらけだったり、キビが曲がりくねってナナメに生えまくっているような畑では、仕事が多い。が、どんなに多くても、手刈り時代の比ではない。

案外体力ないぞ、自分。

ラクな農作業だよー、と聞いていた割に、しんどい。初日、あっという間に腰痛になった。中腰になっては立ち上がってを、延々と繰り返す動作、果てしなく広がる畑。まあ確かに、レース後の疲労感は残っていたし、風邪気味でもあった。が、それにしてもしんどい。世間では、100kmも走れるんだから超人的、なんて言われたりするわけだが、畑では農家のオジイに全然敵わない。そこで改めて気づいた。
「そっか、俺は今までラクしてたんだな~」
長距離走というのは、ある側面から見ると、いかにラクして走り続けるか、という競技でもある。ラクに走ることは大分覚えた。が、ラクに中腰でオノを振りまくることは、全然知らない。当たり前のことだが、身を持って理解した。

学生は世間知らずか

よく、若い連中は世間を知らないから、という。まあそうだろう、若いというのはそういうことだから。が、そう言っているオッサンたちも、やはり世間知らずだと思う。例えば会社員なら、その一定の範囲(オフィス、取引先、得意先、などなど)の外側をどれだけ知っているだろう。オリンピック選手だったら、自分の競技の外側をどれだけ知っているだろう。誰であれ、自分の社会的立場というものがあり(例えニートでも引きこもりでも)、その外側のことというのはほとんど知らないものではないか。学生たちが所謂社会人の世界をよく知らないように、オッサンたちも、学生の世界はよく知らない。ソクラテスではないが、「知らないということを知っている」という態度が重要だと思う。
自分は、アスファルトを少々速く走るかもしれないが、畑ではノロマだ。という気づきが、新しい視点(パースペクティブ)をもたらしてくれた。いや、新しいわけではなく、忘れていた、というべきか。
さまざまな視点で生きるさまざまな人々がいて、それらに優劣があるわけではない、ということ。
年を重ねるほど、視点は徐々に固定化され、世界の殻は小さく縮んでくる。時に、こうして風穴を空けてやることが、精神を若々しく保つのに役立つかもしれない。今後はできれば意図的にそうしてみようと思う。

敬意を払え。勝ちたければ!


ところで、僕を直接知っている友人たちには、らしくもない偽善的なことを言い出したものだ、と思われるかもしれない。いや、待ってくれ、別に「世界平和のために」とか「みんな違ってみんないい」とか「ナンバーワンにならなくてもいい」とか言いたいわけじゃない。僕の視点はあくまでも利己的、タイムを出して勝負に勝つことができるかどうか、である。
僕はこれまで、練習を積み重ねて、追い込んで追い込んでレースに臨んだときほど、失敗することが多かった。「こんなに練習したんだから勝って当然」「相手はここまでやってないだろう」という慢心、ライバルを見下す感情。そういうときはたいてい、非常に小さく固定された視点からのみ、自分を見ていたのではないか。複数の視点から自分を眺めてみれば、オーバーワークがあったり、データの読み違いがあったり、意外と「完全に優勢」なんて状況は見つからなかったりする。自分の欠点が見えるときは、相手への敬意も生まれてくる。相手を見下すという現象自体、視点が固定されてしまっているということだから。逆にいうと、「敵に敬意を払えないときは、何か重要なものを見落としている可能性が高い」ということ。
うん。サトウキビ畑からずいぶんと話が飛躍してしまった気がする。

これはおまけだが、畑で腰の上げ下げの形を工夫するうち、ハムストリングスで体重を支えるコツがわかってきた。これはランニング用スクワットとして単純に有効!3日ほどやったら、100km走っても筋肉痛にならなかったハムが、バキバキww 思いがけない副産物である。

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