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女さんへ、生きろ(笑)

視界の隅々までが極彩色に染ってゆく。いや、経った今染まり始めたのだろうか。それとも、これから深淵へと変わりゆくのか。
あたしは駅のホー厶の端からもう一方の端へと往還を繰り返した。黄色の線の内側には沢山の人がいるが、外側には誰一人としていなかった。
男はスマートフォンを顔の側面と肩で挟み、なんだか忙しなくしている。スピーカーから音が漏れている。甲高い女の声が男を包み込んだ。
女はしゃがみこんでいる。前方に回り込むとパンティが見える。灰色のナイロンのパンティ。その中からか少しくすんだ白色が顔を出している。顔だけでなく陰部さえも扁平だ。
少女は自販機の前で立ちつくしている。1番高い位置のボタンを押したいが、手が届かないらしい。母親らしき女は抱っこ紐を身に付けていて、赤子をゆらゆらと胸先で揺すっている。少女は下から二段目の三ツ矢サイダーを選んだみたいだ。
あたしは時々考える。幼少期、蚊に刺されて局部を搔いた時に、もし母が「痛いのね?」と尋ねていたら、と。あたしは痒いを痛いと誤認して生きてきたのだろうか、と。オマエに傅いて生きてきた。オマエがあたしを捕らえた。オマエが、オマエが、痺れを切らす。
ぺトリコールに包まれたリビドーが爆発する。
バンバンバン。バン。
パンプスをホームの向こう目掛けて蹴飛ばす。軌条の上に落ちる三秒前。あたしは、あたしの靴下とコンクリートが触れた感触を忘れたくない。

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