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映画感想『ジャンゴ 繋がれざる者』キング・シュルツに学ぶ

原題:Django Unchained
(注意)本稿は物語のネタバレ含みます

定期的に西部劇が観たくなる。

カラっと晴れた天気
広い荒野を駆け抜ける馬
口笛混じりのBGM 
撃つか撃たれるかの緊張の時間
そして酒場で出されたあんまり美味しそうじゃないビールをグッと飲む

西部劇にはそんなシーンがあると嬉しい。

私もいざという時、男子たるもの何時でも荒野に駆けだせるようにテンガロンハットも持っていた。

ただ、日本の街中で日常的にテンガロンハットを被るのは相当なファッション上級者でなければ間違いなく浮いた存在、はっきり言えば危険人物に映る可能性が否めないため、実際に外で被ったのは2016年の東京ゲームショウの一回きりだ。

東京ゲームショウでもTPOに合ってるのか?という疑問もあるだろうが、そこはやっぱり ”若さ” だろう。 

今より6歳も若い純粋無垢なあの頃の自分に「テンガロンはやめとけ」とは私は言えない。 
ぜひ20代最後の年を思う存分謳歌してくれたまえ。

波動拳をスライディングで弾抜けを試みる 29歳の秋

ただ2016年以降の6年間、テンガロンハットの出番が訪れる機会はなく押入れの肥やしと化していたので、この記事を書いている1か月ほど前に処分した。

少し寂しい気持ちもあるが、テンガロンを使う心配がないということは変わらない平穏な日々であるということの証明なのだろう。

やはり日本はまだまだ平和だ。



さて、映画『ジャンゴ 繋がれざる者』の話

この作品は西部時代の黒人奴隷制度が大きなテーマとなっていて目を背けたくなるような凄惨なシーンも多い

しかし、そんな重くて暗いシーンが「陰」ならば、憎い悪役どもを撃って撃って撃ちまくる復讐劇パートは眩しいくらいの「陽」だ。
陰が濃ければその分だけ陽がより眩しく映える、コントラストが強くメリハリを意識した作品だと思う。

スピード感のある撃ち合いの映像や音楽は爽快感があり楽しいが、現実の歴史では虐げられた人達には反抗する権利やチャンスすらなかったんだろうなぁ、と考えさせられる部分でもある。

そんなカタルシスを弾丸に込めて「撃て!ジャンゴ!」と心の中で叫んでしまうような映画でした。

上映時間は2時間45分もありますが、私は寝る前の空いた時間や通勤時間を利用してシーンの区切りで分けて視聴したため特別長い映画という印象はそれほどありませんでした。
※映画の御作法としては邪道かもしれませんが

普通に劇場のように休憩無しで視聴したら長く感じるかもしれませんね。


この映画は悪く言ってしまえば先が読みやすい、いわゆるお約束なストーリーだが退屈しなかった理由の一つとして登場人物のちょうど良い濃さがあると思う。

私のお気に入りは命の恩人であり、相棒であり、師匠であり、友人でもある、もう一人の主人公「ドクター・キング・シュルツ」

ドイツ人なのでビール🍺 わかりやすい!

この映画を見てドクターシュルツが好きにならない人間は存在しないだろうが、私も彼について語りたい。

彼はドクターと呼ばれるように元歯医者で今は賞金稼ぎ
銃の腕はもちろん上等だが、それ以上に策士で口達者な男

性格はとても紳士。
むしろ紳士すぎるが故に人種差別が蔓延しているこの時代では生きにくさすら感じているだろう。

賞金稼ぎという特殊な職業柄、生死を問わない賞金首なら躊躇なく殺しもする。

その見事なまでの爽快な撃ちっぷりから推測するに、シュルツは食べていくために賞金稼ぎを選んだのではなく、生き方として賞金稼ぎを選んだのではないか?と私には見えた。

そんなDr.シュルツは、ある賞金首を追うためにジャンゴを奴隷商から買い取り彼を自由人として奴隷から解放するところから物語は始まる。

シュルツはジャンゴの素質の高さを見抜き、銃と賞金稼ぎの技術を教えジャンゴを一人前の賞金稼ぎに仕立て上げ相棒に迎える。

そして旅の道中、ジャンゴにはブルームヒルダという名の妻が別の場所で奴隷として使われていることを知り、危険は承知の上で救出に向かうつもりであるという決意を聞く。

それを聞いたシュルツは「これはドイツの伝説にある『二―ベルングの指輪』のようだ」と例え、ジャンゴの妻の救出の協力を申し出ます。

つまりジャンゴが「竜殺しの英雄」ジークフリート、ならば「竜」は本作ではレイシズムを持った白人でしょう。

ニーベルングの指輪の物語ではジークフリートは竜を倒し、返り血を浴びて不死身の身体になります。
※返り血を浴びる時に背中に木の葉がついて、そこだけが不死身になれなかったのでジークフリートの唯一の弱点です。

メタ的に読むと、Drシュルツは「このジャンゴって映画はこういうお話だよ」と、作中に視聴者に向けてサラっと説明しちゃってます。


そして物語終盤、シュルツとジャンゴは妻を奪い返すために策を巡らせますが、土壇場で白人のカルヴィンに魂まで売った黒人の奴隷スティーヴンに作戦を看破されてしまいます。

そしてシュルツはジャンゴの妻を解放するために1万2000ドルという非常に高額な金額を支払うか、または妻ブルームヒルダの死か、という理不尽な二択を迫られ1万2000ドルを支払うことになります。

とても高額な取引になってしまいましたが支払うことができたのは、シュルツが賞金稼ぎとして優秀であったことが伺えます。

そして取引が成立しかけたところで、白人のカルヴィンは1万2000ドルと契約完了の握手をシュルツに求めます。

「握手ができなければ取引は成立しない」というのがこの屋敷(土地?)での決まり事だとカルヴィンは手を差し出しますが、シュルツは握手を拒否。
握手代わりにカルヴィンを撃ち殺して、「すまん、我慢できなかった」とジャンゴに告げるとカルヴィンの手下に撃ち殺されてしまいます。

嫌なヤツに金は払えても、握手はできない。

その行動が最善かどうかはさておき、シュルツが真の紳士であることが印象的なシーンでした。
いや、あんたがラスボス倒すんかい!

シュルツを失い、妻を取り返すこともできず、結局撃ち合いの果てにジャンゴは囚われてしまいます。

白人達から怒りを買ったジャンゴは即死させずにもっと過酷な刑を、ということで死ぬまで苦しんで働かされる鉱山へ売り払われてしまいます。

鉱山に運ばれる道中、ジャンゴは運び屋に儲け話があると丸め込まみ、自由と銃とダイナマイトを手に入れ運び屋達を撃ち殺します。

今までどちらかといえば腕は立つが無口である無骨な印象の人物だった主人公ジャンゴが饒舌に喋り、相手を騙し、運び屋達を油断させたのがとても印象的です。

この窮地を脱するための話術も銃の腕と同じく一流の賞金稼ぎに必要なシュルツ譲りの技術なのでしょう。

異国の地で無念にも果てたシュルツの生き様がジャンゴの中で確かに受け継がれているのがとても感動的でした。


私もたまに考えるのですが、子孫や成果物を残さずにこの世を去る人間が最後に残せるものとして 生き様 というのは間違いなくあるでしょうね。

この映画はシンプルな物語の中で力強くて濃い男気が観れてとても良かったです。
私も一つ身が引き締まりました。
西部劇は男を強くしてくれますね。


ドクター・キング・シュルツに愛を込めて

THE END







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