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ハムスターに感化される売れない芸人の話 1.母の日

内臓が飛び出たのかと思った。

毎朝、フェレットが餌を寄越せと格子をかじり揺する騒音で目が覚める。
視界の半分以上が目蓋の裏側って状態で、
外出自粛に責任を転嫁したくなる重い身体を、
いつの間にやら増えてしまった我が家の小動物たちに傾けていく。

3匹同じケージで暮らすロボロフスキーハムスターという生き物。
ハムスターの中では最小の種類。
未だ寝惚け眼の僕とは違い、その小さな身をこれでもかと燃やして滑車を回している。
餌の時間ではない、充分に餌も水も残っている。
最近は専ら新参のフェレットにお熱なので、
買って間もないケージの方へ視界を移そうとする最中、
古いケージの中に赤黒い何かを確認した。

赤黒い何かはハムスターの口から出ている様に見える。
以前、ケージの中の人形を齧り散らされ、
それが赤色だったため吐血を疑い、冷や汗をかいたことを思い出す。
前回と異なる点は、今はケージの中に赤いものが無いことだ。

内臓が飛び出してしまったのか?


なんて弱い生き物なんだろうと思った。
ケージの中に敵はいない。
ハムスターが快適に過ごせるように開発された物に囲まれて、ただ生きるだけなのに。

内臓が動いた。

よくケージを見渡せば内臓は他にもあり、床材に埋もれていた。
かつお節程度にしか感じられないパワー、ただ確実に動いている。

赤ちゃんだ。

母の日に、
うちのロボロフスキーハムスターは母になっていた。

共食いを避けるため、急いで母子以外を別ケージに移す。
懸命にその身を動かす赤ちゃんたち。
確認できるのは5匹。
耳を済ますとヒュッヒュッという消え入りそうな声を、それでもはっきりと聞かせてくれる。

母に成り立ての、先刻まで弱いと決めつけていた小さな生き物は、
見たことないくらい必死の形相で、
赤ちゃんを咥え運び、1か所に集めると、
覆い被さるようにその身の熱を与え始めた。

芸人って名乗って何もしていない弱い生き物は、
せめてこの強い生き物のことを伝えていかなければならないと思い至った次第。

頑張らせます。