【怪談】黒い手のおじちゃん

幼い息子を持つ母親Yさんの話。

Yさんの息子は、目を離しても一人でいなくなってしまうようなことはなかった。
用心深い子なので、興味のままに母から離れることもなかったようだ。

Yさんはつい油断して、スーパーで買い物をしている時に目を離した。

すると、いつの間にか息子はいなくなっていた。

大丈夫と思っていたが、どこを探しても息子は見つからない。
Yさんは、半ばパニックになって息子を探し続けた。

数時間後、夕闇迫る時に近所の林で息子は見つかった。
幸い無事だったが息子は
「黒い手のおじちゃんに連れて行かれた」
と話した。

付近には外国人もいない。
それに息子さんも嘘をつくタイプではなかった。

誘拐犯の見当はつかなかった。

幼い子にある空想だろうとYさんの夫は言った。
夫は何事も楽観的な人だった。

その夜、息子と夫が寝静まった頃、Yさんは一人居間の片付けをしていた。

Yさんが足下のおもちゃを拾う。
窓の側に近づき、おもちゃを拾っている時だった。

カーテンの下から突然黒い手が現れた。

黒い手には、男の子を模したぬいぐるみが握られていた。

黒い手はぬいぐるみを床に置くと、カーテンの向こうへ引っ込んでいった。

Yさんはパニックになって夫を叩き起こし、共にカーテンの裏を見た。

だがカーテンの裏には何もいなかったし、窓も施錠されていた。

窓の向こうには何もいない。

黒い手が放置したぬいぐるみは、やけに息子に似ていた。

「ぬいぐるみをやるから、代わりに息子をよこせ」と言われている気がした。

Yさんは背筋が冷たくなった。

結局Yさん一家は、近所の神仏関係にお祓いに行き、ぬいぐるみを引き取ってもらった。

それ以来、黒い手が現れることはなかったそうだ。

【おわり】

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