5分で読める!【読書感想文】創元推理文庫『ラヴクラフト全集3』収録作品全レビュー
毎年夏の納涼読書イベントで、既読の創元推理文庫版1冊に収録されている短編のオリジナル版を収録順に読んでいくという、我ながらよくわからない縛りのチャレンジ3年目。
抽象的な単語を畳みかけるように書き連ねることで恐怖を醸成していく手法は、映像が日常化し、文字通り手のひらで楽しめるようになった昨今では、もはや継承しがたいスキルなのかもしれない。
知らない単語が多く、読み上げを聴いていても、しょっちゅう止めて辞書で調べないといけないので、遅々として進まなかった。
自信なくすー。
『ダゴン』Dagon (1917)
漂流先で遭遇した怪異。かつて大海は、今よりもはるかに未知で恐ろしい場所だったのだ。
というか、宇宙SFって、海洋冒険小説を換骨奪胎したものなのだ、きっと。海洋生物への恐れは、エイリアンへの恐れに通じるのか。
83点。
『家の中の絵』The Picture in the House (1920)
ニューイングランドの土着的なインセスト・タブーとカニバリズム。不気味なおじさんの訛りがキツくて、すごく読みにくい。訳文ではどうなってるのか気になる。東北弁だろうか。
80点。
『無名都市』The Nameless City (1921)
メソポタミアにある太古の廃墟が舞台。レプタイルなクリーチャーよりも、天井の低い地下神殿を這って移動するという閉所恐怖症的なシチュエーションが息苦しくて怖い。
私は閉所恐怖症だったらしいことが、今回判明した。
87点。
『闇に潜む恐怖』The Lurking Fear (1922)
ニューイングランドのインセスト・タブーとカニバリズムと雷と閉鎖空間。
雷以外はラヴクラフトのオブセッションか。歴史がないとされるアメリカに潜む深い闇。このあたりはスティーブン・キングが影響を受けているのかなあ。
78点。
『アウトサイダー』The Outsider (1921)
地下の塔に閉じ込められて育った語り手。そこから抜け出し、地上で見出したものとは。
自らを知ることの恐怖を描いた現代的な作品。
わりと早い段階でネタが割れるが、それでも最後まで読ませる筆力はさすが。
85点
『戸口にあらわれたもの』The thing on the doorstep (1934)
古今東西、二人の人間の心や魂が入れ替わる話は多いが、肉体を奪われる恐怖、他人の肉体を奪いながら太古の昔から延々と生き続けるおぞましい存在を描かせたら、ラヴクラフトの右に出るものはないだろう。
幼少期に本作を読んでいたく感動した新海誠監督が、換骨奪胎してアニメ化したのが『君の名は。』であると言われている(ウソ)。
92点。
『闇をさまよう者』The haunter of the Dark (1935)
異教徒の教会で、怪異にとりつかれた芸術家が見たものとは。
地図にない、誰も知らない、ある建物のある窓だけから見える建物というモチーフには、それ特有の魅力がある。
いわゆるクトゥルフ神話もので、生前に発表された最後の作品。印象は薄い。
73点。
『時間からの影』 The Shadow out of Time (1936)
太古の異形の種族と心を入れ替えられてしまうホラー。
ケタはずれな空間と時間の広がり。
宇宙SFであり、考古学ミステリであり、悪夢のようでありながら、リアリズム的でもある。
息詰まるような濃密さの中を読み続けるうちに、著者の企みに気づいて戦慄する。
何度でも読みたい傑作。
95点。
総合92点。
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