素人読書感想文『成瀬は天下を取りにいく』#4

 小説『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈)を読み終えた以降、感想が止まりません…。

(前回までの感想)

 ここでは、登場人物の中で特にグッときた人物の感想をまとめておきたいと思います。

※以下、小説の内容が含まれます。

● 島崎みゆき

 この小説を読んで真っ先に「語りたいな!」と思ったのは、私は間違いなくこの島崎みゆきですね。なぜかと言われても、今この時点でもうまく言語化できるか危うかったりするのですが、ちょっと考えてみようと思います。

① 読み始めでの印象

 最初の印象としては、天才・奇才のそばにいる、読者と視点を共有してくれるような立ち位置の人なのかなと思って読んでいました。

わたしは成瀬と同じマンションに住んでいることが誇らしかった。

「さよなら西武大津店」

小学五年生にもなると、成瀬は女子から明確に無視されるようになる。わたしは同じクラスだったにもかかわらず、わが身かわいさに成瀬を守ることはしなかった。

「さよなら西武大津店」

 島崎は、
(ア)成瀬という天才を傍から見ている一般人である
(イ)同じクラスで成瀬が嫌がらせに遭っていても助けられなかった
こんな人なのかな、と。言い方悪いが、成瀬の金魚の糞、コバンザメ的な。

ただ、島崎はそんな器に収まるヤツじゃなかった!!と、思ってる!!

② 成瀬を守ることはしなかった

 まずは上記(イ)について。

 「線がつながる」まで読み進めると、成瀬を直接守っているわけではないけれど、嫌がらせにも加担しようとしていないことが分かります。島崎本人視点からは「守ることはしなかった」なんて言っているけれども、少なくとも1人は島崎をそのように見ていない

小学五年生のときだってそうだった。女子が成瀬の悪口を言っていると、島崎はさりげなく姿を消す。(中略)成瀬の敵サイドと線をつながない意思を感じた。

「線がつながる」

 これが当時の島崎ができる成瀬への精いっぱいだったのでは?

 他の人(私も含めて)だったら「(守りたかったのに)守れなかった」みたいな言い回しにしそうだし、実際そのように表現しても周りは「しかたないよね」と認めてくれるでしょうが、島崎は

成瀬を守ることはしなかった

なんですよ。カーストや雰囲気といった不可抗力のせいではなく、あくまで「守らない」という選択を自ら選んだものとしていて、またそれを後悔しているような……。これは私の主観ですが。

 もしそうなら、島崎は自分の弱いところもしっかり向き合おうとしていて、本当に強くて魅力的なキャラクターだよな、って。

③ ゼゼカラと“いつも”

 私が特に好きな流れがあります。

 成瀬に付き合う中で島崎が「頭が真っ白になる」瞬間が2回ありました。
 1つ目は「さよなら西武大津店」で撮影クルーが見当たらなかったとき、2つ目は「膳所から来ました」で文化祭本番の漫才のときです。

 この【頭が真っ白島崎】は、どちらもいつもの調子の成瀬に救われているんですよね。

 まあそもそも、島崎は成瀬に付き合いさえしなければこんな事態に陥ることもないので、成瀬に勝手についていって勝手にピンチになっていると見てとれなくもないですが……。

 かといって、成瀬に付き合うことが無駄だったかというとそうではなく、むしろ島崎を成長させてくれる材料になっているように思えます。

 特に、文化祭本番の漫才を終えてから、島崎は決意を新たにします。

わたしも足を引っ張らないよう、ボケを練習しなければ。

「膳所から来ました」

 しかし、M-1当日、島崎は確信してしまいます。

成瀬はわたしに期待していない。

「膳所から来ました」

それからの、

「わたしは相方だから」

「膳所から来ました」

ですよ!!!これはもう島崎の成長でしょう!!!
「成瀬の足を引っ張りたくない」から「成瀬と肩を並べたい」へ!!

 ってことを思うと、「膳所から来ました」の最後の一文はたまらなく愛おしいんです。私にとっては。

 さらに言うと、「ときめき江州音頭」では、最初の話とは一転して今度は成瀬の方がいつもの調子を失ってしまいます。そんな成瀬を助けるのが、そう、この成長した島崎みゆきなんですよ。逆転!

「わたしたち、気まずくなってたっけ?」

「ときめき江州音頭」

 そして、成瀬がいつもの調子を失ってしまった原因もまた島崎でした。

あれ?てことは……

序盤:島崎成瀬が原因で振り回されて、成瀬に救われる。
終盤:成瀬島崎が原因で振り回されて、島崎に救われる。

 おいおい、なんだこのコントラスト……尊すぎだろう。

 あとゼゼカラ関連でもう1つだけ。

 読んでいるときは、すっかり成瀬と同じような気分で「ああ、もうゼゼカラ解散か…」と信じて疑わなかったのですが、よく考えればあの・・島崎みゆきが解散したがるわけがないよなと。

 たとえ引っ越そうが「成瀬あかり史を見届けたい」ことには変わらないだろうし、むしろゼゼカラの存在が島崎を成瀬とつなぎつづけてくれるわけですから。漫才そのものも嫌いじゃなさそうですし。

● おわりに

 言葉にしてみると、改めて島崎の原動力、おそるべし。ていうか、島崎自身が原動力に忠実すぎる…!!

 成瀬を前に霞んで見えますが、島崎も島崎で行動の天才。誰かを応援したくても、漫才の相方までできないでしょ。

 これはたぶん、成瀬が島崎を行動の天才たらしめたんでしようね。

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