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スロウハイツの神様 過去一響いた小説

 辻村深月さんの長編小説である「スロウハイツの神様 上・下」を先刻読み終えました。読了直後補正も当然にあるとは思いますが、死ぬ前に読む本はこの本にすると決めました。

名言の宝庫

 この本の中にはまさしく言いえて妙というような繊細で的確な表現であふれています。それらの表現により、登場人物の人間性や葛藤を如実に表しています。
 今回の記事では愚直に私が感動してメモをした表現のみを紹介したいと思います。
 それに対する私の感想や考えは今後の記事で用いられると思うので、今回は辻村深月さんによる、暴力的なまでの表現技法に魅入られてほしいです。

「恋っていうのは故意に作り出す盲目のことだよね」

「人間とは、年を取り経験を獲得することに伴い、実際の出来事を見るのに慣れ切って、思い入れや情緒が摩耗していく生き物だと思うのに、公輝には全くそれがない。類型化したり、他を貶したりすることで回りを平らにしない。かけがえのない一人の人間が只中にある一個の現実なのだという、そこをきちんと踏まえている。」

「この子の身の回りはどういうわけだか空気の密度が濃く、流れる時間のスピードも速い。普通の人間がただだらだらと過ごす余裕を持った二十四時間が、彼女にはその何倍にも意識されているようだった。」

「健全さの檻をはみ出した痛みは、終わることなく拡張していく。」

「ほら、立場が違うだけで人間っていうのは相手の好き嫌いの評価まで変わる。やっぱり弱いよね」

「刺激っていうのは、見せ過ぎてしまったらあとは廃れるだけだよ。」

「愛、という語彙も、彼が口にすると妙に軽やかだ。」

「いじめにはその一線を越えてしまったら最後、逆にかっこ悪くなる瞬間というのがある。世論の波はそれを敏感に察知していた。」

「人間は自分が計算していればしているだけ、相手の計算やごまかしを敏感に読むようになる。疑い、目敏く発見する。」

「涙というのは、容易く売り物になってしまう。」

「日のないところに煙を見つけ、もやがかかった視界でお互いを丸裸にしてしまう。」

「だけど、それだって相手次第なはずだよ。スーが付き合ってる男は、きっと普通なんだよ。ただ、女の方でそれ増長させている。あの子がただ溺れてるんでしょう?底の浅いプールで、無理やり足がつかないふりして楽しんでる」

「不幸に依存する人間は、誰かにその状態を見せるところまで含めてが、一つの儀式なのよ。」

「今日バイトが終わった後も、自分はここに帰ってくるのだろうと、鈍い感覚でかっ苦心する。思うと、自嘲の笑みがこぼれた。」

「できるだけ正確に感謝を伝えたくて、繰り返した。」

「あ、やばい。一度そう思ってしまうと、それが起こるまでの距離が途端に加速するように思えた。」

「当然だ。つついてしまったくらい藪の中から呼び出してしまった存在が何であるかを、環は彼から隠した。」

「怒りのモチベーションって、それだけでは案外、長く保たないもんなんですよ。環の場合、創作意欲は確かにそこから来てるんでしょうけどそれだけじゃないはずです。持続させたいなら、怒り以上のもっと別のことをそこに織り交ぜないと。ユーモアとか愛とか。」

「何かに依存しなきゃ生きていけない個性の持ち主は、誰か他人に幸せにしてもらうしかない。だったら男を見る目くらいまともに持っていなきゃしょうがないのに、それもないなんてどうすんの?」

「嘘による自己実現のチキンレース。どこまでもいける、と崖から身を乗り出す。飛び上がり、行き過ぎて、墜落する。リリアも、そして、環の母も。」

「それが叶う場合も、叶わない場合もある。けれどそれにより挫折し、諦め、折り合いをつけることは、噓をついて手に入れた幸せや楽しみよりきっと価値がある。」

「この世の中には、楽しいことがたくさんある。人を好きになって、人から好かれて、対等に関係を結んで、友情とか、恋とか、愛とか名前を付けて、そこからたくさんの経験を学ぶ。獲得する。」

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