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描写⑩時の下流

 にわか雨に降られつつ、車を走らせること1時間半。我々は件の川へと辿り着いた。といっても、この川について知っていることと言えば無に近しかった。具体的にその地に足を運ぶことによって無機質な知識に血が通いだした。若者が突発的に訪れることの多いこの川の周りには石畳が敷かれている。その石畳は人為的に作られたものと説明される方が納得がいく。人間に作られたもの以上に自然の産物は不可思議だ。現実は小説より奇なり。私が日々過ごす都会での時間に比べ、そこで流れる時間は原始的で、緩やかであった。時は、流れると比喩される。この川における時間の流れは、この川の流れ以上に遅いように感じる。思うに、川の流れに対する石も、時間の流れに対する人間も、結局は下流に辿り着くようにできているのではないか。激しくぶつかり合いアイデンティティが芽生えた後、緩やかな衝突を重ねて一つの形になる。喧騒の中に生きる人々は、時の下流に身を置くことでデトックス効果が期待できる。

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