大増殖天使のキス #毎週ショートショートnote
「神様ぁ! もう限界です! 早く増員してくださいよぉ!」
「まったく、やかましいのう」
あまりの激務の連続に耐えかねた私は、天使業務の合間に、神様に文句を言いに来ていた。
「神界はどこも人員不足なんじゃ。わがままを言うでない」
「そんなこと言ったって、もう人間増えすぎて私一人じゃどうにもなりませんってば!」
「でも、お前ら新しく創るの大変なんじゃよなぁ。ほら、ワシってば、ゲームのキャラクリで数日は悩んじゃうタイプじゃし」
「私がこんなに忙しくしてる間に、神様はゲームなんてしてるんですか!?」
「おおっと、いらんことしゃべっちった」
ペロッと舌を出す神様。可愛くないですよ、とは言えなかった。当たり前だけど、私なんかが神様に敵うはずがないのだ。
「……もういいです。でも、せめてこの、『ひとりぼっちで聖夜を過ごす人間に天使のキスを届けよう』なんて意味の分からない仕事だけでもなんとかならないですかね……」
「おお、それかぁ。ワシが考えたんじゃよ?ソレ」
私は、どうだと言わんばかりに胸を張る神様に、聞こえるようにため息をついた。
「ま、まあそうまで言うなら仕方ない。なんとかしてやろうかのう」
そう言って、神様はその大きな手を私に向けてかざす。ふわりと暖かい風が私の羽を揺らした気がした。
「これで大丈夫じゃろう。ほら、いってこい!」
気配を感じて振り向いた。そこにいたのは、数え切れないほどの、私自身だった。
「か、神様、これって――」
「有能なお前がいっぱいいれば、なんとでもなるじゃろう! ワシってば天才じゃな!」
呆れ果てて声も出ない。幾万といる私の分身たちと一緒に、大きなため息をついた。
「もう……仕方ないから届けてきますよ、天使のキス。そのかわり――」
分身たちに目を配る。
「そのかわり、帰ってきたら私達みんなで遊べるゲーム用意しておいてください。それじゃ」
そんなにコントローラー用意できるわけないじゃろ、と文句を言う神様を無視して、私達は大増殖天使のキスを届けるために飛び立った。
(838文字)
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今週も、たらはかにさんの以下の企画に参加しています。
ごめんなさい。楽しくなっちゃって、思いっきり文字数オーバーしちゃいました。でも、天使を大増殖させてキスを届けてもらうということは成功してると言いたい!(結局キスのところまでは描けてないけど(笑))
こういう奔放なキャラと、勤勉な振り回されキャラを書くのはとっても楽しいです。
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