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なるべく動物園 #毎週ショートショートnote

 親たちの言い合いが聞こえてきて、僕はおもちゃを手にしたままひっそりと息を潜め、耳を澄ました。
「仕事ばっかりじゃあの子達が……」
 いつもの通り、お母さんがお父さんに小言を言っているようだ。
「わかってるさ、次の日曜はなるべく動物園にでも……」
 動物園!その単語を耳にして、僕は踊る心を抑えるのに必死だった。僕は眼の前でお人形遊びをしている妹にも教えてあげなければ、という使命感に燃えた。

 僕は、親たちに聞こえないよう、ヒソヒソ話で妹に話しかけた。
「お父さんが、なるべく動物園に連れて行ってくれるって」
「なるべく動物園? どこにあるの?」
 妹はいつも鋭い。確かに、そんな名前の動物園は聞いたことがない。僕は自分の天才的な頭脳をフル回転させた。なるべく……ナルベク……Nalbeck……そういうことか!
「外国の動物園だよ」
 毎日見ていた教育テレビで学んだ英語が、こんなところで活かされるとは。やはり、持つべきものは知識だ。兄としての威厳はこれで保たれただろう。
「え! 外国にいけるの!? やったあ!」
 そう言って、妹は親のところへ駆け出していった。

 僕はお母さんに、妹に嘘を教えるなと叱られた。

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たらはかにさんの以下の企画に参加しております。

たらはかにさんがご紹介されていたのを見て、今週は坊っちゃん文学賞への応募を頑張ってみました。といっても最終日に書き上げた2本を出しただけですが……。

ロスタイム投稿になってしまいましたが、楽しい作品が書けたと思います。ちなみに兄妹は双子。二人ともとっても賢い子です。
皆さんの作品は読めていないので、ネタ被り等あればご容赦を!

これは超余談ですが、これまでこちらではイサミヤという名前をメインで名乗っていましたが、一身上の都合により、ささざめという名義に統一することにしました(ここのnoteだけ別名義になってしまってたので統一したくなっただけです)。
漢字で書くと笹鮫です。名前だけでも覚えて帰ってください!


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