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【エッセイ】恵方巻きを買えない僕

 2月3日。今日は節分だった。でも、僕には関係のない、いつもの金曜日。1週間の仕事を終えて、スーパーで買い物をして帰る。
 ふと目につく、お惣菜コーナーに群がる沢山の人々。あぁ、そうか。恵方巻きの日か。

 ただ巻きずし食べるだけの、くだらない行事じゃないか。何をそんな必死に。なんて、心のなかで目に映る人達を馬鹿にしながら、通りにくい通路の端を横切った。

 レジで支払いを終えて、店を出る。冬の風が体を撫でる。

 家まで15分の帰り道。歩きながらふと、考える。さっきは馬鹿にしていたけれど、あの人達、恵方巻きに群がるような人達こそが、幸せなのではないかと。

 あの人達はきっと今日、今年1年の幸せを願い、家族で一緒に巻きずしを食べる。そんな暖かなひと時を過ごすのだ。今日だけじゃなく、そうやっていつも、暦のめぐりを楽しんでいるのではないか。

 そう思うと、ぐっと惨めな気持ちがこみ上げる。季節を楽しむ余裕もなく、ニヒルに世間を馬鹿にする自分が少し嫌になる。
 けれどやっぱり、恵方巻きを買ってみようとは思えなかった。

 今日も僕は、昨日と同じ、飯を食う。それが僕にとっての幸せなのだ。

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