運命アンソロジー感想

私も寄稿した運命アンソロジーを読み終えました。せっかくなので、備忘録的にざっと感想をまとめてみました。
 なお、私は道徳やら総合やら読書感想文の宿題やらで感想を書くのが苦手な人間であったので、感想のクオリティはご寛恕ください。


悪意の第三者がお皿を洗う可能性
赤坂パトリシアさん
 まずタイトルが秀逸。そして、それってどんなシチュエーションと言いたくなるタイトルを解題する中身の巧みさ。着想もさることながら、終わりまでの持っていき方もハイレベルでしたね。のっけから残りの作者のハードルを上げてくるクオリティでした。


幸せな夢が踏まれたあとから
市亀さん
 運命を作出する百合小説。
 切ない。と、同時に幸福を得られた後も以前よりも気を遣ったりで労の多いことがあるという幸福≠楽という現実的な生っぽさが印象的でした。


運命なんてクソ喰らえ
綾坂キョウさん
 運命を打破する、というテーマ性とファンタジーというのは相性が良いように思えるのですが、本作はまさにそういう小説であったと感じます。王道を王道でキチンと書けるのはレベル高い。


易者を殺しに来た男
梧桐彰さん
 易者の胡散臭い感じや話が二転三転する感じが楽しかったです。ハードボイルド風味を私は感じました。


双翼リブート!
馳月基矢さん
 当時の閉塞した空気感を思い出しましたし、それを打破しようとする熱意を感じました。コロナ関連が主軸に入った作品はこれだけだったので、そういう意味でも全体を見るとアンソロを引き締めているように感じます。
 爽快な読後感。


破滅沢徒華と幸福なラブコメ
ささやか
 私だよ! 何もないわ! いや、ここまでの作品全部レベル高かったから(結局その後も高かったけど)読んでて恥ずかしかったわ! 以上!


聖なる海とパイナップルワイン。
五色ヶ原たしぎさん
 市亀さんと同様に百合小説なのですが、あちらは運命に対する悲観が感じられる一方、こちらは楽観というか希望が感じられる読み味になっているなという印象でした。
 パイナップルワインや営業部のチャラ男(疑惑)などの配置も上手く、さわやかでした。


だから、旅立ちます
佐倉治加さん
 ハッキリ言って蕎麦屋の常連ヨリさんなんて読者的にも作中的にも大した価値のない存在に位置すると思うのですが、そんなヨリさんを冒頭でピシッと出して物語を広げる力というか文章力みたいなまず上手いなと感じましたし、そこから大きく動かすって感じもなしに進める感じも良かったです。雑なこと言うと、もっと長めのやつ読んでみたいですね。


うんめいまかせ/ちからまかせ
憂杞さん
 本作は上下分割というギミックに目がいきがちですが、やはりそれよりも小説本体としてのディストピア感がきちんと書かれているからギミックが価値を持ちうるのだと思います。
 ちなみに上、下の順に読みました。

10
ねえ、運命って信じる?(ピュアスマイル)
六畳のえるさん
 結婚詐欺の勉強になります(笑)!
 最初から最後まで洒脱なエンターテインメントで、私こういうの好きです。ラストはそりゃ当人同士は幸福でしょうけどねえ、というブラックさも良いです。素直に面白かったです。

11
世界を描け
秋保千代子さん
 時代劇枠です!
 兄弟間のコンプレックスってあるよなーと思います。どっちもありますよね、どっちも。抗えないものと抗えるものがあり、彼等には描くという手段があるのでしょう、きっと。

12
蝶葬
田所米子さん
 雑なこと言うと一番純文学っぽい感じがしました。田舎の閉塞、家族の閉塞、未成年であるという閉塞、閉塞、閉塞、そして絶望の上でモルフォ蝶の青のラスト。砂の詰まった鈍器でぶん殴られるような重みのある小説でした。
 あと、これは私だけだと思うのだけど、一人称で冷淡かつ陰鬱な調子と青い蝶がモチーフで出ることから、つい唐辺葉介のPushukeを連想しました。

13
今さら転生されても
風乃あむりさん
 いわゆるなろう系小説では転生とは運命が好転するポジティブな要素として用いられることが多いと思うのですが、本作の転生はめっちゃ世知辛くて逆でした。生活がリアルで、生きるしかねえって感じでした。世知辛い。

14
運命よ探偵たちのために
飯田太朗さん
 ミステリのお約束でうまく遊んだ短編です。187p下段の「突き落とすなら今かもしれない。」の一文はツボってふふって感じになりました。私の中でここが最高にキレがありましたね。瞬間最大風速です。

15
きれいだよ、ごみ捨て場から見る星は
かみるれ温室さん
 運命で短歌を詠むって結構ハードル高いと思うので、まずそこが凄い。一首選んで、となれば「その髪が~」かな。
 あと見落としてたらごめんなさいですが、タイトルの下の句ってどっか載ってました? 気になります。

16
運命の相手と結ばれないと出られない部屋
黄鱗きいろさん
 こいつらめっちゃキャラ濃いなと思って読んでたので、論文の方で番外編だと書いてあったので得心がいきました。
 デスゲームには何をそそのかされても参加する側に回っちゃいけないと思いました(笑)。

17
タイムトラベラーと焼肉と幸福論
一初ゆずこさん
 タイムマシンという王道SF要素をガッツリ使いつつ、やってることは個人規模に焼肉を食べるだけというギャップ感を使ってヒューマンドラマをやるっていう面白さがある上、さわやかな読後感でした。そして大半の読者が思うとおり、私も焼肉が食べたいです。焼肉食べたい。

18
Death,tinny……
節トキさん
 語りが軽いのに話が重くて読者へのダメージがでかいのは上手さ故ですね。ラストは縋るものが互いしかないという地獄における必然的結末のように感じるので、確かにこれが運命。もし、彼女たちにもう少し何かがあれば違った結末だったのかもしれないですね。「でも、そうはならなかった」というやつです。

19
親愛なるシンドラーへ
富升針清さん
 社会倫理よりも自己の倫理を優先して行動し後悔しないタイプの一人称小説は好みなので、私としてはそっちに着目して楽しく読んでいました。いいですねえ。
 なので、先生が校庭に移動していたのはミステリ的に読み解けるものなのかさっぱりわからなかったので、わかる人教えてください……。私、気になります……。

20
時屋タソガレの来客〜二度目の選択〜
小谷杏子さん
 やー、上げて落とすのジェットコースターで見事にやられましたね。ちょっと前のゆずこさんやつが時間遡行してハッピーエンドだったのもあり、私はすっかりハッピーエンドだと誤信してました。やられたなー。

21
命運会議
鉈手ココさん
 細けえこたあいいんだよ、楽しめ!的なパッションを感じました(笑)。一番はっちゃけてたのはどれと言われると本作な気がします。あとラストのところなるほどねと思いました。読んでる時は気付かなかったです。
 
22
後悔だけを悼む夢
本庄照さん
 過去に戻って手を加えるという点において、ゆずこさんと杏子さんの小説と同じような感じなわけですが、挙げた2作は手を加えた結果として未来が良くなる又は悪くなるというある種スタンダードに則った構成であるのに対し、本作は過去に介入するという行為自体が変えようとした悪しき未来の原因となっており、なおかつその悪しき未来も最悪ではなく次善という捻りがあり、構成の妙味を感じました。
 と、読んでる時はなんか違うなくらいの認識でしたが、感想書く際に頭を整理しました。あとこの構成を使いつつミステリも畳んでコンパクトにまとめてるの地味にすごいような気がするんですが、どうでしょう。

23
カウントダウン・メール
春木のんさん
 祐介の自分に対する粗雑さというか頓着のなさと、それに矛盾するような娘に対する感覚がなんとなくわかるわあって感じで、結局のところ彼は自分より亡くなった奥さんの方が大切だったんだろうなと思いました。本筋とは外れるかもしれないですが、そっちの印象が強いです。

24
賽を投げる私たちについて
黄間友香さん
 人間からすれば彼等こそがそれぞれの運命を差配している存在である(と感じられる)ものの、彼等も同様に変えようのない過去の選択に苦しむという二重構造によるどん詰まり感がよかったです。私達もこの状況でバトンタッチされても手詰まりでしょ……みたいなことありますよね。

25
ミルクと赤い糸
千羽稲穂さん
 不器用な者同士の交流と恋愛につながっていくのかなと思いきや、まあそうなんだけど、そうならなかったですね。まさに背中を突き飛ばされた気分。見事です。ミルクとの断章もあいまって赤が印象的で、映像っぽい感じがしました。
 赤達磨という不穏な語句からホラーになるのかとも思っていましたが、あながち間違っていないようなそうでないような。

26
かたむく。
百百百百さん
 美しくない傾国。被害者と加害者。超常現象が起きる系はわりと信用のできる語り手のケースが多いと思うのですが、これはそう反転するのかというおぞましさがありました。

27
明日はきっと別の顔
陽澄すずめさん
 生活的ディティールが細かで、指輪を買ったとき、私も安易におっこれで好転するのかなと思ってしまいました。でも冷静に考えてまだ小さい子どもがいるシングルマザーが無計画に指輪を買っても、むしろ自分の首を絞める感ありますよね、経済的に……。全体として現実にべっとりと潰されそうな重みを感じました。

28
君の運命の相手が僕だったとして
望月くらげさん
 ファンタジー王道を綾坂さんの小説に感じるとすれば、本作には現代ドラマ的な王道を感じるところです。運命の赤い糸をモチーフにがっつりと恋愛モノ(ただしすれ違う)を書いた本作はラストを締めくくるにふさわしい読み応えだったと思います。英春には報われてほしいですね。マジで。

29 巻頭カラー①(掲載順は2番目)
運命と予言、そして。
井澤文明さん
30 巻頭カラー②(掲載順は冒頭)
糸路
まどいめぐるさん
 イラストはまとめて。
 どちらも美麗なのでいいですよね! 同人誌で口絵があると凝ってるなってポイント高いの私だけですか(いや、私だけではない)! 
 その構成の意図を後ろの論文にのせてくれているのは、絵を描けない浅学な私にはありがたかったです。

ラストの雑感
  たとえば、時間遡行系は3つ(17,20,22)ありましたし、意図的に運命の出会いを作る系も少なくとも2つあったのですが(2,10を想定していますが、16と25も同じカテゴリに入れられるかもしれません)、読み味が全く異なるので、通して読んでいるときは特に何も気づかず、こうして感想をまとめるときに初めて気づきました(なのでちょっと驚いて共有してみました)。
 それくらいバラエティー豊かな作品が揃ったアンソロジーだったなあと改めて思います。
 https://ayame-design.booth.pm/items/3853970


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