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【第9章】 ∞ 〜後編〜【完結】

第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 ∞ 〜前編〜 』

「!!!」

 ハラリと一枚のカードが地面に落ちた。

 無限大を表す『∞』のマークがランダムに印刷された、カードの裏面。

 トランプのカードよりもふた回りほど大きいサイズ。

「間違いない……」

 あの黒ジャージーのピエロが、あたしの腕を掴んで、表面を見せてくれなかった、

「五枚目の占いカードだ……」

 あたしはとっさにカードから離れて、
「どこにいるの!! 出てきなさいよ!! いや、やっぱり、二度と出てこないで!!」

 もしかしたら、この世界もピエロがあたしに見せている夢の中で、
「またなにか良からぬことを企んでいるんでしょ!!」

 ジャリッ。

 公園に誰かが入ってくる足音がして、
 ピエロ……!?
 公園の入口へ鋭い視線を向ける。

「美咲……? 美咲じゃないか……」
「お父……さん……!?」

 数日前にお母さんと大喧嘩をして、家を出て行ったお父さんが、
「まさか、美咲がこの公園にいるとはなあ……」
 照れくさそうに頭をかきながら、
「父さんなあ……学生の頃に嫌なことがあると、めったに人が来ないこの公園に来て、町を眺めながら時間をつぶしていたんだよ……」

「へえ……そうなんだ……びっくりしたよ……」
 どんな顔していいのか分からなかったので愛想笑いで返す。

「なんかゴメンな……」
 お父さんがやつれた表情で謝ってきた。

「会社をリストラされたうえに、母さんと喧嘩して家を飛びだすなんて、ダメな父親だよな……」

「そんなことないよ……」

「父さんな……まさか五十過ぎてからクビになるなんて思ってもみなかったからショックでなあ……。それに、この歳で再就職出来る会社も見つからなくてまいったよ……ははは」

 寂しそうに笑うお父さんの体がしぼんだように小さく見える。

「ねえ、お父さん」
 明るい声で話しかける。
「子供の頃の夢って覚えてる?」

「ん? 子供の頃か……」
 お父さんが夕焼け空を見上げながら、
「電車の運転手になりたかったかなあ……プロ野球の選手を目指してたときもあったし、警察官とか消防士にも憧れてたなあ~~。ああ、それと……」
 いたずらっ子のような笑顔で、
「ウルトラマンとか仮面ライダーみたいな、正義のヒーローになって地球を守るなんて、本気で思ってた頃もあったなあ、ハハハハハ」

 子供の頃の『夢』を懐かしんでいるお父さんの表情が明るく輝いていく。

 やっぱり……。

 お父さんの心の中にも『金色のカラス』がちゃんと生きている──。

「お父さん」
 あたしは、お父さんと手をつないで、
「お母さんも心配してるから、一緒に帰ろ」

 少し照れながらも、あたしの心は新しい『夢』を見つけたことで弾んでいた。

 あたしの新しい『夢』──。

 それは、お父さんとお母さん、あたしの家族みんなが毎日を楽しく過ごせるようになること。

 だから、いまのあたしに出来る、小さなことは……。

「いつも、スマイル、スマイル」

 笑顔でつぶやいたその時──。

 地面に落ちていた5番目の占いカードが、フワッと宙に舞い上がり、キラキラキラと金色の粒子になって消えていった。

「おい、美咲。いまの見たか! カードが空中でパーーッって光って消えて無くなったよなあ! ウワ~~ヤバイよ、ヤバイよ~~!!」

 子供のように興奮するお父さんに、

「これ、絶対にいいことあるよ~~!!」

 あたしはとびっきりの笑顔で返してあげた。

     ✻

 翌日の学校が終わったあと、あたしは自転車で河川敷へ向かった。

 空の番人オオタカと約束していた、牛肉と豚肉を捧げるためだ。

 河川敷に到着したあたしは、用意していたお肉を草むらの上にきれいに並べ、

「お小遣い奮発して、特上のお肉にしといたからね~~~!!」

 上空へ向かって大きな声で伝えたあと、深々と一礼して、自転車にまたがった。

 次に向かったのは、丘の上にある『あたしの公園』。

 公園の周りを囲んでいる樹木の根元に、新鮮なサンマを数匹ずつ置いてまわった。

 カラス時代にさんざんお世話になった、ハシブやカラスの仲間たちへのお礼だ。

「お~~い、ハシブ~~!!」

 青く澄み切った大空へ両手を広げ、

「初代カラスのミサキさんは金色じゃなくて、白銀色に戻ってたんだよ~~!! いろいろ、ありがとねえ~~~!!」
 大きな声で呼びかけた。

「さ~~て、行きますガア~~~!!」

 あたしは自転車のペダルを勢いよく踏みこみ、走り出した。

 これから、生まれて初めて、アルバイトの面接を受けに行く。

 部活を辞めて時間もあるし、家計を少しでも支えたいし、なんといっても、アルバイトをするのが『夢』のひとつだったから、

「やりたいことは、なんでもやってやる~~~!!」

 なんてったって、あたしは、

「超ミラクルガールなのだ~~~~!!」


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