【第7章】 黒雲 〜後編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 黒雲 〜中②編〜 』
黒雲と月と太陽の三者関係を、オオタカから教えてもらったあたしは、あれから一週間後の今日を狙って、ふたたび太陽を目指して飛び立った。
ハシブやカラスの仲間たちには、「ちょっと『金色のカラス』のところへ行ってくるねえ」と軽い感じで、別れを告げた。
ハシブたちも「おお、久しぶりのチャレンジだガア~! 残念会のご馳走を用意して待ってるガア~」なんて冗談を言いながら、笑顔で送りだしてくれた。
これまでに幾度となく、黒雲チャレンジに失敗してきたので、本格的な別れのあいさつは互いに気恥ずかしかった。
でも、今回は、黒雲を突破する自信がかなりあった。
オオタカから教えてもらった二つの情報から、黒雲のイナズマ攻撃を封じる最高のアイディアを思いついたのだ。
「名付けて、『黒雲がイナズマを放てないときを狙うぞ作戦』」
『黒雲がイナズマを放てないとき』とは、『黒雲が光エネルギーを持っていないとき』のこと。
そして、『黒雲が光エネルギーを持っていないとき』とは、『黒雲が月から光エネルギーをもらえないとき』のこと。
そしてそして、『黒雲が月から光エネルギーをもらえないとき』とは、『月が光っていない夜』のこと、である。
『月が光っていない夜』とは──。
理科の教科書に載っている、月の満ち欠け表の中で、ひとつだけ『真っ黒に塗りつぶされている月』がある。
『新月』だ。
月は、満月や三日月、十三夜、十六夜と形を変えて光りながら、満ち欠けを繰り返している。
ほぼ一ヶ月間の周期の中で、太陽の光を受けずに真っ黒な月になるときがある。
それが『新月』だ。
光を発していない真っ黒な『新月』の夜は、イナズマ用の光エネルギーを黒雲はもらえない(はず)。
その新月の夜が明けた今朝を狙って、あたしは飛び立ったのだ。
太陽までもう一踏ん張りのところで、いつものごとく黒雲が現れ、あたしの行く手を阻んできた。
そして、強風と豪雨のダブル攻撃で、あたしを攻めたててくる。
それでもあたしは必死に羽ばたきながら、黒雲の嫌がらせに抵抗し続ける。
実は、地上から天上界までの長距離を十数回も往復し、黒雲の妨害に抵抗してきたお陰で、あたしの持久力と筋力がかなりパワーアップされていた。
「こしゃくなカラスめがあ~~!!」
黒雲の恐ろしい怒鳴り声が辺り一帯にとどろき渡る。
「今日こそはイナズマで焼き殺してやるわ~~!!」
一瞬、初トライのときにイナズマ攻撃をかすめて死にかけた恐怖がよぎり、
「うわわわっ……」
体のバランスを大きく崩してしまったが、
「ぬおおおおお~~~~」
必死にツバサを羽ばたき、なんとか墜落するをこらえた。
「ガハハハハハ!」
黒雲が大声で笑いながら、
「イナズマがそんなに怖いのかあ~~~!! ならば、特大級のをぶちかましてやるわ~~!!」
目をカッと見開き、脅してくる。
「やってみたら?」
あたしの挑発に、黒雲が馬鹿笑いをやめた。
「イナズマが出せるんならやってみなさいよ?」
「なんだと、キサマ~~!!」
黒雲の怒鳴り声に、あたしはますます自信を持った。
「昨日の夜は、月からイナズマ用の光エネルギーをもらえなかったんじゃないの?」
「ああ~~? なに言ってんだ、ゴラア~~!!」
黒雲がものすごい眼つきでにらんでくる。
それでも、あたしはひるむことなく、
「昨夜は新月だったから、お月さんは真っ黒だったもんねえ!」
負けじと黒雲をにらみつける。
「ならば、本当に、特大級のイナズマを喰らわしてやるわ~~~!!」
黒雲がさらにどす黒くなり、すさまじい勢いでうねりだす。
風も雨も狂ったように威力を増し、ついには、超巨大な竜巻、スーパーセルへとトランスフォーム。
あたしは、黒雲の圧倒的に異形な姿を呆然と眺めながら、
『黒雲を本気で怒らせると、何千本ものイナズマで、地上を火炎地獄にしてしまうガア』
ハシブたちが言っていた、黒雲の都市伝説を思いだした。
「これって……」
黒雲が本気で怒ったってことだよね……。
相当、ヤバイってことだよね……。
どうしよう……。
いまだったらまだ、地上へ逃げ帰ることが出来るかも……。
どうしよう……どうしよう……どうしよう……。
弱気な考えがどんどんどんどん、心の中に広がっていく。
黒雲が鬼の形相で、
「何色のイナズマで焼かれたいか言ってみろ!!」
竜巻の体を不気味にうねらせながら脅してくる。
「ん……?」
何色のイナズマで焼かれたいか……?
黒雲ってこんなにおしゃべりな奴だったっけ……?
めちゃくちゃ短気だったよね、コイツ……。
すぐにイナズマ出そうとしてたし……。
「一番強烈なのは赤でなあ……」
間違いない……。
「二番目に強烈なのはピンクでなあ……」
やっぱり、間違いない!!
「アンタはイナズマが出せないんだ! 出せるんなら、もうとっくに出してるはずでしょ!!」
あたしの大声に、激しかった風と雨がピタリとやんだ。
「あたしは人間に戻るために『金色のカラス』に会わなくちゃならないの! 太陽を独り占めしようとか、悪いことはこれっぽっちも考えてないから、お願い!! これ以上、あたしの邪魔はしないで!!」
黒雲は黙ったまま、あたしをにらみつけ、退こうとしない。
こうなったら一か八か、強行突破するしかない……。
黒雲へ向かって、突き進もうとしたそのとき──。
ホォーーーーーーーッ!!
甲高い鳴き声が響き渡り、
「黒雲よ、久しぶりホォ~〜ク……」
あたしと黒雲の間に、オオタカがさっそうと現れた。
「『空の番人』として、こいつが太陽に手を出さないことを、ワレが保証するホォ~ク」
オオタカと黒雲がにらみあう。
「ふん……生意気な奴らめ……」
ふてくされた顔で、黒雲は散り散りになって消え去った。
上空にはふたたび、にこやかに微笑みながらも激烈な炎を噴き上げている太陽が姿を現した。
「おまえのカガクというのも、なかなか役に立つホォ~ク」
オオタカがニヤッと笑い、飛び去っていく。
「あたしも同感……」
学校で学んだことがテスト以外で役に立つことを噛みしめながら、残りのチカラをふり絞り、太陽へ向かって羽ばたいた。
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