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8か月かけてTHE FIRST SLAM DUNKを消化した話

映画『THE FIRST SLAM DUNK』、もはや日本のみならず海外でも話題を席巻しているアニメーションです。

公開から8か月なので、もう全員見てるていで書きます。
ネタバレ必至です。


公開初日、「これは私の見たかった山王戦ではない!」

私はアラフォー、いわゆる週刊少年ジャンプ黄金期に(兄と折半して)ジャンプを毎週読んでいた世代です。
当時いちばん好きだったのは『幽☆遊☆白書』でしたが、『ドラゴンボール』も『SLAM DUNK』も毎週わくわくしながら読んでいました(『ジョジョ』だけ当時は飛ばしていました。なんかページに触るのも怖くて・・・)。
山王戦に入ってからなんてもう、1秒が何ページなのかってくらいの緻密な描写と、息もつかせぬ緊張感で・・・完結したときには意外な結末に思わず力が抜けたものです。さらには兄が『SLAM DUNK』のコミックスも買っていたので、何度も読み返しました。もちろんアニメも見ていました。

こうして自分のなかで『SLAM DUNK』はまごうことなき”神作品”として結晶化していたのです。そんな作品が、2023年になって映画化!? しかも井上雄彦氏自らの脚本・監督で!!!?「今、何年ですか!?」思わず未来から来た人になってしまう私。
現代の技術で、あの神作品が蘇る・・・そんな展開に期待しないファンがいるでしょうか、いや、いるわけがない。私も例外ではなく、映画公開を心待ちにしていました。
ただ一点、直前に公開された「声優交代」の情報が気になっていました。うーん、前売りを買ってからの後出しは・・・でもまあどっちにしろ買ってるからいいか・・・という感じで、12月3日に映画館に向かいました。

オープニング、沖縄の風景。

えっ・・・?となる私。
あ、リョータが主人公なんだ・・・?

とはいえ「やっぱり山王戦だった!!!」という展開に期待が否応にも高まります。しかし―—

「これは私の見たかった山王戦ではない・・・!!!」

鑑賞中に感じた気持ちは、この言葉に尽きます。
なぜなら私が山王戦で好きなシーン、

1)魚住のかつらむき&「泥にまみれろよ」
2)流川の「沢北じゃねーか…どあほう!!」
3)三井の「おう オレは三井。 あきらめの悪い男…」
4)花道の「大好きです、今度は嘘じゃないっす」

全部、なかった・・・

山王戦の合間合間にさしはさまれるのは主にリョータの沖縄から神奈川にくるまでの家庭の事情、湘北入学から現在に至る経緯、令和のコンプライアンス的にショートカットされた三井の暴行事件であり、山王戦における私の好きなシーンの多くがカットされていました。
『SLAM DUNK』=桜木花道が主人公であり、そこが物語の主軸だと思っていた私は、試合中にそれらの回想が挟まれるたび上がりかけたテンションに水を差されるように感じ、少々、いやかなりフラストレーションを感じていました。
だって、「山王戦」が始まった以上、花道の「天才ですから」で終わることを期待してしまうじゃないですか・・・。
あと3Dへの違和感がぬぐえず、これは後半は慣れたのですが。

見終わった私の感情はたいそう複雑なものでした。
これは私の見たかった山王戦ではない・・・けど、脚本も監督も井上雄彦だから、創造神が創ってんだから、これが正しい『SLAM DUNK』なのではないか・・・!!!?
正直なところ「これは賛否両論だろう」というのが私の所感でした。
『SLAM DUNK』の古参ファンのなかには、この改変(改変ではないか・・・なんだろう、アレンジ?でも神がやってるから公式なんだけど)を受け入れがたい(自分みたいな)頭の固いファンもいるだろうと。

実際、公開初日頃は割と賛否両論あった気がするんですけど、いつの間にか賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛賛否みたいになってて、なんかすごい流行って、ずっと公開してて・・・フォロワっさんも絶賛して何回も観に行ってるし・・・

えっ・・・、もしかして私がずれてます・・・?


葛藤し続けた8か月

映画館を出て、『第ゼロ感』を聴きながらも、もやもやが消えない私。

とりあえず周りの人に感想を話してみることにしました。

「『SLAM DUNK』の映画見たんやけど、思ってたんと違った・・・魚住のかつらむきがなくて・・・」
「いや、コート上に部外者が刃物はダメでしょww」
「”大好きです、今度は嘘じゃないっす”もなくて・・・」
「ふつう関係者以外コート入れないっしょwww」

そんな、リアリティ・ラインの堅守のために魚住のかつらむきは削られたというの・・・じゃあ「沢北じゃねーか」は!? いちばん好きなギャグなんですけど!! もしかして当時から井上先生が入れたかったんじゃなくて、編集に無理やり入れさせられたギャグだったりします!? ねえ雄彦、どうなの!!? と情緒が余計に乱されました。

あと『SLAM DUNK』ガチ勢の人に突然「インターハイ福井代表言える?」と聞かれて答えに詰まりました。すみません、しょせんにわかファンです。
※正解は堀高校

もう一回観に行くべきか・・・でももう一回観ても面白くなかったら? 
そう思うとなかなか気が進まず。しかしながらそんな私の葛藤をよそに世間は『SLAM DUNK』でめちゃくちゃ盛り上がっており、タイムラインもスラダンファンアートであふれ・・・「今、何年ですか!?」

ふつうのタイミングで公開が終わってくれればまだあきらめもついたのですが、『SLAM DUNK』は延長に延長を重ね、フォロワっさんたちが楽しそうに応援上映に通う様子を見るだに、なんか自分はすごい損をしているような気がして・・・

もう一回観に行きたい気がする、けど、他に観ないといけない映画もあるし・・・と、別れる決心とかエヴエヴとかシン・仮面ライダーとか刀剣乱舞とかベイビーわるきゅーれとか岸辺露伴とか東京リベンジャーズとか君たちはどう生きるかとかを観ていました。

 で、『THE FIRST SLAM DUNK』の公開がついに8月末で終了するという情報を見て、いよいよ覚悟を決めました。

もう一回映画館で観よう、と。

宮城家の傷つきと再生の物語『THE FIRST SLAM DUNK』

結果から言いますと、号泣しました
なんとよくできた物語なのかと。手のひら返しすぎてつりそうです。
今もサントラ聴いてます。武部聡志は天才やで。

冒頭の沖縄のシーン。父を失った宮城家。仏前で泣き崩れる母。
そんな母に寄り添うリョータの兄、ソータ。
「俺がキャプテンで、お前が副キャプテンだ」
幼い(9歳?)のリョータに、12歳のソータはそう告げます。
改めてみると、すごい決意と覚悟をもった中学生です。しかし、そんな兄が人知れず泣いているところをリョータは目撃します。

そして間もなく、ソータも海の事故で亡くなってしまいます。
夫と長男を失ったリョータの母にとって、ソータと同じようにバスケットを続けるリョータの姿はひどくつらいものだったのでしょう。心の整理もつかないまま、母はソータの私物を片付けようとします。それに必死に抗うリョータ。一家は沖縄を離れ、神奈川へと引越してきます。

自分の気持ちを押し隠すことが当たり前になったリョータ。
それは、バスケをやるうえで、心臓バクバクでも平気なふりをしろ、という兄からの教えでもあります。

周囲になじめないリョータは、一人でストリートバスケのコートでドリブルの練習をします。そこに通りがかるのが非行に走る前の三井
怪我をする前の爽やかな中学生三井は、まるでかつての兄・ソータがしてくれたように、リョータに1on1を持ち掛けます。それにはのれないリョータですが、ここ、三井のファン的には美味しいシーンですよね。言い忘れましたが、私は三井寿の女です(誕生日も一緒)。

一方で山王戦の方も進んでいきます。劇伴がいいんだこれが。アガる
開幕アリウープも良いし、三井のスリーポイントがばさばさ決まるの最高。最近のバスケットボールはリバウンドよりもスリーを決めるのがメジャーな戦略だとか聞いたことあります(どっかで)。そらー飛び道具だもんな。
ていうかけっこうすぐ投げ出しがち・三井と、我慢の男・一之倉の対比とか好きなんだけどそこはほぼカットなんよ・・・
やっぱりギャグは編集の入れ知恵なの? ねえ雄彦・・・

ともかく、試合の要所要所でリョータの回想が入ります。
湘北高校に入ったものの、赤木と合わないと感じるリョータ。しかし赤木が自分を認めてくれていることも知ります。同時に三井から目をつけられてしまい、呼び出されボコられてしまいます。何もかもうまくいかず、家を飛び出し、バイクで事故ってしまうというエピソードまで・・・

危うく次男をも亡くしかけ、母の心はぼろぼろです。
しかしここから宮城家の再生が始まるようでもあります。

リョータは沖縄に帰省します。そしてそこここにある兄の痕跡を辿ります。
兄が一人泣いていた場所で、自分も涙を流すリョータ。感情を押さえつけてきた彼が、ようやく自分の感情に素直になれたシーン。私も気づけば号泣しておりました。

インターハイで広島に行く前日は、リョータとソータの誕生日だったようで。夜、一人でソータのバスケの試合のビデオを観ている母の姿を、物陰から見つめるリョータ。
リョータは自室で母に手紙を書きます。
「生き残ったのが自分でごめんなさい」
そう書きだして、いったんくしゃくしゃにして反故にします。いや、それはつらすぎますわ・・・と観ているこっちも胸が痛くなりました。
結果として、リョータは母に向けて、もう少し前向きな感謝の手紙を書きます。バスケを続けさせてくれてありがとう、的な。そして実は同じとき、母もビデオに映る昔のリョータを見ていたんですよね。
宮城家の止まっていた時計が動き出すような、そんなシーン。

翌朝、手紙を読んだ母は海で泣き、こっそりと試合会場に現れます。
神奈川⇒広島だと3時間半くらいですかね・・・。
試合はまさにクライマックス。

もうさ、結果知ってるのに最高なわけよ(急な沖縄弁)。
後半開始3分で20点離されてからの花道再投入で追い上げてまた離されて、息を吹き返してまた追い上げて・・・
ポールの裾引っ張る花道、パス出す流川、腕も上がんねーとか言いながらスリー決める三井、(魚住のかつらむきはなかったけど)河田に立ち向かう勇気を得た赤木、ちょっと時系列バラバラですけどとにかく山王戦後半はテンション上がる要素しかないんですわ。

リョータが平然とした表情を見せる一方で、SEではバクバクと心臓の音が大音量で響いている、まさにリョータと観客が一体となる瞬間でした。

なんだろう、幼い頃から家の副キャプテンであることを任され、すぐにキャプテン(兄のソータ)を失い、キャプテン(兄の代わり)を務めようとするも上手くいかなかったリョータが、湘北というチームのなかで、赤木や三井といった兄、花道や流川といった弟に挟まれた中間子として、ようやく自分らしく生きられているような・・・そんな感じがしました(リョータ自身も中間子ですね。父が安西先生で母がアヤちゃんだろうか)
(追記:いや、母はメガネくんだな)

そして山王戦のラストはやっぱりあれ、流川から花道へのパス、そして

「左手は添えるだけ・・・(無音)」

ここが無音なのは本当に憎い演出です。これはもう、原作イメージどおり。
ブザービーター、そして花道と流川のタッチ。
熱い。すげえ熱い。しかし改めて見ても流川しゃべらないな、たぶん全部のシーン合わせても3分もしゃべってない気がします。

地元・神奈川に帰ったリョータは母と4日ぶりに海辺で再会します。
そんなリョータの腕に触れ「身長伸びた?」と聞く母。8年の歳月をかけて母が心からソータの喪失を受け入れ、ソータの代わりではなく、目の前の「リョータ」の姿を見ることができた、そんなシーンです。
そこには「ソーちゃんの写真も飾ろうよ」という宮城家の妹の兄への想いも、重要な役割を担っているように思えます。

結局のところ

いやー、ザファ(『THE FIRST SLAM DUNK』)2回目観て良かったです
最初からリョータが主役であり、宮城家の傷つき(喪失)と再生の物語として見ると、とても腑に落ちる構成でした。
リョータの成長と変化を描いた、素晴らしい作品だと思います。

ただ、原作とは別物としてとらえた方がいいのかもしれません。
というか、原作を知らないと感動しきれない気がするのですが、どうなんでしょう(たとえば流川がパスを出すことの意味や、花道の立ち位置など)
アメリカに行くのはリョータなの・・・?という疑問もあり(正直リョータの将来より花道のその後の方が知りたい)

原作は原作として素晴らしい漫画作品。
ザファはザファで、素晴らしい映画作品。
そう分けて考えることが自分にとっては良さそうです。

そんなわけで厄介なオタクは2回目の帰り道も『第ゼロ感』を爆音で聴きながら帰りました。
改めて考えると、三井寿の女には得なんですよね。純粋な三井、非行に走った三井、更生した三井、という3種の三井が楽しめる。私は堀田徳男に最も感情移入できている気がします。
もう1回くらい映画館で観るかもしれません。




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