道草ピーターパン
生きていると、『何が起こるかわからないな』と思うことに出逢うことがある。
きっと他の人からすれば、びっくりするほどのことでもないんだろうけど、俺の中ではそれなりにインパクトのある出来事だったりする。
そして、いつも呟く。
『なんで俺だけいつもこうなるんやろなぁ……』
俺の内側の、なかなかに深い部分から、かすかに危うさを秘めた波動とともにせり上がってくる感覚に押し出されるように、ついついそんな言葉が口から飛び出してしまう。
もともとネガティブとまではいかないまでも内向きな性格ゆえに、不安とか恐怖とかにめっぽう弱い。いわゆるメンタル弱者だ。
そんな俺のことを知ってか、あるいは全くもってそんなことには興味がないのか、神様は絶妙なタイミングで、そして容赦なく、明らかに危うさをまとった現実を放り投げてくる。いや、与えてくださっていると言うべきなのか……
俺はというと、いつもそうなのだが、『なんで今なのよぉ~』と情けない声を心の中で叫びながら、でもわーわー喚くのは品がないなと憚り、でもそれでいてもう不安でいっぱいな仔犬のような目であわあわと忙しい。
そして、そんな動揺なんて当然のようにお構いなく、目の前に現れた現実は、俺をあっという間に飲み込んでいく。
『はぁ……、だからまだ準備できてないんだっての……』
もちろん、そんなことを思うその瞬間には、飲み込まれた現実の中で俺は、車輪の中のハムスターのようにカタカタとものすごい音を立てながら、すでに我武者羅に走らされている。
いつもいつも試されている。
中年サラリーマンは、ハムスターよりも回っているなと思う時がある。
何個も何個も車輪が待っていて、ひとしきり汗をかいたかと思ったら、『はい、次!』とばかりに目の前に新しい車輪が登場する。
嫌だと思っていても、車輪が目に入ってきたら俺は不思議と回りたくなる。
いや、『回らなければならないと思っている』が正しい気持ちなのかもしれない。
そうやって、車輪は数珠のように繋がり、そして横に伸びていく。まるで、いつまでも上昇しない螺旋階段を平行移動しているかのように、俺はカラカラカラと音を立てながら必死に走り続けている。いつかは上に行けるのだと信じながら。
がむしゃらに走って走って、へとへとになったら酒をあおり、疲れをちょっとだけ横に起き、無理やり気分爽快だと脳みそに言い聞かせながら、一気に夢の世界へと落ちてゆく。
『今日もお疲れ!自分!』
いつもそうやって俺は遠くを見つめている。
手にはしっかりとアルミ缶を握りしめながら。
ウトウト、今日もまた書けなかった……
『物書きになって生きていくんだ!』なんて、よくもまぁその歳で言えるわよねぇ。
夢なんだと気づいてホッとする。
だけど、まさにそのとおりだなぁと妙に納得しながらも、凹んでいる自分が情けなくなる朝に、慰めのカフェインを投入して今日も車輪に飛び込んでいく。
いつかは……
いつかは俺も……
俺だって自分らしく生きれるんだ!
大きな原っぱに出て、思い切り息を吸って、誰にも邪魔されない人生をこの手この足で掴み取るんだ!
道草食って、のんびり歩いて、俺が俺であることを噛み締めながら生きていく。
夢だっていい。
だけど、その一歩は絶対に車輪の上じゃねぇからな。
待ってろよ!
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