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名香の解毒剤

ちょっと思い出話をさせてください。

Dior  ヒプノティックプワゾン。

この香りを初めて知ったのは17歳の頃。
頭でっかちの生意気な小娘だった私は学校へ行くのにこのフレグランスをなんと3プッシュも纏っていました。

この香りを嗅いだことのある方ならご存知でしょうが、こんなに重い香りもなかなかないぞというくらいずずーんと重く重く甘い香り。
オリエンタル系もしくはグルマン系と分類され、バニラやアーモンド、ジャスミンなどの濃厚なエッセンスが凝縮されたシンクロノート。

付け方を間違えたまま朝の満員電車に乗り込んでいた過去の私はまさに「香害」でしかなかったことでしょう。
当時周りにいらっしゃった皆さま、その節は本当に申し訳ございませんでした。。(土下座)

当時の自分には全然似合わない香りだったのに、そこから何年も、私のお気に入りは変わらずこちらでした。
背伸びしたいお年頃だったのね〜。
今では笑い話です。

大人になり好みや自分の立ち位置も変わり、万人ウケする爽やかな香りも愛せるようになってからはしばらく離れていました。
が、何度引っ越しても、棚の中を断捨離しても、何年も前に手に入れた真っ赤な毒林檎のようなこのボトルがどうしても捨てられず。
時間が経ちすぎていて本来の香りとは変わってしまっているかもしれませんが、今、美容を嗜む者としてこの香りを改めて知りたいと思い久しぶりに引っ張り出してきました。

嗅覚は脳と密接な関係にある、というのは有名な話です。
当時の思い出あれやこれや、この香りと共に過ごしていた数年間がワーーーっと蘇ってしばらく動けなくなりました。
そして、こうして誰が興味あるねんという思い出話など綴り始めてしまったわけですが。

この物凄い香りを生み出したのはどこのどなたなのだ、と、調香した方を調べましたら。
その香りへの独創性と前衛的な姿勢から「魔女」と呼ばれたアニック・メナードさんという女性でした。
オリエンタル系が得意なようで、重め甘めの香りを多く生み出されているようでした。
(面白いことに、私はこの方の調香した香りを好んで集めていたことが発覚しました。)

それにしても。
久しぶりに纏ってみると、空きっ腹にワインでもぶち込んだかのようにクラクラする。
たまに「浸りたい気分」なときに取り出してほんの少し纏うくらいが今の私にはちょうど良い加減かも。
大人であり社会人であり母であり、という自分を忘れてどこかふんわりとした暗くて温かい場所に沈んでしまいそうになります。

脳が考えることを拒否する、危険な香りです。

高校生の頃何の躊躇いもなくこの香りを纏えたのはまさに若気の至り、無知ゆえ。
今の私はこんな香り、恐れ多くて纏えません。

いつかこの香りを臆せず手に取れる日が来るのでしょうか。
酸いも甘いも噛み分け、すべてを受け入れた大人の女性に似合う色気と毒と諦念、そして優しさを感じさせる名香。

何年経とうが捨てられるはずもなく、そっとまた棚へ仕舞いました。
まさにヒプノティックプワゾン、催眠性のある毒。
解毒剤は存在しないようです。

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