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名作で辿る、鳥取の地方映画史と自主上映史Part1――SCOOLシネマテークに寄せて③

8月19日(金)〜8月21日(日)に、佐々木敦さんの運営するスペースSCOOLで、新作と過去作を織り交ぜた特集上映を行うことになりました。このnoteでは、何回かに分けて上映作品の紹介と、作品をより楽しめるかもしれない裏話&制作背景を書いてみようと思います。第3回は、長編ドキュメンタリー『映画愛の現在』三部作について。

鳥取の自主上映活動——『映画愛の現在』三部作

2016年に東京から鳥取に移り住み、この土地を舞台として撮った初めての長編が『映画愛の現在』三部作です。映画館が県内に三館しかない鳥取で、自分たちが見たい(見せたい)映画を見るべく自主上映活動を行う人々についてのドキュメンタリー。鳥取という場所と出会ったことも、この映画を撮ったことも、私にとって大きな転機となりました。

「見る場所を見る」——地方映画史への関心

『映画愛の現在』を制作する中で、いわゆる「地方映画史」への関心が高まっていきました。鳥取コミュニティシネマ倉吉シネマクラブ米子シネマクラブといった団体が自主上映を行なってきた背景には、やはり鳥取の映画事情への不満があるはずです。それぞれの団体が活動を始めた時、周辺には映画館があったのか、どんな映画を見ることができて、どんな映画を見ることができなかったのか。それを知らなければ、自主上映活動の本当の意義を理解することもできないのではないか……。
そのように考えて、2021年度から「見る場所を見る——アーティストによる鳥取の映画文化リサーチプロジェクト」を開始。2022年1月には、鳥取市内にかつてあった映画館とレンタルビデオショップをClaraさんによるイラストで再現する展覧会を開催しました。さらに今年度は、鳥取県西部の米子市と境港市の映画館とレンタルビデオ店のリサーチを始めています。

Clara《シネマスポット フェイド・イン》2021

名作で辿る、鳥取の地方映画史と自主上映史 Part1

というわけで、ここからはSCOOLでの『映画愛の現在』三部作上映をさらに楽しんでいただくために、映画史に残る名作や人気作が鳥取で上映された記録を辿ってみることにしましょう。なおこのリサーチを行うに当たっては、鳥取にかつてあった映画館・世界館フェイド・インの研究を行なっている杵島和泉さんにご協力いただきました(ありがとうございます!)。

D・W・グリフィス『イントレランス』(1916)

4つの時代の「不寛容」を描くグリフィスの大作は、どうやらリアルタイムで鳥取で公開されることは無かったようです。確認できた限りでの初上映は1989年6月25日。 自主上映団体「鳥取シネマ倶楽部」の第9回例会として、市民コミュニティーセンターホールで上映されました。

牧野省三『豪傑児雷也』(1921)

児雷也、綱手姫、
大蛇丸が活躍する最初期の特撮時代劇。 鳥取では1921年8月に川端の帝国館で上映されました。主演の尾上松之助は鳥取でも絶大な人気を誇り、1915年には「目玉松之助」と名乗る松之助の偽物が芝居興行を行ったこともあったそうです。

『鳥取新報』1921年8月10日付

チャールズ・リーズナー『キートンの蒸気船』(1928)

笑わぬ喜劇役者バスター・キートンの代表作の一つですが、これも鳥取でリアルタイムで上映された記録は見つかっていません(当時、キートンの他の作品はいくつも上映されていたようです)。『キートンの蒸気船』の鳥取初公開は、おそらく1995年5月18~28日に鳥取県民会館で行われた「TOTTORI映画フェスティバル95」。とは言え、この時期はもうビデオの普及後なので、すでに自宅のテレビで鑑賞済の観客も多かったかもしれません。

ロイド・ベーコン『フットライト・パレード』(1933)

バスビー・バークレーによる圧巻の
バークレー・ショット(万華鏡ショット)が楽しめるミュージカル映画。鳥取では1935年8月に帝国館で上映されました。

『因伯時報』1935年8月1日付

ジョン・フォード『駅馬車』(1939)

ジョン・フォードとジョン・ウェインによる西部劇の傑作『駅馬車』は1940年10月30日に帝国館で上映されました。「これこそ大衆待望の映画!!!」「何が起るか?激しい不安に観てゐる貴方もわくわくする」など期待度の高さが窺える文言が並ぶ広告です。

『日本海新聞』昭和15年10月30日付

マイケル・カーティス『カサブランカ』(1942)

ハンフリー・ボガートと
イングリッド・バーグマンが共演し、戦火が近づくフランス領モロッコで繰り広げられる恋愛劇『カサブランカ』は、戦前に公開されることはなく、敗戦後の1946年9月に帝国館で上映されました。しかしどうしたわけか、鳥取ではさっぱり当たらなかったようです。

『日本海新聞』1946年9月12日付

ハワード・ホークス『三つ数えろ』(1945)

ハンフリー・ボガード主演のフィルムノワール。鳥取では1955年5月にスバル座で公開されました。他にも『マルタの鷹』や『裸の町』『キー・ラーゴ』『キッスで殺せ』など50年代に上映されています。

『日本海新聞』1955年5月24日付

山本嘉次郎『ハワイ・マレー沖海戦』(1945)

後にゴジラやウルトラマンを
手がける円谷英二が特撮を担当した、東宝製作の戦争映画・国策映画。
日本中で大ヒットし、鳥取でも1943年2月に末廣座で上映されて好評を博しました。

『日本海新聞』1943年2月15日付

ロベルト・ロッセリーニ『無防備都市』(1945)

1951年6月に米子館で上映された『無防備都市』をはじめとして、ネオレアリスモは鳥取でも人気があったようで、他にも『自転車泥棒』や『戦火のかなた』などの作品が上映された記録が残っています。この頃からすでに、ネオレアリスモを語るために「リアリティ」という語が用いられていたのですね。

『日本海新聞』1951年6月29日付

今回は戦前から戦後すぐに公開された作品をピックアップして、駆け足で紹介しました。SCOOLでの『映画愛の現在』上映までに間に合うかは分かりませんが、Part2(1950年代以降)もいずれ公開したいと思っています。

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