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#19 駅のベンチを予約したかったあの頃

駅のベンチを予約して使ったことがある人はいますか?あるいは、予約できるベンチがある駅を知っている人はいますか?多分いないと思います。今日はそんな、「駅のベンチを予約したかったあの頃」の話です。


いつも前向きでポジティブ?

50歳で会社を辞めて海外へ博士留学などというと、「これまでさぞかし順調な人生を歩んできたのだろう」と思われるようなのですが、実際は全く違います。僕のことをよく知る人は、僕がいつも過去のことでクヨクヨばかりしていて、なかなか前を向いて歩き出せないのを知っています。自分でも、次のように考えています。

未来には何もない。過去には事実がある。「現在」は常に移動する過去と未来の境界線なので、ある意味存在しない。

基本的には、過去から未来が紡ぎ出されていくのだと思います。そんなこともあり、意気揚々とヨーロッパへ出かける前に、まるで故障した潜水艦が海底に横たわるように動けなかった時代の自分を振り返っておきたいと思います。きっとそこから、何かが出てくるはずです。

辛かった頃の、話をしよう

自宅は埼玉県にあり、当時の勤務先は都心にあったので、まずは池袋へ出るというのが埼玉県民の定番通勤ルートとなります。「埼玉県民は池袋は埼玉にあると思っている」というジョークがあるのですが、本当にそんな感じです。なので、「池袋まで」と「池袋より先」で通勤時の感覚が異なるのです。池袋から本当の通勤が始まるような感覚でした。

AI の勉強をして海外へ出よう、と決める前の数年間は、本当に会社へ行くのが嫌でした。仕事は充実していて楽しんでもいたし、人間関係に辟易していたというわけでもありませんでした。それなのに、通勤の足は池袋駅でぴたっと止まりました。「ここから先へ行きたくない……」と身体が動かなくなる感覚でした。理由は数年経ってから分かったので、あとで答え合わせします。

ホームに降りると、反対側には自宅方面へ行く列車が入ってきます。「あれに乗れば家に帰れる……」と思って、本当に乗って帰ったことも何度もあります。電車の中で会社へ欠勤のメールを打ち、槇原敬之さんの1993年の曲「ズル休み」の歌詞を思い出しながら、がら空きの反対方面電車に揺られていました。

でも、ほとんどの日はそこで踏ん張って、会社へ行くわけです。そこで頼ったのが駅のホームにあるベンチでした。家から飲み物を持って行き、毎朝そのベンチで5分〜10分、お茶を飲みながら休憩して、池袋より先の「本当の意味での通勤」に向かうのを日課にしたのです。その頃毎日休憩したのが、写真のベンチです。

このベンチ、予約したいなあ

このベンチは、埼玉方面から着いた列車から、地下鉄方面へ乗り換える連絡通路の手前にあり、ファンが多いベンチでした。日によって空いていたり空いていなかったりで、僕が好きな向かって一番左側は埋まっていることもよくありました。そんな時は別の席に座り、「お気に入り」の席が空いたら席を移動して、

よし、今日もこのベンチに座ったので、大丈夫。会社行こうか……

というのが自分の中での決まり事になっていました。そこで思ったのは、

このベンチ、〇〇時〇〇分から〇〇分まで、月500円で、予約できないかなあ

でした。そのくらい、「そのベンチのその席」に頼り切っていたのです。この記事を書くにあたって改めてその場へ行き、もう一度座って、「長い間ありがとう」と心の中で声をかけてきました。

大きな挑戦を前に、怖くない訳

渡欧を前に多くの人と食事や飲み会の席をご一緒しました。異口同音に、「大変な挑戦ですね、怖くないんですか?」と聞かれます。適当に、「そりゃあ怖いですよ〜」とか言えばいいのでしょうが、実際には、全く怖くありません。なぜなら、落ちるところまで落ちた経験があって、どうすれば浮き上がれるか分かっているからです。上の潜水艦の例がわかりやすく、余計なエネルギーを使わないように海底に軟接地して不具合を直したら、後は浮上するだけです。海底より下には、落ちようがありません。

また、座りに来るからね

あの頃、仕事も楽しく仲間にも恵まれていたのに、なぜか会社へ行けなかった、行きたくなかった理由は、昔教えていた学校の生徒たちが教えてくれました。というのも、池袋駅のそのホームは昔教えていた学校に通う多くの生徒が乗り換えで利用するので、毎日生徒たちの制服姿を目にしていたからです。

かつての勤務校の生徒たちを見ていて思ったことは……

生徒たちはとても優秀で、「将来は国連で働きたい!」と夢を語っていた生徒が本当に国連職員になったり、「将来は女優になる!」と目を輝かせていた生徒が本当に大女優になって連続ドラマに出たり、「一生歌を歌い続けたい」と話していた生徒が本当に歌手になって、毎年ソロライブに呼んでくれたり、そういう経験を数多くさせてもらいました。

どうしても嫌で怖かったのは、仕事内容でも人間関係でもなく、「毎年、毎月、ほぼ同じことを繰り返す仕事で、一度しかない人生の時間が減っていくこと」だったのです。これは、駅のお気に入りのベンチを予約しても、解決する問題ではありません。そう気づいて、潜水艦の浮上スイッチを押す決心がついたというわけです。

きっとヨーロッパでも何かがうまくいかず、もうやめてしまいたいと思うことがあると思います。そんな時にはあのベンチに戻ろうと思います。あそこで1時間くらい座って考えれば、きっと方法が見えてくるように思います。朝行けば、変わらず生徒も通っていて、何か教えてくれるはず😉

今日も読んでくださって、ありがとうございました🪑
(2023年7月28日)

長い間、どうもありがとう!


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