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Flow into time 〜時の燈台へ〜 スピンオフ編 #2 : 少しだけ種明かし✨

【物語は無事完結!】
 先月十日の「時の記念日」にスタートした小説『Flow into time 〜時の燈台へ〜』をお読みいただき、本当にありがとうございました。
 高校時代以来30年以上ぶりの小説チャレンジということで、最初は暗中模索でした。しかし途中からは、アキにユーリ、リンにナミ、そして七会と探夏が自分で動き出してくれて、僕はその後をついて回って記録すれば物語が自然に完成した感じでした。本当に幸せな一ヶ月半の執筆期間でした。
 今日は、スピンオフ編の第二弾として、この物語の構造や、その他思い出深い点について書きたいと思います。もし、「まだ読んでないよ〜」という方がいらっしゃいましたら、こちらより読んでいただけるととても嬉しいです。



物語は実話?

「この物語は実話ですか?」という疑問をお持ちになる方が多いように思うので、変な憶測を生まないためにも、ここでご説明しておこうと思います。小説『Flow into time 〜時の燈台へ〜』は、今年2024年を描く外殻(登場人物名はカタカナ)の中に、29年前の1995年という内殻(登場人物名は漢字)が入った二重構造になっています。物語中の出来事は、その二時代の実際の出来事と、その二時代以外の実際の出来事を混ぜて八割程度を構成しました。完全な創作部分は、全体の二割程度です。分類としては私小説になると思います。

実在の人物をモデルにした登場人物も多いですが、もちろん名前はすべて変えてあり、重要な登場人物のうちの一人は、完全に架空の存在としました。作中、ロンドン在住のアキの彼氏マコトが推理した通り、発掘現場の「福井県一乗谷」と、校内着の「タブリエ」が、現実との接点ということになります。

場所に目を移して、物語の始まりとなった「山荘郵便局」に『道の曲がり角』調査本部が置かれた「ドライブインひいらぎ」、さらに七会と探夏がココアフロートを注文した「ピザバルーン」、初デートの場所となった「南仏キッチンタブリエ」、そして、『道の曲がり角』の名前の由来となった二人の一日が始まる交差点、これらはすべて名称は異なりますが、実在する、あるいは実在した場所がモデルです。

作中で重要な役割を担った音楽作品と印象的なシーンで用いられたお酒の数々は、すべて実在しますので、明日公開するスピンオフ編 #3 で音源と写真を含めてご紹介したいと思います。お楽しみに。

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文学専攻の方ならゾクっとした第1話

読者の中にもし、文学専攻の方、特にアメリカ文学が専門の方がいらっしゃったら、きっと第1話の『カスタムハウス』というタイトルを見て、「嘘でしょ⁉︎」と驚かれたことと思います。その点についてご説明します。

本作の全体構造は、アメリカの小説家、ナサニエル・ホーソーンの1850年出版の代表作、The Scarlet Letter(邦題:『緋文字』)から取りました。この作品では、序章で税関からとある書類が発見されるシーンが描かれ、書類に描かれていたのが、主人公へスター・プリンの物語ということになっています。そしてその序章のタイトルは、「The Custom-House」、つまり「カスタムハウス」なのです。Custom-House とは英語で税関の意味ですが、僕の小説ではそれをなんとホームセンターの名前にしてしまいました。ホーソーン学者の方から不敬罪で訴えられそうです(涙)ちゃんと分かって使っているので、許してください!

引用元サイト:https://digitalcommons.lmu.edu/mobydick-asc-galleryexhibit/61/

世の中にはこの構造を取る作品が他にも存在します。村上春樹さんの『ノルウェイの森』では、三十代になった主人公が、ドイツのハンブルグに降り立つ飛行機の中でビートルズの『ノルウェイの森』を聴き、その曲から過去を回想するという構造になっており、書類と楽曲の差はあるものの、似た構造です。

作品の外側まで見ると、実はカナダ文学の名作『赤毛のアン』も同じ形です。作者のルーシー・モード・モンゴメリは『赤毛のアン』の原稿を、1905年に出版社数社に送りますが、採用されず返送されてきました。モードはその原稿を、家の帽子入れの箱にしまってしまいます。それを数年後に見つけて、「この物語はやはり世に出る価値がある!」と思い立ち、再度別の出版社に送ったところ、無事採用され、ご存じの通り世界中で愛される物語として1908年に出版されました。

おそらく、「どこかにしまわれて長年眠っていた書類から、新たな物語が始まる」というのは、古今東西を問わず人間がモチーフにしてきた類型なのだと思います。学問研究の世界ではよく、「巨人の肩に立つ」(先人の知恵をふまえた上で、その「次の一歩」を加える研究をする)と言われますが、それを文学の世界で実践したつもりです。ホーソーンの『緋文字』は、本作で描かれたのと同じ1995年に、デミ・ムーアさん主演で映画化もされました。

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意外と気を遣った時代考証

1995年は探夏と同じく僕が大学4年生だった年ですが、29年という年月はやはり長く、時代考証に多少の労力がかかりました。例えば、七会がかつて罹患したとされる病気の「ヒステリー性失歩症」は、現在では「転換性歩行障害」に名称が変わっています。差別的な印象を抱かせる「ヒステリー性」が取り除かれたことを、下の七会の台詞で表現しました。

でも、『ヒステリー性失歩症』だなんて、失礼な病名だと思う。将来的にもう少しましな名前になればいいのに、って今でも思ってる

第8話『むらさきいろの海』より

第14話の『永遠の4日間+1』では、『マディソン郡の橋』を観るために「アンプの入力をVHSデッキに切り替えて」という記述が登場します。この部分も、当初は DVD と書いてしまっていました。しかし調べてみると、家庭用 DVD プレーヤーが普及したのは2000年以降とあったので、1995年を舞台とする本作では、VHSテープの記述に変更しました。

さらに、時系列が複雑だったのは東海道新幹線内で売られていた、「とても固いアイスクリーム」でした。調べると、アイスクリームの販売は昔からあったものの、あの「固い」アイスクリームの発売開始は1991年頃で、名古屋市に本社のある「スジャータめいらく」が製造しています。さらに、2023年10月31日に、「のぞみ」「ひかり」普通席でのワゴン販売が終了、「こだま」のワゴン販売はそれより11年前の2012年に終了しています。
 1995年という小説の時期がちょうど、「こだま」で「とても固いアイスクリーム」を買える時期であることを裏付けるまでに、色々と調べました。個人的に、新幹線の「とても固いアイスクリーム」に思い入れがあるので、どうしても作品の名脇役として、使いたかったのです。今は正式名称も「シンカンセンスゴイカタイアイス」となりました!

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有り得ない! シーンほど実話でした

本作ではいくつか、「そんなこと、あり得ないでしょ!」というシーンが登場し、友人たちから「あれって実話? まさかね……」という質問を受けました。しかし「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもので、「あり得ないでしょ!」というシーンほど、実話だったりします。例えば……

第2話『副塾長のハイヒール』で、七会と探夏が勤める学習塾の「副塾」こと副塾長が、履いていたハイヒールを脱いで食事中のテーブルにのせる話、これは実話です! 僕の目の前で起きましたが、「目が点になる」とはあのことを言うのだと思いました。当時を知る方が小説を読んでくださり、「懐かしいですね」とメールを下さいました。現場となった焼肉レストランは、今も変わらず営業しています。

第11話『無伴奏独奏』で、「南仏キッチンタブリエ」での初デート中に七会が語った初恋の思い出。電車が揺れるのに合わせて、目の前の席に座っている、気になる男子の膝の上に倒れ込めとクラスメイトにそそのかされて、七会はこんなことをしました。

「両方の学校の生徒だけじゃなくて、通勤の人たちもみんな見てる中、私は彼の膝の上に斜めに座って、五秒ほど彼の顔を見つめたんです。彼も私の顔を見つめていた……」

第11話『無伴奏独奏』より

これも実話です! この「彼」は実は僕自身でした。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

第14話『永遠の4日間+1』で七会が、映画『マディソン郡の橋』を「探夏さんの膝の上に座って観たい」といったシーン。これは、ことの成り行きには多少創作が入っていますが、七会が探夏の膝の上に二時間座って映画を見たという部分は、実話です! 次のユーリの感想は、その通りだと思います。実際には、探夏はとても足が痺れたそうです(笑)

「これって、膝の上に五秒間座ってるんじゃなくて、二時間座ってるの? この二人、過激……」

第14話『永遠の4日間+1』より

同じく第14話『永遠の4日間+1』での以下の記述、これも実話で、僕と母、祖母の三世代旅行をした時の話です。群馬県の法師温泉という山奥の一軒宿で、僕が一人で混浴の主浴場につかっていると、オーストラリアから来たという妊婦さんが入ってきて、隣同士でお湯に浸かりながら、天井から下げてある毛筆の温泉の効能書きを英語で説明しました。ご主人は混浴が恥ずかしくて来なかったそうです。

アキとユーリは一度だけ、群馬県の温泉へ二人で旅したことがある。完全な男女混浴の温泉で、昔は脱衣所さえなかったらしい。二人が湯船に浸かっていると、オーストラリアから来たという男性が入ってきて、アキは壁に掲げてあった毛筆体の効能書きを英語で説明した。見知らぬ男女が一緒に湯船に浸かって話をするというのも実に自然で、アキは七会と探夏が一緒にお風呂に入ったのも、そんな感じではなかったのかと思った。

第14話『永遠の4日間+1』より
アキとユーリが説明した効能が、写真上部中央に見える 〜 右側の壁に見える四角い仕切りは、脱衣所がなかった時代に脱いだ浴衣を置いておく場所だったそう(写真は下で紹介した公式HPより)

この部分を読んで、読者の方から感想を頂きました。個人情報を抜いて少し編集したものをご紹介します。アメリカの温泉だったそうです。

夜は満点の星空を眺めながら、人口の光はほとんどないので混浴ですがシルエットしか見えません。 朝に入ると太陽の光がさんさんと降り注ぐ中、初対面の男性と2人きりでひとつの湯舟につかることもあって。 太陽のもと、カタコト英語で会話する全裸の男女、とても健康的ですよね。

日本から一緒に行った男性は2人いたのですが、 その男性二人とも一緒の湯舟に入って話をしました。 日本だったらバーでお酒を飲みながら話すような内面の話を、地球の恵みともいえる温泉につかって星空を眺めながら話す…… 

今でもあの時の自然な穏やかな気持ちは忘れられないです。 特別でもなんでもなく、自然だったんですよね。 小説を読んでいて、その時の気持ちをありありと思い出しました。

読者の方から頂いた感想

せっかくですので、このシーンのモデルとなった群馬県、法師温泉をご紹介します。とってもいい温泉です。「源泉掛け流し」どころか、主浴場の真下から温泉が沸いている、特別な一軒宿です。

最後に、第16話『七会のすべて』で、別れの直前に七会が探夏の胸の上に両足で乗るシーン、これも実話だそうです。部屋が引越し前のように空っぽだったのもその通りだったそうですが、場所は七会の部屋ではなく、探夏の部屋だったそうです。七会の思い切りの良さが素敵ですね。

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明日は「創作大賞 2024」の締切日です。『Flow into time 〜時の燈台へ〜』も最後の一手ということで、「スピンオフ編 #3」として、作中で重要な役割を果たしてくれた楽曲を音源と共に、名脇役として登場したお酒の数々を写真と共にご紹介したいと思います。どうぞお楽しみに。

今日もお読みくださって、ありがとうございました✨
(2024年7月22日)

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